無人島生活14話 きゃきゃうふふなサービス回?★
無人島生活三日目、ヤシの樹に向かってスパーキングッ!
ムカデのような虫に向かってスパーキングッ!
変な鳴き声が聴こえる方向にスパーキングッ!
木の枝に巻き付いた蛇に向かってスパーキングッ!
ムカつくボケリストに向かってスパークリングッ!
「はぁはぁはぁはぁ……」
肩で息をして周囲を警戒するエリー。石を投げすぎて、肩が脱臼しそうだ……。どうして無人島はこうも得体の知れない虫や、動植物が多いのだろうか……。おちおち歩けやしない……。
「エリーっちは神経質やな」
「いやいやいやいや、どうしてあんた達は平気で進めるわけ? 足下に変な触手くねらせた虫がいて、樹の枝に蛇がいて、得体の知れない動物の鳴き声が聴こえて……」
「もう、慣れたがな」
言ってモーリアンは樹の幹にはりついていた、得体の知れない甲虫を手でつかんだ。黒光りする外見はGを彷彿とさせる。
「よくあんた、素手でつかめるわね……」
「かわええやないか。うちのオカンなんて、ゴキブリ素手で叩き潰すし、オトンなんか金魚飼ってた水槽に、ゴキブリ飼育しとるがな。うちからしたら、ゴキブリは家族やで」
「あんたの両親どんな価値観してんのよ……。その親にして、あなたありね……」
「うちからしたら、ゴキブリ見るだけで駆逐するもんの方が理解できんで。ほら、あれあるやん、あれやあれ、赤い星のゴキブリと改造人間が闘う漫画。あの漫画のゴキブリやて、人間が酷い扱いせんかったらあそこまで人間に棍棒振り回したりせんがな」
「いや、それとこれとは関係ないでしょ」
エリーがおざなりに相づちを打つと、「ほら、かわええから持ってみいよ」とモーリアンはGもどきを近づけてきた。
「ちょッ―――――! 近づけないでよッ――――!」
「何でえな。かめへんで」
「やめてッ、近づけないでッ……」
「こんなに可愛いねんで」
「や、やめて……本当にやめてッ……!」
エリーは三歩ほど後ろに後下がりして、モーリアンから距離を取るために、先頭を走りはじめた。あれだけ、周囲を気にしていたエリーは一匹のGから逃げるため、森を突っ走るのであった。
「何でえな。こんなに可愛いねんで」
そして後を追いかけるモーリアンなのである。
無人島生活は早くも三日目に突入していた。
何とか生きている。今ごろ、文明社会では自分たちのことをどのように報道されているだろうか? スタッフたちが異変に気付いているはずだから、知れ渡っているとは思うが……。
バラエティー番組撮影のために乗った飛行機が墜落、乗客の安否は不明。捜索を開始しているが見つからない、だろうか。
GPSが付いていなくても、行方不明になった飛行機を見つけられるものなのか? その辺のことは専門家でもないのに、エリーにわかるはずもなかった。
唯一できるのは祈ることだけ。
心情の吐露はこの辺にして、ボケマシーンから距離を取ることに集中することにする。昨日、神々の頂に登ったときに発見した、湖にみんなで向かっているところだ。
岩山は目の前に見えているから、今進んでいる方向であっているはずだ。今朝太陽が昇った方角から、方位を割り出すことができた。
龍之介が言うには、南半球でも太陽が昇る方角は東だという。
だから今自分たちが進んでいる方向は、東南向きだということになる。モーリアンの魔の手を何とか逃れて、エリーは一番乗りで湖にたどり着いたのだった。
湖の一帯は円状に開けており、人工的に刈り取られたような、綺麗な芝生で歩きやすい。透明度の高い澄んだ水で、降り注ぐ太陽の光でキラキラと輝いていた。
「お、ここかいな」
二番乗りはモーリアン。
もうGもどきは持っていないようで、エリーはひとまず安心した。
「綺麗やな」
「本当ね。ファンタジーの世界に迷い込んだみたい」
「エリーっちは案外夢見る乙女なんやな」
「何でよ?」
キッとモーリアンを睨んで間もなく、みんなも到着した。
「ここが~エリーちゃんの言ってた~湖~?」
「そうだと思う」
エリーは周りのヘビや虫を警戒しながら、ゆっくりと水面に近づいた。透明度が高いから、底が見える。手前から奥に掛けて、徐々に深くなっているようだった。
小さな魚が動くたびに、うろこに反射した太陽が鏡に反射した光のように輝いていた。
「エリー君、今はまず先に洞窟を探そう」
カバー隊長は水面に手を付けて、かき混ぜるエリーに言った。
だが、エリーは完全無視。
「エリー君。どうしたんだ?」
カバー隊長は首をかしげて近寄ると、「水浴びしたい」とエリーはつぶやいた。
「何だって?」
「水浴びしたいッ!」
「水浴び?」
「だって、三日もお風呂に入ってないのよッ。海水のせいで、びしょびしょでねちゃねちゃになった服だし、汗でベタベタ。せめて水浴びして、潮を流したいッ」
水浴びしたい、という欲求をエリーは抑えることができなかった。
「だが、先に目的を果たさなければ」
「水浴びしたいしたいしたいしたい、したーいィ―――――! 服ベタベタ、汗ずくずく、気持ち悪いッ―――――!」
子供が駄々をこねるように、エリーは地団太を踏んで訴えた。
溜まっていたストレスから、エリーは馬鹿になっていた。
「カバーっち、だめやわ。ストレスたまり過ぎて壊れとるで。これ以上口答えしたら、何されるかわからんで」
エリーは綺麗好きだった。
こんな生活になる前は、日に二度のシャワーを浴びていたほどだ。
そんなエリーがもう三日もシャワーを浴びていないのだ。
綺麗な湖を見たエリーの頭には水浴びをすることしか、考えられなくなっていた。
「わかった。それでは、女性陣はここに残ってくれ。男だけで、洞窟を探しに行く」
「ちょっ待てよ」
どっかで聞いたことがある台詞で割り込んだのは、俳優よりもホストやれでおなじみの潤弥だった。
「俺っちだって水浴びしたいぜ」
「そうか、では潤弥君もエリー君たちと水浴びしてくれて構わない」
「ちょっ待てよッ!」
言って割り込んだのはエリー。
「あんた何考えてんのよ。男はどっか行ってなさいよ。しっしっ」
悪い虫を払うように、男どもを追い払うエリー。
「何でだよッ。俺っちだって汗かいてるし、水浴びしてえよッ」
「後でしなさいよッ。レディーファーストって言葉知らないのッ」
「無人島でレディーファーストもクソもあるかよッ!」
潤弥とエリーは火花を散らしてにらみ合う。
「潤弥。レディーには敬意を払うべきだ」
バン―――! と変なポーズを決めて仲裁に入ったのは龍之介。
「何だよッ。おまえも女の味方かよッ」
「我はどちらの味方でもない。だが、貴様も男だろ。男ならどのような状況であろうと、紳士的であるべきだ。それとも、力を行使しなければわからないか」
龍之介は引くことなく、そして変なポーズも崩すことなく言い放つ。
カッコいいのだが、ポーズですべて台無しだ。
龍之介の変なポーズと圧倒的な自信で、潤弥の方が根負けした。
「チッ、わかったよ」
潤弥は睨みを据えていた視線を龍之介から外して、「行こうぜ」と黒いスエットパンツのポケットに両手を突っ込んで歩きはじめた。
その姿は格上の相手を恐れて退散する不良か、尻尾を巻いて逃げ出す負け犬そのものだった。
「我々は拠点になりそうな洞窟を探しに行くので、存分に楽しんでくれたまえ」
「覗かないでよッ!」
エリーは男四人の背中に言い放った。
「覗くなよ、はフリやないんやでッ」
「誰が覗くかッ!」
「覗くなよは、ホンマにフリやないでッ」
モーリアンが言えば言うほど、フリにしか聞こえない……。
「さてと」
男たちの気配が完全になくなったことを確認して、エリーは着ていたオープンショルダーと短パンジーンズを脱ぎ捨てて湖に片足からそろりと潜った。
「エリーっち、いくら女同士やからって、よう迷いなく全裸さらせるな」
「裸みられること恥ずかしがってたら、モデルやってられないわよ。それに、見られても恥ずかしくない体だも~ん」
ファッションショーなどでは、みんなの見ている前で着替えることがモデルには多々ある。
「あんた達も入ったら、早くしないとあいつら帰ってくるわよ」
「もしかしたら、覗いてるかもしれへんで」
モーリアンはいたずらっぽく言うと、「それはない」とエリーは言ったが、そこで不自然に泳ぐのを辞めた。
「どないしたん?」
「いや……何か今誰かに見られているような……気配がしたような……?」
「冗談やって。あの男らに覗きをする勇気があるわけないやろ」
「それもそうね。考えすぎよね。――あなた達も早く泳ぎなさいよ。楽しいにゃんよ」
猫みたいな口を作ってエリーは言った。
もはや考えることを放棄したエリーは、温泉で泳ぐ子供のように、ご機嫌だった。
キャラ崩壊していると言っても過言ではない。
「駄目や、エリーっち、し〇かちゃん並みに綺麗好きみたいやで。今のエリーっちはツッコミやない。単なるぱっぱらぱ~や」
湖の中は冷たいが、しばらく浸かっていると麻痺して温かくさへ感じるようになった。サウナの後、水風呂に浸かるときのような快感だ。脱皮したかのように、体にまとわりついていた、膜が水に溶ける。
「あんた達も入ったら。凄く気持ちいわよ」
紅とモーリアンはお互いに顔を見合わせて、「そうやな。うちらも入ろうか」とパーカーのチャックを下した。
紅もウエディングドレスのような白いワンピースを脱いで、湖に入るのだった。紅三点はきゃきゃうふふしながら、三日ぶりに体を清めたのであった――。
「前回言ったやん。次は龍之介っちの心理を根掘り葉掘り、訊き出すって。まあ、めんどくさなったから、うちもどうでもようなったけどな」
「なら、もう辞めてあげなさいよ……。しゃべる方だって、恥ずかしいじゃない……」
「我は構わん。何が聞きたいのだ? 真名以外なら、教えてやらんこともない」
「羞恥心や恐怖は負の感情だ。そのような感情を抱けば、悪魔に体を乗っ取られてしまう。貧弱な人間は悪魔の格好の餌だからな」
「ほ~、そうなんか~。なら、うちも大丈夫や。悪魔に体を乗っ取られたりせえへんわ。うちの精神はダイヤモンドよりも柔らかいもんな」
「悪魔との契約により、圧倒的パワーを手に入れる試練だ。失敗すれば命はないが、もし契約を果たすことができれば、圧倒的なパワーが手に入る」
「その中二病さらしてる時点で、とんでもない試練こなしているようなもんだけどね」
「簡単だ。まずは贄を用意する。そして寸分の狂いもないペンタクルを用意し、契約したい悪魔の真名を刻む。そして、心で強く願い、唱えるのだッ」
龍之介はどこの国の言語なのかわからない言葉を詠唱しはじめた。
言葉は具現化され、渦を巻きながら天に登る。
「しばらく黙って様子見てたら、延々ボケ続けて、終わりが見えないわね……。てか、なに悪魔との契約って? 悪魔との契約する時点で、破滅確定じゃん。一時のパワーなんて、ただの付け焼き刃だわ」
「男は悪魔との契約とか、圧倒的なパワーとかっていう、単語が好きなもんなんやって。ネットにはそんな用語や単語が溢れかえっとるわ。男は老いも若きも皆中二病なんやッ!」
「フフフフ、貴様らも我のようになりたくば、悪魔と契約することだなッ!」




