06
「突然過ぎて、何が起きたか分からないまま通夜が済み葬式が済み、気付いたらあいつは小さな骨になってた。本当突然過ぎて、涙も出なかった。言いたいこと何も伝えられなかった。」
俺は気付けば両手で顔を覆ってた。
涙が、止まらなかったのだ。
後悔、罪悪感、その他諸々。
色々な感情が入り乱れてる。
その間隣に座る風香はただ静かに俺の話に耳を傾けていた。
「学校には行ってたんだ。何が起きたか理解できていなかった俺は、あいつのためにってまた勉強に勤しんだ。でも周りは、もう貴方の幼なじみはいないのよって、ずっと俺に言うんだ」
確かに俺はあの時、勉強に勤しむというよりも何かに取り憑かれたように勉強していたのかもしれない。
それこそ倒れるほどに。
だけど、クラスの奴らも、教師も、両親も、あいつはいないと暗示のように俺に言い続けるから。
学校に行かなくなった、親と顔を合わせなくなった、誰の前でもその理由を言おうとしなかった。
また、あいつの存在を否定されるのが嫌だった。
例えそれが真実だとしても。
どうしても受け入れる事ができなかったのだ。
言いたいことを何も言えず、もう二度とそれを伝える術がないという現実から逃げようとしていたのかもしれない。
「俺、あいつのこと好きだったのに」
俺はあいつが好きだった。
あいつが俺の事を好きなのも知ってた。
だけど、あいつは自分が長く生きられないからと、俺への想いは口にせず、俺も同じように口にしなかった。
違うのは、俺は自分の都合で想いを告げなかったことだ。
怖かったのだ。
想いが通じ合っても、彼女は絶対に自分より早くいなくなってしまう。
幸福の後の絶望を味わいたくないがための、自己保身。
そこでふ、と顔を上げ、隣に座る風香に目を向ける。
あの日俺の前からいなくなったあいつそっくりの姿。
これは他人のそら似なんかじゃない。
「正直、お前が俺の前に現れた時、殺されるかと思ったよ」
隣にいる風香の手を握る。
その手は氷のように冷たい。
彼女が身にまとってる制服は、かつて彼女が憧れた高校の制服だ。
恨まれてるかと思ってた。
風香の気持ちを知りながらそれを知らぬふりをして。
そんなこと、と思われるかもしれないが、彼女にとっては一生に一度の恋だったのだ。
きっと伝えることの出来ない想いを胸に秘めるのは苦しかっただろう。
それを取り除くことよりも、自分の気持ちを優先させた俺は、恨まれても仕方ないと。
「ばーか」
パン、とデコピンされて悶絶する。
涙目で隣の風香をを見ると、あの無邪気な笑みで俺を見ていた。
昔から変わらぬ笑みで。
あの眩しい笑みで。
そのまま風香は俺に抱きついてきた。
服ごしだが、彼女の体はひんやりと冷たい気がした。
「何で私が貴方を恨むの。むしろ感謝してるのに」
「何で…」
「私が弱音を吐かなかったのも、大泣きしなかったのも貴方がいたからだ」
「…頼られて、ないかと思った」
「逆よ逆!頼りすぎて、涼介がつぶれちゃうと思ったから!それに一種の願掛けもしてた」
「願掛け?」
「好きな人の前で、一番大切な人の前で、自分が弱ってる姿を見せなければ病が治る、って」
結局効かなかったけど、と彼女は頬を膨らませる。
こういう所、本当、彼女は強い人だと思う。
ぎゅう、と一際力を入れて抱きしめた。
こんなにも好きだと分かっていたのに。
「私も好きだよ、涼介」
「…風香…」
「好きだからこそ、貴方は私に捕らわれてほしくない」
「……」
「貴方は生きているんだから」
体を離し、お互いの視線が絡み合った。
相変わらず、彼女の射貫くような視線は反らせない迫力がある。
「私ができなかった分まで、しっかり生きて。過去に捕らわれないで。そして、毎日私に報告しなさい」
「…毎日…?」
「毎日!私は見てるよ!」
「独り言の癖が付きそうだ…」
「一人じゃないよ、私が聞いてるもん」
「ったく、そういうところが…」
幼いっていうか、ガキっていうか。
俺は諦めたように苦笑して頷いた。
それに満足そうに風香が笑う。
「涼介、大好きだったよ」
「…俺も、大好きだったよ、風香」
どちらともなく、微かに重なる唇。
それはひどく冷たい、けれど心が満たされるキス。
次の瞬間には、握りしめていた手も、手を添えていた頬も、何もなかった。
でも心は虚無ではない。
ちゃんと彼女との思い出が残ってる。
「、…風香…!」
泣くのはこれが最後だ。
これからは過去に捕らわれることなく前を見て生きていくのだ。
それが彼女の意志、彼女の夢。
ふわりとどこか涼しい風が俺の頬を撫でた。
Fin.
これにて最終話となります。
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