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ナディルが戻ってきたのは、昼前だった。
太陽は頭上高くまで昇り切り、眩しいほどの日差しが降り注いでいた。ライナとカハクは聖堂脇の木の下で木陰を作る白いベンチに座って待っていた。
「ごめん、待たせたかな?」
片手を軽く上げて、聖堂を出て行った時と変わらぬ笑顔で戻ってくる。
「用件は御済みになりましたか?」
「うん、取り次いでくれてありがとう」
満足そうな顔のナディルに、カハクは簡単に事情説明する。
「実は私、暫くここに残る事に致しました。
お兄様にこんな事申し上げるのは変かもしれませんが、ライナの事宜しくお願いしますね」
そう告げるカハクに、ナディルは何か事情があるのだろう、と詳しく突っ込まずに小さく頷く。聖職者が自分の教会を離れる事の方がよっぽど珍しい。
「そっか……残念だけど、仕方ないね。ライナの事は俺が責任を持つよ」
まるで自分が御荷物みたいな言われ様に、ライナはむっとする。
自分の事くらい自分でできる、と言おうと口を開こうとするが、2人のお喋りは止まらない。
「ライナは方向音痴で、思い込みの激しいところがありますから……」
「そうだね。それに無口で誤解されやすい」
「本当は優しい子なんですが……
それから偏食の気があるので気を付けて下さい」
「確かに、野菜や穀物ばっかり食べる傾向があるよね」
「そうなんです。それに見ていないとすぐ朝食を抜くんです。酷い時は昼食まで」
「だからあんなに細くて小さいんだ。気を付けて見張っておくよ」
2人は本人を目の前に、まるで保護者の様な口振りで言いたい放題だ。
ライナは反論したくても、全て事実なので言い返せない。でも、もうその辺にしてほしい。
それに……と、続けようとする2人に慌てて口を挟む。
「わかったから!なるべく気を付けるから……!」
顔を背けて紅くなるライナを見て、2人はちょっとからかい過ぎたかな、と反省する。
でもそんな様子もかわいいな、と微笑ましく思いながら、ナディルはライナの頭に軽く触れる。
「ごめん、ごめん。ちょっとデリカシーが無かったかな。
そうだ、お昼はライナの好きなものを奢るよ」
ライナの機嫌を取ろうと、優しく振舞う。
「……昨日も奢ってもらったからいい」
昨日の夕食も俺が誘ったんだから、と払わせてくれなかった。あの店はきっと高かったんだろうな、と思い返す。
「そんな事言わずに、お兄ちゃんらしい事をさせてよ。
今までずっと何もしてあげられなかったんだから」
拗ねた口振りのライナに、ナディルは甘い声で食い下がる。
「ライナは穴あきチーズと燻製紅魚の棒パンサンドが好きなんです」
ナディルに味方したカハクはそっと彼に耳打ちする。
棒パンサンドはこの地方の名物で、色々な具材を挟んだものがある。出来あいのものもあるが、自分が選んだ好きな具材を挟んでくれる専門店が多い。
肉があまり好きではない様子のライナが、穴あきチーズと燻製紅魚のそれを注文して食べていたのを何度か見た事があった。
「ちなみに美味しいお店が広場の東側にあります」
にっこりと微笑むカハクに、良い事を聞いたと頷くナディル。
ライナはこの2人に勝てる気がしなかった。




