01
第四作目になります。
長編というよりも中編あたりの長さです。
微恋愛要素と書いてありますが、ほとんどないです!
俺は所謂不良息子らしい。
学校に行かず、朝帰りをすることもあれば部屋に籠もりっぱなしということもある。
最初学校はちゃんと行っていたが、今はいってない。
あんな場所行く意味ないし。行きたくもない。
親が一度だけ困ったように俺に聞いてきたことがあった。
どうして学校に行きたくないの?と。
理由なんて言ったって、どうせ学校の奴らと同じ反応をするに違いない。
笑って、宥めるように俺の言葉を否定するだけ。
もうこれ以上不快な気分になりたくないから、両親の前で俺が口を開くことはなかった。
そんな俺の扱いに、両親は手を焼いたらしく最終的に自分達の手には余る、と言って田舎に住む父方の伯父の家に預けられることになった。
そっち方が、俺も気が楽で良いと思う。
「涼介ー朝飯だぞー」
「はーい、今行く」
ああ、言っとくけど俺は感情を殺した人形人間とか人間不信とかそういう訳じゃない。
ただ学校に行かない、不良息子ってだけだ。
だからこっちに来てからは普通に人としゃべりもするし、笑いもする。
ただ本当に、学校に行きたくないだけ。
「涼介、後で倉庫から荷物運んどいてくれないか?今日から店に出すやつなんだ」
「いいよ。今度は何買ったの、信一伯父さん?」
「風鈴だよ。これからの季節ぴったりだろう?」
信一叔父さんは茶目っ気に笑った。
今年五十五歳になる信一伯父さんは一人で田舎の雑貨やを営んでる。
あまり儲かる仕事ではないが、そこそこお客の入りもいいし、なにより伯父さんの人柄に惹かれる人は少なくない。
いつも笑みを絶やさず、ちょっとした相談も親身になって聞いてくれるのだ。
ここが田舎ということもあるだろうが、ご近所に住む人達の中で伯父さんに負の感情を持つ人は誰一人いないと思う。
俺がここに来たときも、伯父さんは何も聞いてはこなかった。
ただ優しげな笑みを浮かべ、いらっしゃい、大きくなったね。と言うだけ。
ここに来てもう二週間は経つが、伯父さんが俺の話題に触れることは一度もない。
この町の人も、明らかに学生である自分が学校にも行かず伯父の家で暮らしていることを噂するようなことはなかった。
挨拶をすれば笑って挨拶を返してくれて、時には、持っていきな、と野菜やお菓子をくれるときもある。
それが俺にとって、どれだけ気が楽な事か。
ひたすらに優しい町の風に涙が出そうになる。
「荷物、荷物…あ、これか」
薄暗い倉庫から少し大きめの段ボールを抱えて外にでる。
真夏の昼は太陽がぎらぎらと照りつけて、立っているだけで汗が吹き出しそうだ。
倉庫から店まで少し距離があるので一旦日陰に段ボールを下ろして休憩した。
ふわりと吹く風が火照った体に心地良い。
そういえばこの段ボールの中身は風鈴なんだっけ、と思いだし、少し見るくらいなら、という好奇心で白い包み紙に包まれた風鈴を出して見る。
一般的な丸い硝子の風鈴に、泳ぐように描かれた赤い金魚と黒い金魚。
舌から垂れる短冊には白い筆記体の字で「涼」と書かれていた。
試しに上部についている紐を掴んで目の前にぶら下げてみる。
ふわりと吹いた風に、風鈴はチリン、と涼しげな音を立てた。
なるほど、確かに気分的には涼しくなる音だ。
昔の人はよく音で涼しくなろうと考えたなあ、と感心しながら、風鈴を先ほどと同じように包み直し、段ボールにしまった。
「あら、もう仕舞っちゃうの?」
「!?」
突如頭上から降ってきた声に驚いて顔を上げる。
そこには、肩より少し長い黒髪を風で揺らし、不思議そうに首を傾げたセーラー服の少女が立っていた。
「き、みは…」
「私?私はね風香っていうの!風に香る、で風香。貴方は?」
「俺は、涼介…」
「りょうすけってどんな漢字?」
「え、涼しいに…芥川龍之介の介」
「へえ、涼しげな名前じゃない!ま、名前に涼しいって入ってるものね!」
少女、風香は自分で言って自分で笑った。
俺は突如として現れ、一人でぺらぺらと話すこの風香という少女を呆然と見上げる。
笑いやんだのか、風香は目尻に溜まった涙を拭うと俺に手を差し出して来た。
「よろしくね、涼介」
「え、あ…こちらこそよろしく…つめた、」
「あー私の手冷たかった?さっきまで氷水に手足突っ込んでたの。暑くてねー」
「あ、ああ、そうなんだ。確かに今年は特に暑いよね」
ふふ、と笑う風香に俺もつられて笑みを浮かべる。
その時少し遠くから伯父さんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺は慌てて段ボールを抱える。
そうだ、伯父さんに頼まれてた荷物持って行かなきゃ。
「じゃあ、またね風香」
「うん!またね涼介!」
去り際に、ほとんど無意識にそう言った。
別段会う必要があるわけじゃないのに、無意識に。
日陰から出るとさっき以上に気温が高く感じる。
日陰が結構涼しかったからだと思うが。
ちょうど角のところで信一伯父さんがひょいと顔を覗かせた。
俺は慌てて頭を下げる。
「ごめんなさい伯父さん。さっきちょっと人と話してて」
「ああ、別にかまわんよ。ただ少し遅いからどっかで倒れてるかと思ってね」
「心配かけてすみません」
もう一度頭を下げて、店の中に荷物を運ぶ。
一度振り返った先に、もう風香の姿はなかった。
「ねえ、信一伯父さん。この辺に女の子って住んでるの?」
「この辺に?いやー、住んでないと思うなー。若い人はみんな上京してしまったからね。確かに今は夏休みだけどこんな何もない町じゃあ遊びにくるような子もいないだろうし。多分この町で一番若いのは涼介じゃないか?」
「へえ、そうなんだ」
どくん、どくん、と心臓が音をたてる。
さっき風香と握手した方の手が、やけに冷たい。
ぞわりと、何故か背中に寒気を感じた。




