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無人島生活62話 ダンジョンの終わりに「なんでやねん!」と叫んだモデル

 発狂寸前の心理状態。

 こんな洞窟の中に閉じ込められて、どうしろっていうの……!

 地下何百メートルに閉じ込められた人々を救出した、というニュースを何度か見たことがあるが、ここではそんな希望もない……。


 自分たちが閉じ込められたことなど誰も知らない……。

 どれだけ待っていても救助はこない……。

 洞窟の壁がこちらに迫ってきているような錯覚を感じた。

 エリーは閉所恐怖症ではないが、トラウマで閉所恐怖症になりそうだった。

 

 吐きそうだ……。

 だから、引き返そうって言ったのに! 

 死んだら化けてでてやる。

 あ、そのころにはみんな死んでるのか。


 エリーと潤弥は地に這いつくばって、絶望に暮れていたが、後の奴らは平常心を保ったままだった。

 人間じゃねぇ……。

 なんつうメンタルしてんだ……。


「とにかく出口に通ずる通路を探すのだ」


 龍之介が命じた。

 背負った編み籠の中に入れていた、たいまつ代わりの棒に火を移して一人一人に配った。


 たいまつだって有限なのだ。

 このたいまつと、隊長が持っている光源をすべて使い果たせば、光の差さない完全な闇の世界になる……。


 エリーたちは壁沿いを針の穴を見るような目で探し回った。

 隠し通路……。

 隠し通路……。

 眼鏡眼鏡……と探し回る人間のようであった。


 この空間の広さを例えると、学校の二部屋ほどの広さだ。

 教室一部屋の広さが約64平方メートル、ほどだと言われている。

 大体130平方メートルくらいの広さ。


 大人が七人で探せば、すぐに見つけられると高をくくっていた。

 壁に張り付いて、ぐるっと一周探したが隠し通路など見つからなかった。

 忍者屋敷みたいな仕掛けがあるのだろうか……。


「開けぇー、ゴマ!」


 モーリアンは叫んだ。

 ・・・・・・・・・・・


「何やってんの……?」


「いやー、隠し通路が開くか思うて」


「そんなんで開くわけないでしょ……」


「やってみなわからんやん」


「まあ、そうだけど……」


 モーリアンは色々な呪文を試していた。

 どこかで聞いたことがある呪文も混じっていたが、まったく知らない呪文もあった。


 中には「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり!」という悪魔召喚の呪文まであった。


 当然隠し通路が開くどころか、悪魔すら現れなかった。

 いや、悪魔は現れたのかもしれない。


「我を呼んだのは貴様か。フフフフ、グフフフフ、ガハハハハ!」


 中二病である龍之介は真っ先に飛びつきそうな話題だったね。

 

「そうや。うちが貴様のマスターや! うちに従え!」


「代償は貴様の命だぞ」


「よかろう、うちの命をくれてやる。悪魔メフィストフェレスよ、隠し通路を見つけるんや!」


「我の名はメフィストフェレスではない! クロノスだ!」


「誰か、突っ込む人いるの!」


 延々とボケ続ける二人にエリーはツッコミを入れた。

 壁側に通路はない。

 地面も探した。


 モーリワンのここ掘れワンワンセンサーも駆使したが、反応はない。

 本当に信用できるか、定かではないが。

 入って来た通路を無理やり開けると、海の底に沈む……ということは、ここは海の下……。


 意気消沈している潤弥とエリーは、壁際で走馬灯に思いを馳せていた。

 何はともあれ、良い人生だった……。

 死ぬ前に彼氏が欲しかった……。

 なんてことを悔いるエリー。


 使い物にならない二人をよそに、龍之介は壁に刻まれたオタクーゴを頭の中で読み返した。


『おまえたちは袋のネズミなんだなぁ。この部屋のどこかに、隠し通路があるんだなぁ。ここから抜ける方法は隠し通路を見つけるしかないんだなぁ。無理やり入り口をこじ開けようとしたら、この空間は海の底になってしまうんだなぁ。外に出たければ、死ぬ気で出口を探すしかないんだなぁ』


 無理やり入り口をこじ開ければ、海水が流れ込んできて、海の底に沈む。

 この空間の上は海。

 なだらかに洞窟を下ってはいたが、海の底に着くまで下っただろうか?


 入り口ははじめから神々の頂の麓にあった。

 それだけで、標高は百メートル以上は登ってきたはずだ。

 洞窟に入り蛇行しながら、ゆっくりとここまで下って来た。


 ここは岩山の下であっても、海の底だというのはおかしい。

 外に出たければ、死ぬ気で出口を探せ――。

 次に進みたくば、ではなく外に出たければと記されているわけ。


 死ぬ気で――。

 龍之介の頭の中でジグソーパズルのピースがはまりはじめた。

 そうか――フフフハハハ、わかったぞ。


「わかったぞッ! 謎は全て解けた! じっちゃんの名に懸けて、真実はいつも一つ!」


「色々パクり過ぎだろ!」


 音は上昇気流のように上に吸い込まれていった。


「出口に通じる隠し通路の場所がわかったぞ」


 みなは一斉に龍之介を見た。

 中でもエリーと潤弥は蜘蛛の糸にしがみつくカンダタのように、龍之介の足にすがりつくなり泣いた。

 龍之介よ、カンダタを助けてくれ。

 糸を切らないでくれ!


「本当! 嘘だったらただじゃ置かないわよッ!」


「我は嘘をついたことなど一度もない! 我の話を信じるのなら、とにかくみな準備体操をするのだ」


 どういう意味なのかわからず、みなポケ―ッとした。

 隠し通路を見つけることと、準備体操に何の繋がりが……?


「溺れないために準備体操をしろといっている」


「溺れる? 何言ってるの。あたしたちは出口を探しているのよ……」


「簡単なことだったのだ。何百メートルも我々は洞窟を下っていない。海の底などおかしな話だ。我の想像が正しければ、この上に地上に通ずる空洞があるはず。隠し通路とは天井にある」


 龍之介はゴリッチに命じて、入り口の岩に刺激を与えた。

 さすがのゴリッチで、巨大すぎる岩を持ち上げることはできなかった。

 だが、すぐに暗黒の天井から水が蛇口をひねったように落ち始めた。


「あそこだ。あそこから、外に出られる」


 龍之介は海水がバケツをひっくり返したように流れ出てくる、天井を指さした。

 賽は投げられた。

 エリーたちは溺れないために準備体操を入念にした。

 海水が段々湯舟のように密閉された空間に溜まりはじめた。

 どれだけ体操をしても、恐怖で体がかじかんだ。


「大丈夫だ。我を信じろ! みな無事にここを抜け出せる」


 龍之介は力強い声で鼓舞した。

 そうだ。

 中二病でおかしな奴だが、今まで頼りになる男だったではないか。

 変な男だけど。

 変な男だけど、大事なことだから二回思った。


 龍之介が言うんだから、大丈夫。

 変な男だけど。

 海水は下半身まで浸かった。

 すぐに足がつかなくなる。


「体力を温存するのだ。泳ぐのではない。ラッコのように浮かぶのだ。この水は海水だ。浮力はある」


「あのときのラッコ泳ぎやつ伏線だったのー!」


「ラッコ浮きはこうやで。無理に浮かぼうをするんやない。逆に体を海水に沈める感じで浮かぶんや」


 モーリアンはお腹の上に手を置いて、海水に浮かんだ。

 エリーたちもモーリアンを見習い、海水に体を浮かべた。

 服が空気を溜めて、ぷっくりとふくらみ浮き輪のように見える。

 みな体を寄せ合い、川の字に浮かんだ。

 

「灯りを消すんじゃないぞ……!」


 潤弥の声は震えていた。

 ゴリッチと隊長の持つたいまつの灯りが消えてしまえば、世界は暗黒に閉ざされる。


 三分の二、水が溜まった。

 洞窟の天井が見えた。

 天井の一点から、ゴウゴウとナイアガラの滝のように轟音を轟かせながら海水が出ていた。


「ゴリッチ、隊長。頼むわよ……」


「ああ、任せてくれ」


「心配いらないよ」


 天井ギリギリまで水が溜まった。

 みな息を大きく吸った。

 ゴリッチと、隊長にしがみついた。


 鯉の滝登りのようにゴリッチと隊長は、洞窟に水が満ちると同時に水が流れていた通路を抜けた。

 十メートルほど上に向かって泳いだ。

 目の錯覚などではなかった。

 海面に光が見えた。


 後は自力で泳ぐ。

 空気を求めて、光を求めて、土からはい出ようとする植物のように、泳いだ。


 みなはほぼ同時に海面に顔を出して、息を大きく吸った。

 目が慣れるまで、明るさで何も見えなかった。

 やっと目が慣れて、周囲を見回した。

 そこは横穴になっていた。

 

 洞窟の入り口から光が差していた。

 海岸の絶壁にできた横穴なのだろう。

 海から潮が流れ込み、ザーザーと気持ちのいい音がこだましていた。


 太陽に照らされ、大きな影絵が壁面に現れた。

 陰を作っている正体を確かめると、水に浮いた大きな船だった。

 これが……海賊たちが乗って来たって言う……船……。


 いや……海賊たちの船にしては――。

 そのときだった。

 横穴中に反響して、大きな拍手が巻き起こった。

 波が壁を打つ音だと一瞬思ったが、間違いなく拍手の音だ。


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」


「リアリティー無人島漂流ショ~、クリアおめでとう」


 どこからともなく、知らない人物の声が鳴り響いた。

 これ、どういうこと……。 

 クリア……?

 リアリティー無人島漂流ショ~?

 

 おめでとう……?

 番組?

 どどどどどどどどどどどどどどどど、どいうこと。


「なんでやねん!」


 無意識にその言葉が口をついて出ていた――。

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