表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略済みの戦国世界に転移した私、無双して明智光秀を救ったのに歴史がズレ始めた  作者: 西住


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

第十一話「知らない分岐」

風が、少し強かった。


安土の空は高く、雲が流れている。


春日部は廊下を歩きながら、空を見上げた。


その時。


「春日部殿」


声がして、隣に人影が並ぶ。


丹羽長重だった。


まだ少しだけぎこちない立ち方。


だが、その目はまっすぐ前を見ている。


「父は……なぜ、ああ言ったのでしょうか」


静かな問い。


春日部は、少しだけ考える。


「んー……」


言葉を探すように、空を見る。


そして。


「たぶんさ」


ぽつりと、落とす。


「もう“違う戦”だって、わかってたんじゃない?」


長重がわずかに目を細める。


「違う……戦」


「うん」


軽く頷く。


「たぶん、うちらがやってるのって——」


少しだけ言葉に詰まる。


うまく言えない。


でも。


「今までのやつと、違う」


それだけは、確信できた。


沈黙が落ちる。


風の音だけが、通り抜けた。


「いい顔してるじゃねえか」


割り込む声。


振り向くまでもない。


前田慶次。


柱にもたれ、いつものように笑っている。


「は?」


春日部が眉をひそめる。


「“読めなくなった顔”だ」


一瞬、言葉が止まる。


「……そんな顔してる?」


「してるな」


即答。


慶次は楽しそうに笑った。


「最高だぜ」


(いや、最高って何)


春日部は内心で突っ込む。


だが。


否定は、できなかった。


(……読めてない)


それは事実だった。


以前なら。


スマホを見ればよかった。


流れを確認して。


次の一手を決めて。


それで、勝てた。


でも——


(もう、ない)


ポケットの中に、あの重みはない。


確認もできない。


戻れない。


(……なのに)


それでも、わかることがある。


(おかしい)


それだけは、はっきりしていた。


その時。


「——失礼」


静かな声が、場に落ちた。


気づけば、そこにいた。


一人の男。


派手さはない。


むしろ地味だ。


だが——


なぜか、目が離せない。


「……誰?」


春日部が警戒する。


男はわずかに頭を下げた。


「使者だ」


それだけ。


簡潔すぎる答え。


「どこの」


慶次が口を挟む。


男は、淡々と答えた。


「羽柴」


空気が、わずかに変わる。


春日部の心臓が、嫌な音を立てた。


(来る)


そう思った。


戦が。


次の流れが。


——だが。


「羽柴は、これ以上の戦を望まぬ」


その言葉で、全部が止まった。


(……は?)


頭の中で、何かがズレる。


(いや、それはない)


(そこは戦うとこでしょ)


知っている。


はずだった。


この先の流れを。


でも——


「条件は一つ」


男は続ける。


間を置かずに。


「——私を預ける」


沈黙。


風の音だけが響く。


「……は?」


春日部の口から、素直に漏れた。


長重も言葉を失っている。


慶次だけが、面白そうに目を細めていた。


「それは……どういう意味だ」


長重が問いかける。


男は視線も動かさず、答える。


「そのままだ」


説明はない。


補足もない。


ただ事実だけ。


(意味わかんないんだけど)


春日部は頭を押さえたくなった。


(確認できない)


(調べられない)


(でも——)


(おかしいのは、わかる)


それだけが、はっきりしている。


「ねえ」


思わず口を開く。


「それ、納得してるの?」


男の視線が向く。


「している」


即答。


「理由は?」


一拍。


そして。


「そうなるからだ」


「いや意味わかんないんだけど」


思わずツッコむ。


男はわずかに首を傾げた。


「結果が先にある」


「……は?」


「理由は後からついてくる」


理解できない。


でも——


言っていることは、妙にブレていない。


「いいねえ」


慶次が笑う。


「お前とは真逆だ」


「どこが」


春日部が睨む。


慶次は肩をすくめた。


「お前は“理由で結果を作る”」


そして、男を見る。


「あいつは“結果に理由を合わせる”」


沈黙。


風が、また吹いた。


その時。


足音。


慌ただしい音が近づいてくる。


「報告!!」


伝令が飛び込んできた。


息を切らしながら。


「羽柴陣営にて——」


一拍。


「内乱発生!!」


空気が、凍りついた。


「……は?」


春日部の思考が止まる。


長重も言葉を失っている。


慶次だけが——


「ははっ」


笑った。


「来たな」


男は。


大谷は。


静かに目を閉じる。


「……そうか」


それだけ。


「いやいやいや待って!?」


春日部が一歩踏み出す。


「その反応おかしくない!?」


「想定内だ」


「どこが!?」


声が裏返る。


だが。


大谷の表情は変わらない。


揺れない。


(なんなの、こいつ)


理解できない。


理解できないのに——


(怖くない)


それが、余計に気持ち悪い。


沈黙が落ちる。


風が吹く。


空は、相変わらず青い。


春日部は、ゆっくりと息を吐いた。


(もう、わかんない)


(どこからズレたのかも)


(何が正しいのかも)


全部、曖昧だ。


でも——


視線を上げる。


慶次がいる。


大谷がいる。


長重がいる。


そして五右衛門


(進むしかないんだよね、これ)


誰も止まっていない。


なら、自分も止まれない。


空を見上げる。


(攻略じゃない)


一拍。


(これは——)


ほんの少しだけ、笑う。


(ほんとに、“戦”だ)


風が、強く吹いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ