108 シンシーの憂鬱
いつもご愛読ありがとうございます。
※この物語は、この部分以降、
『ZEROミッシングリングⅢ』に続きます。
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お手数ですが、移行お願いいたします!
『ZEROミッシングリングⅠ 始まりの音』
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が、最初の章です。小説を分けていますが、全部同じ話です。流れはⅠⅡⅢの順です。
その日、ウヌクはたくさんの買い物袋を抱えて河漢に来ていた。ヴァーゴも同行している。
「あのー。います?」
戸を叩くと、ダーっと、たくさんの子供たちが玄関に押し寄せる。玄関と言っても土間のような感じだ。
「いますーー!!!」
「たくさんいますー!!」
「だれですかーーー!!!」
「だれにあいにきましたかーー!!」
「…っるせーな。」
ぶつくさほざくウヌクを、年上の女の子が怪訝な顔で見て言った。この前洗濯をしてくれた子だ。ウヌクのせいではないのに、ムギの結婚の話をするので警戒されてしまったのだ。
「ムギ姉はいないですよ。トゥルスもいないです。」
「何だその目は。俺は怪しいもんじゃないぞ。」
「知ってるー!この前のおいちゃんだー!!」
「あなたはだあれ?」
「おじさん誰ー?」
「このお兄さんのお友達です。」
ヴァーゴも答えておく。
「私知ってるよー!」
ムギ姉の次女が得意そうに言った。この前慣れたはずなのに、ムギ姉の長女がヴァーゴを見てまた泣き出す。
「な!お前、仲良くなったのになぜ泣く!嫌がらせか!」
ウヌクはサッサと用事を済ますことにした。
「この前のスニーカーを取りに来たんですけど。」
「あ!あれね!」
この前スニーカーを洗っていた女の子が、袋を持って来てその場に靴を出した。なぜかウヌクだけでなくみんなしゃがみこみ、子供たちみんなが見物人となる。
「キレイになったでしょ?」
玄関で袋を開くと、きれいになったスニーカーが出てきた。
「ね?」
「ほんとだー!きれー!」
「おおきいくつだねー!!」
「29センチだって。お父さんよりおおきいよー!」
「私のパパは30センチだよ!」
「私は100センチ。」
「お前は15センチだろ。」
実は小学校中学年くらいまでは、どんどんサイズアウトしていくため、みんな履きつぶさなかったお古を履いているので、テキトウでサイズが分からない。
「ちゃんとネット検索見て洗ったんだよ。高い靴って言ってたから。」
うるさい中、女の子が満足そうなので頭を撫でてやる。
そして、お礼にとかわいい小さなチョコの袋を出すと、少女は目をキラキラに輝かせ受け取った。
「お兄ちゃんありがとう!!!」
するとみんなわあっと、チョコに集中する。
「ファクトがお前らのお菓子を食べたからな。お礼とお詫びだ。」
と、先持って来た大きな袋を出すが、ウヌクが立ち上がって袋を上にあげるので、飛びついて来たチビッ子たちは受け取れない。
「今、お母さんたちいないの?」
「お母さん寝てる。」
「あ、起こさなくていいぞ。じゃあ、この中で一番のお姉ちゃんは?」
洗濯の子が手を挙げる。
「なら君に預けるから、後でみんなで食べろよ。」
とりあえず、今食べられるように1箱だけ出して後は洗濯の子に渡す。3袋あり、大きな2つの袋は背の高い子たちに渡した。
「このガキンチョどもが一気に食わないように気を付けろよ。」
「みせて!みせて!」
しかし、あまりにもチビッ子が年長の子に飛びついてくるので、年長の子たちが動けない。仕方なくウヌクたちが家に入り、ここならいいだろうと冷蔵庫の上に置いた。
が、帰ろうと玄関に向かおうとしたところで、
「おにいちゃーん。トルテたちが悪いことするんだよー!」
と呼ばれる。信じられないことに数人の男の子が、隣に並べてあった、上に開けるタイプの冷蔵庫に上って簡単に取り出してしまった。
「はあ?!」
ビビるウヌク。
「お前ら危ないし!」
1人の子を降ろしてもう1人降ろそうとしたが、幼稚園年長ぐらいの子がタッと飛んでお菓子の箱を抱え逃げていく。そこをヴァーゴが子供ごとキャッチし、そして、男の子は年上の子たちに叩かれる。
「登らないでって言ったでしょ!怪我するよ!」
「低い冷蔵庫は丈夫だし倒れないもん。」
「そもそもみっともないんだよ!」
「うわー!!!」
と、お菓子泥棒は逃げながら笑っている。
一人っ子のウヌクには理解できない。
何だこれは。一揆か。
何なんだこいつら。と思っているうちに、ムギ母が起きて来た。
「皆さん、ごめんなさい。ヴァーゴさんもお久しぶりです。」
既に菓子の食い散らかした状態の家の惨状に、お母さん、唖然とするが疲れているのかボーとしている。
「あんたたち!片付けしなさい!全員並んで!!!」
上の子たちが指導しても、小さい男の子とそれを真似する気の強い女の子たちが全く言う事を聞かない。
「あの、こんにちは。この前より増えている気がするのですが…。」
「ああ、大人が引っ越しを手伝っていて、他にも知り合いや親戚の子が来てて。お昼ご飯あげたら疲れちゃって寝てたの。」
「私もお手伝いしたんだよ!」
「僕はお皿洗った!」
と、小学生たちが間髪入れすに喋ってくる。
「あんたは邪魔してただけでしょ!」
「お兄ちゃん。わたし卵に塩入れたんだよ。」
幼稚園児が、褒めてとかわいく攻めてくる。
「デリバリーにしたかったのに、作るって聞かなくて…。」
「…お疲れ様です…。帰りますのでまた寝ていてください。」
「もう?お茶でもしていったら?」
「この後、スケジュールがあります。」
「残念、お菓子ありがとうございます。うるさくてごめんなさい。」
「こちらこそ、ありがとうございます。それにしても…本当に子供元気ですね。」
「そうなの。なんかウチの国で生まれた子よりも、アンタレスに来てから生まれた子や、ハーフの子たちの方がすっごく元気で、いうことも聞かなくて………。気のせかな。国にいた頃はここまで大変じゃなかった気がするんだけれど。」
確かに年少園児の子たちが騒がしいというか、破壊力がすごい。アンタレス。魔境か。
「じゃあ、俺たち行きます。」
と、言ったところで玄関に向かったウヌクが最大に落ち込む。
「…。」
玄関先でウヌクの靴を出して小さい子が履いていた上に、そのままお漏らししていたのだ。
もちろん、靴がオマル替わりになっている。
「あー!ミオくん!いつ起きたの?!!」
2歳の子はさすがにあの子供の渦に入れられないと、ムギママと一緒に寝てていたのに、いつの間にかオムツを脱いで遊んでいたらしい。
なに?という顔で、キョトンとしているミオくん。
「限定スニーカーなのに…。」
「今度から河漢に来るときは安物を履いてきなよ。お兄ちゃん。」
ヤンキー座りで沈み込んで頭を伏せるウヌクをヴァーゴや年長組が慰めた。
***
「リーオ!バレエやめてアジアに早く来なさい!」
「え、姉さん。無茶言わないでください。」
曽祖母の法事で蛍惑に戻って来ていたリーオは、義姉シンシーの勢いにひるむ。身内と酔った親戚以外だいたい集いも終わったのだが、義姉が絡んでくる。
「アジアにもバレエ団があるでしょ?!」
お茶をすすって姿勢を正す。
「この前、響とデートしたんだけど…。」
「響さん?」
少し反応するリーオである。
「倉鍵の総合病院からスカウトが来たんだって!」
ダンと机を叩く。
「断ったのにまた言われたって!!響を推してる先生、男らしいし!これは絶対なんかあるよ!!」
「…だいたい男か女だと思うけれど…。」
「そーじゃないでしょ!それにね。大房のあいつらは眼中にない、ちょろいと思ったのに蛍惑の友達たちがイケる!とか言うんだよ!!あ~。どこが~。」
「…。」
イケるとは誰の事だろう?と考えるリーオ。
「響の家は絶対にきちんと結婚式とか披露宴すると思うんだけど、まずその関門にも耐えられないよ。奴ら!式の準備も嫌がりそう。
それどころか、両親顔合わせとかも無理!!縁や敷居を踏まないというマナーさえ知らなさそうだし。玄関先で追い出されるパターン!!!」
「…シンシー。無理を言うなよ。」
夫が隣に来て呆れている。シンシーが婿候補を追い出しそうだ。
「えー!だって、響は絶対に披露宴とかこじんまりでいいしだろうし、ドレスもそこそこでいいっていうタイプだから、私がドレスオーダーや会場がんばっちゃおうと思ったのに~。」
「…今時、義母でもそんなところまでしませんよ。」
「というか、なぜシンシーが仕切るんだ。」
リーバス兄弟が呆れている。
「響の、親への手紙に私の名前が出てきたら泣いちゃう~。」
いやいや、親への手紙だからと思う兄弟。
「大房のあいつらが義息子、義兄弟になるなんて絶対いや~!!!くやしい~!!」
ならない。ならない。結婚してもならない。
段々おかしな方に騒ぐシンシーに、シンシー夫は、響は絶対にリーバスに来ない方がいいと思うのであった。
シンシー、既に義姉でなく、お姑である。