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シロガネはルーケルセルヴに移り住み、王から国境警備の仕事をもらった。定期的に各地へ赴き、獣人達の襲撃や侵入が無いから見回った。各地で兄の所在を尋ねながら獣人達の排除もできる。王なりの気遣いによるものだった。しかし、兄の居処は依然として知れず、シロガネ達を襲った獣達にも出会わなかった。時間がけが悠々と流れていく。シロガネは焦りが募った。
二ダヴェリールの何処を探しても見つからない兄。彼が死んだとは考えられない。もしかしたら1人で仇を打ちに獣人達の元へ向かったのかも知れない。そう考えたシロガネはアルフヘイムへと忍び込んでいた。
鼻の良い彼らに見つからに様に行動するのは多大な気力と労力を要する。細心の注意を払いジャングルを歩く。沢山の蔓草が密になりカーペットの様に形を成し、木の上を覆い尽くしている。あんなに何度も地図を確認したのに、この森はまるで人を呑み込む迷路だった。何度も見た同じ様な木々に方向感覚は奪われていく。蛇の様にうねった枝が行く手を阻み、絡み合い縺れ垂れ下がる。足元は草と苔に埋め尽くしされている。一度戻った方が良いのだろうが、それすら叶わない。仕方なく、がむしゃらに歩いていたら土色の大きな神殿に辿り着いた。神殿の周りだけ草や苔が引き、黄土色の地面に囲まれている。入り口から中を覗くと、滅多に使われていないのか、所々草が生え、埃っぽく、人気が無い。暑さから逃れたい気持ちもあり、神殿の中に身を寄せた。壁にもたれ掛かり座り込むと、冷んやりとした温度が背中を伝ってきて気持ちよかった。安堵による気の緩みからか意識が遠退く。
足音が聞こえ、我に返り身構えと、獣人の少年が目を丸くして立っていた。シロガネは立ち上がり剣を構える。少年は慌てて腕に抱えていた果実や穀物の入った籠と酒の入った甕を素早く置くと、姿勢を低くした。
相手の懐まで走り込み、剣を振るが、軽く避けられてしまう。すばしっこい動きに翻弄される。動きは目で追えるが、次の行動の予測がつかない。思いもよらない方から攻撃が飛んでくる。長い廊下を走り回っていると、突然眩暈がして膝を付いてしまった。慣れない蒸し暑い気温と、ここ迄の果ての見えない長い道のりに体力が奪われていた。この場所との相性も良くないのだろうか、神殿の奥から不気味な気配を感じる。
折角のチャンスなのに、少年は何故か攻撃を止め、近くまで来てしゃがみシロガネを覗き込んだ。
「大丈夫か?」
少年は持ってきた果物を差し出した。どうやら殺す気は無いらしい。
「……いいのか?」
頷く少年から果物を受け取ると行儀作法など忘れてその実に齧り付いた。柔らかな丹色の果実は果肉が柔らか鮮明なくオレンジ色をしていた。強い甘味と豊かな香りが口一杯に広がる。喉が潤い、身体が貪欲に吸収をしているのを感じる。夢中で食べていると、果汁が滴り、口元や手が汚れた。その様子を見て彼は笑いながら別の果物を差し出した。
「もっとゆっくり食べろヨ。ほら、まだあるカラ」
「……すまない」
そう言って、シロガネは今度は黄蘗色の実を受け取った。少年は村を襲った者達と全く違った種族だった。シロガネが探しているのは、もっと身体が大きくて、その体に不釣り合いなほど小さい丸い耳と長くしなやかな尻尾をしていた。少年は彼らとは違う大きくふさふさした銀色の尻尾を左右に振っていた。
腹も満たされ、落ち着くとシロガネは少年に尋ねた。
「別の種族の獣人を探している。丸い耳と細くて長い尾を持つ体格の良い奴らを知っているか?」
少年はうーん、と考え込んで、もしかして……と切り出した。
「黄土色に漆黒の斑点模様の奴らカ?」
「そうかもしれない……身体の大きいやつらだ」
新月の夜だった。はっきりと模様まではみえなかったが、大きな身体と長い尻尾は見間違えない。
「もしアイツらなら、特定の場所に長く居ないんダ。常に獲物を求めて動き回っていル。
少し前までこの辺りを荒らしていて、オレ達も困っていタ。親父が追っ払ってくれたけどナ」
見つからない訳は、各地を転々としているからなのだろうか。そして精霊だけでなく獣人にも手を出している事がわかった。無差別で問答無用なのだろう。
「とにかく荒くれ者で好戦的で迷惑なヤツらダ。狩りをゲームだと思ってイル」
忌々しそうに話す彼を見て、当たり前だが、獣人にも色々いるんだと改めて思う。彼に対しては不思議と嫌な思いはしなかった。
「なぁ、オマエ、名は?」
少年はシロガネを真っ直ぐに見て、名を尋ねた。瞳が太陽みたいだとシロガネは思った。
「シロガネだ」
「オレはガイ=オーラム」
シロガネが答えると、嬉しそうに彼も名乗った。
「お前、彼奴らを探しに行くのカ?オレが協力してやるヨ!」
どうゆう訳か自分は彼に気に入られたらしい。ガイ=オーラムの提案を、シロガネは頼もしく思った。彼の方が奴等に幾分も詳しいだろう。
「でも、ちょっと待っててくレ。今、面倒事を頼まれてて……直ぐに片付けるから、手伝ってくれないカ?」
ガイ=オーラムはにかっと白い牙を見せて笑った。




