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目を開けると土の天井と心配そうなナディルの顔が見える。
ーーそうだ、宝珠を見ていたら目眩がして気が遠くなってしまったんだ
ライナは今見ていた夢を思い出す。
ーーあれは夢だったのだろうか。それとも昔の記憶?
ぼんやりした頭で黄土色の天井を眺めているとナディルが声を掛けてきた。
「ライナ、大丈夫?」
ナディルを見ると不安そうにライナの顔を覗き込む。
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけ」
「無理させてごめんね、急な環境の変化に疲れたのかな?
今日はここでゆっくりさせてもらって体調が良くなってから王都に戻ろう」
そう言ってライナの頭を優しく撫でる。
ライナはさっき夢で見たセファの手の温もりを思い出した。
「水はここに置いておくから。何か欲しいものはある?」
そう言ってベッドの横の小さな卓の上に水の入ったデキャンタとガラスのコップを指し示した。
「大丈夫」
「俺は隣の部屋に居るから、何かあったらすぐ言うんだよ」
顔色の良くないライナの額に少し触れてナディルは心配そうに言う。ライナの額は冷んやりと冷たい。貧血でも起こしたのだろうか。それなら今はゆっくり眠るのが一番だろう。
「ゆっくりおやすみ」
そう言ってナディルは名残惜しそうに部屋を出て行った。
ナディルが出て行き、静かになった部屋でライナは考えた。
さっきのは本当に夢だったのだろうか。
ライナは確かに水の精霊の力を使える。
ナディルの言う“父親が精霊で母親が人間”が本当であるなら、ライナは何の力も持たずに生まれてきて、セファから分けて貰った事によって精霊の力が使える様になったのだろうか。この憶測は辻褄が合ってしまう。
ーーこの力はセファの力?
もしそうならば、彼は力を分けた事によって不自由はしていないのだろうか。お礼を言った方がいいのだろうか。でもただの夢かもしれない。
ぐるぐると考えている内に何の確証も得られぬまま再び眠りの中に落ちていった。
次の日の昼頃、ライナは硬いベッドの上で起き上がる。体調は大分良くなったが、ここ暫く王宮のふかふかのベッドで寝ていた所為か、土の上に布を置いただけのベッドは身体が痛い。凝り固まった身体をほぐす様に身体を伸ばした。
部屋の外へ出ると、昨日の喧騒が嘘の様に洞窟内はしんと静まり返っている。
ライナは隣の部屋のドアをそっとノックする。コンコンと乾いた音が静寂の中に響く。
ドアはギイっと小さな音を立てて開いた。中からいつもの優しい顔のナディルが顔を出す。
「おはよう、ライナ。しっかり寝れた?体調はどう?」
「大分良くなった。迷惑掛けてごめんなさい」
ライナは目を伏せて言った。
ナディルはライナの顔を覗き込む。顔色は昨日よりは良くなっているが、元々色白の所為もあってか決して健康的とは言えなかった。
「まだあまり顔色良くないよ?
そうだ、お腹は空いた?」
「あんまり……」
ライナは呟く様に答えた。
「でも昨日もろくに食べてないでしょ?ちゃんと食べなきゃね」
ナディルはライナを食堂へと連れて行った。昨日の宴会場とは別の、仕事中にも休憩の取れる小さな簡易食堂だ。
ナディルはライナを座らせると、奥の台所へと消えて行った。奥からカチャカチャと金属音が聞こえてきて、ふんわり甘い匂いが漂ってきた。
暫くしてナディルは穀物をミルクで煮た粥を運んできた。ほんのりシナモンの香りが漂う。口にすると優しい甘さが広がった。
「食べられそう?」
ナディルはライナを覗き込む。
自分は赤い肉の挟まった黒パンのサンドウィッチを囓る。
「雪道を歩くのは大変だから今日はゆっくりさせてもらおう。
折角だからみんなが起きたら、武器を鍛えた貰おうか。工房は凄いからきっと驚くよ」
いつもの様に優しい笑顔でにっこりとして言った。




