冷やしゃぶ
時刻は12時3分。
拓矢の死体を流しに置くと、沙樹はいつも通りに首を切断し、内臓をズブズブと取り出していった。
京子はというと、狩り疲れでソファーに寝転がっている。
目は半開きになっており、もう少しで寝てしまいそうだ。
「これで下ごしらえは終了ね。それにしても、平日なのに外は人が少ないわね」
沙樹は妙に人通りが少ない事に疑問を持ったが、それもその筈。
狩りの回数が増え、その上クラスメートも数人殺したため2人が通っていた学校は休校となり、外出する者はほとんどいなくなったのだ。
これは気付かれていると言ってもいいぐらいだろう。
「京子は疲れて寝ているようだけど……まあいいわ。暑いから今日は冷やしゃぶにしようかしら」
沙樹は京子の肩から下に肌掛け布団をかけると、キッチンに戻って拓矢の腕の肉とタマネギとトマトを薄切りにしていく。
ゴミ箱から食み出ている拓矢の生首は、心無しか沙樹を睨んでいるように見えた。
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冷やしゃぶが完成したところで、京子はちょうど目を覚ました。
だるそうに椅子に座ると、テーブルの上には冷やしゃぶが盛りつけられた皿と箸と、血を混ぜた水が入ったグラスが並べられている。
よく見ると京子の水だけは量が少なめだ。
「岩下さん、なんで水の量が違うの?」
「だって京子が血を沢山飲んだら、一昨日みたいに吐いちゃうでしょ? だからよ」
「そうなんだ」
そう話しながら、2人は肉を口にした。
沙樹の調理の腕が良いのか、肉はフワフワと柔らかく仕上がっていて、トマトやタマネギが皿の上を鮮やかに彩っている。
「この肉最高ね。毎日食べても飽きないぐらいよ」
「そう?」
「明日も冷やしゃぶがいいなぁ♪」
「京子がそう言うなら……」
沙樹は口元を緩ませ、幸せそうに笑みを浮かべた。
外がすっかり静まり返っている中、2人は楽しげに会話しながら拓矢の肉を食している。
味も食感も完璧に調理された人肉を食べられて、京子も無邪気に喜んでいた。




