無人島生活37話 これはスポーツであっても、遊びではない 後編
スポコン漫画やドラマ並みの、怒涛の応酬が繰り広げられていた。
先に一セットだけ取った方が勝ちだと言うのに、なかなか得点が両者とも入らず一進一退の攻防。
ゴリッチの殺人球を隊長は容易に受けた。
力の削がれたボールをエリーが拾い、トスを上げる。
ゴリッチチームも同じように応酬が続く。
隊長が放った拳銃射撃を受け、力を相殺してからモーリアンが拾う。
ぶっちゃけ、生身の人間であるエリーやモーリアンが二人の球を受けたら死ぬ。
超スポーツアニメや漫画で、必殺技を使う奴も受ける奴も人間を辞めているのだ。
何よりも凄いのはボールではないだろうか。
たかが木の皮で作ったボールが二人の力を耐えているのだ。
この試合のMVPはボールにやるべきだ。
試合をはじめてすでに三十分以上が経過しているが、十対十の互角だった。
生身の人間であるエリーの体力は限界に近かった。
「エリーっち。息が上がっとるで。リタイアしたらどうや」
「へっ、あんただって似たようなもんじゃない。疲れたんだったら、リタイアすれば」
「うちはまだまだいけるし! 疲れてるのはそっちやろ」
バチバチと火花を散らす二人。
十回以上のリレーの末、やっと一点が入る熱戦ぶり……。
「なかなかやるじゃないかッ! さすが十種目競技のチャンプだなッ!」
隊長はこの状況下で笑っていた。
笑っているのは隊長だけではない、ゴリッチも同じだ。
「俺様とやり合えるとはやはりただもじゃなかったようだなッ!」
ゴリッチは覚醒している。
これはスポーツであっても、遊びではないのだ……。
この二人がチームを組めば間違いなく世界を狙える。
試合をはじめて一時間。
たった一セットに一時間。
得点はゴリッチチームが23点。
隊長チームが23点のこれまた互角。
この得点のほとんどが、モーリアンとエリーの失敗によるものなのだから、二人が失敗していなければ延々とリレーは続いている。
超人二人は集中力も息も切らさずに、闘い続けていた。
「そろそろ、本気を出そうか」
隊長は十キロもあるサングラスを外し、砂浜に投げた。
サングラスは砂の上に沈む。
何度も言うがバトル漫画!
「ほう、今までは本気ではなかったと?」
「その通りだよ。ゴリッチ君」
「フフフ、ハハハ、グアハハハッ。実に面白い。なら、俺様も隊長に敬意を示し、本気を出すことにしよう」
二人の体から黄金のオーラが放出された。
このままでは、マジで死者が(死ぬのは間違いなくエリーかモーリアン)出かねない……。
「行くぞッ!」
隊長は超人的な跳躍力で天高く舞い上がり、サーブを打ったッ!
爆発音が轟き、火の玉となって相手コートに落下する。
まさに隕石と言っても過言ではない。
ゴリッチは体を丸め、両手でクッションを形作った。
火の玉と化したボールはピンポイントでゴリッチの手のひらに吸い込まれ、強烈なスピンがかかる。
皮膚とボールの摩擦で煙が上がり、ゴリッチの手は真っ赤になっていた。
「おおおおおりゃあああああッ!」
威力が削がれたボールは天に舞い、太陽で逆光になった。
うう……眩しいで……。
だがゴリッチが命を懸けて受け止めたボール、落とすわけにはいかんぜよッ!
モーリアンは両手の平で太陽を隠し、ボールの軌道を追った。
フィールド外に出たボールを何とかトスし、ゴリッチに意思を託す。
「いっけええぇえええええっ! ゴリッチいいいいいいいッ!」
天高く舞い上がり、太陽の光を背にしてゴリッチは渾身の力をボールに叩き込む。
腕は完璧な軌道でボールの真ん中を捕らえた。
はじめは包み込むように、そしてゆっくりとインパクトが掛かり、ボールのスローモーションでへっこんだ。
すべての力がボールに伝わったとき、バンッ! 爆発音が鳴った。
それはボールの破裂した音だった。
木の皮は風に舞い散り、朽ちていった。
さらばボールよ、よくぞ今まで耐えた。
安らかに眠れ――。
「ボール壊れてもうたで。隊長が丁寧に扱わんからや」
「いや……最後に打ったのはそっちじゃない。てか、今まで破裂しなかったのが、不思議だわ。今までよくボールは耐えてくれたわよ」
「どうするんや。どっちが勝ちなん?」
「同点だったのだから、引き分けでいいだろう」
「僕も引き分けでいいよ」
今まで火花を散らしていた二人は、意外に勝利にはこだわっていなかった様子。
「何でなん。あのままやってればうちらが勝ってたやんか!」
「それをいうならあたし達の方が勝ってたわよ!」
「まあまあまあ、勝ち負けが問題じゃないよ」
ゴリッチは興奮した馬をいなすように、にらみ合う女二人の間に割り込んだ。
「はじめに言っていたことと話しが違うやん! 勝つゆうとったやん」
「いや~、テーション上がっててついつい口走っちゃったんだよ。楽しければ勝敗なんて関係ない」
「ゴリッチがそういうならそれでええわ。まああのままやっとったらうちらが勝っとったけどな」
エリーが言い返そうとしたとき、隊長が先に口を開いた。
「ああ、体力的に私は限界だった。あのままやっていれば、先に体力が尽きていたのは私の方だったと思う」
嘘である。
体力はまだ三分の一も使っていなかった。
「いや、僕も足に来てたから、あのまま続けていたらわからなかったよ」
嘘である。
一日一万キロランニングを続けたゴリラが、足に来るなど考えられない。
てなわけで、引き分けになったのだった。
結局この茶番は何だったんだ?
「なあ、うちら海水浴場しにきたんちゃうんか? 何でビーチバレーやっとん?」
「あんたがボールがあったら面白い、って言ったんじゃない」
「そう言ったかもしれんけど、一時間以上もすると思わんやん」
そこはエリーも同感だった。
泳ぎに来たのに、やっていることは殺人ビーチバレーだ……。
「おい、もう終わったかあー!」
そう言えば、潤弥たちの姿を見ないと思ったらビーチバレーそっちのけで海で泳いでいた。
「みんな泳いどん?」
「おまえらなげーんだもん。そりゃ、泳ぎもするぜ」
「うちらも仲間に入れてえな」
モーリアンは移り気激しい子供のように海にかけていった。
結局前後編かけて、この茶番は何だったんだ?
「私たちも行こうじゃないか。今日は一日遊ぶために来たのだから」
青春ドラマのワンシーンみたいに、みなは海に駆け込むのだった――。




