逃亡
時刻は9時22分。
沙樹は未だ起きぬ京子の横で寝転がっていた。
まるで電池が切れたようにグッスリと眠っていて、寝息が沙樹の顔に軽く当たる。
「よっぽど疲れたのね。そのまま寝てていいのよ」
京子の髪を優しく撫で、それから静かに地下室を後にする。
沙樹は家にある金や着替えなど、必要な物をまとめ始めた。
イタリアでも狩りをするつもりだが、逃げるために飛行機に乗る事を考えると刃物は持っていけそうにない。
そうなると、着いた後に住む所を決め、それから刃物を買うしかなさそうだ。
準備が終わると、沙樹は京子を起こしに地下室へ向かった。
京子の身体を幾度か揺すり、背中に腕を回して抱き起こす。
「岩下……さん……」
「やっと起きたのね。着替えなさい。逃げる準備が出来たわよ」
「わかったわ」
京子はスポーティーな服に着替え、軽やかな足取りでリビングへ向かう。
目の前には荷物を詰めたキャリーバッグを片手に持った沙樹が待っていた。
「これで全て整ったわね。さあ、出発よ」
「ええ」
※ ※ ※ ※ ※
長い時間をかけてイタリア行きの飛行機に乗る事ができ、沙樹と京子は心底安心したようにゆったりと座席に座った。
「良かった、あたし達の事が知られる前に逃げる事が出来て」
「そうね。それにしても……大倉君の肉、もったいなかったなぁ」
「仕方ないでしょ。それに、イタリアに着いたらまた新しい肉が手に入るわよ」
「ふふ、それは楽しみだわ」
会話の内容が聞こえないように小声で話す2人。
彼女達の犯した殺人が発覚したのは、イタリアに到着してから数時間経った頃だった。




