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1.『ニューライト』

後書きにキャラ紹介あります。

愛も悪意も憧憬も嫉妬も、所詮は全て、創られたキャラクターへ向けられた感情に過ぎない。

どんなきっかけでアイドルになろうと、どんな理由でアイドルをしていようと、魅せるのは偶像を演じる姿のみ。

だからこそ、アイドルは偶像でなければならないのだ。



◆◆◆



紙をめくる音と、ペン先が紙を滑る音だけが静かな会議室に響いていた。


現在ここでは、アイドルオーディション一次審査の書類選考が行われている。

審査員の榊原アンリは、一般公募で送られてきた応募書類を淡々と仕分けていた。右上に「〇」か「×」を書き込み、合格と不合格を選別していく。

その手が、ある一枚でぴたりと止まる。

志望動機欄に書かれていたのは──『自立』。たった二文字だけだった。

「は?」

アンリは額を押さえ、大きくため息を吐く。

「だから何だってのよ?その理由を書けっての!」

勢いのままバツ印を書き込もうとして、しかし思い直したように手を止めた。

代わりに添付された写真へ視線を落とす。

そこに写っていたのは、青春時代特有の爽やかさと涼やかさをまとった中学生──泉紫苑(いずみしおん)

(落としづらいじゃない……)

シンプルに顔が良い。ただ志望動機が認められないというだけで落としてしまうのは勿体なかった。

(……まあ、アイドルがダメそうなら、モデルでスカウトしましょう)

アンリは書きかけたバツ印に取り消し線を引き、新しくマル印を書き込む。

その時、書類の山から少しずれて飛び出していた一枚が目に入った。

引き抜いて確認する。

大人びた甘さと柔らかさを感じさせる、艶やかな美貌の高校生──玖珂京桜(くがけいら)

期待を込めて志望動機へ目を移し、アンリは固まった。

(『天才だから』……)

「っだから……その根拠を書けっての!」

思わず机を叩く。

どいつもこいつも……と頭を抱えながら、アンリは乾いた苦笑を漏らした。

この子たちは本当にアイドルになる気があるのだろうか──そんな不安が胸をよぎる。

手持ち無沙汰に人差し指で机を叩きながら、アンリは二人の写真を見比べた。

そして少し迷った末、玖珂京桜の書類にもマル印を付ける。

三枚の書類を重ね、端を揃えるように軽く整えた。


「期待してるわよ、原石たち」



◆◆◆



芸能タレント事務所、アリセ・プロダクション本社ビル。


控え室には、張り詰めた緊張感が漂っていた。

神威と紫苑は左胸にナンバープレートを付け、それぞれ開始時間を待っている。

(なんか……場違いかな、俺)

神威はパーカーの袖を引っ張り、隠すように手を覆った。

周囲を見渡すたび、自分の小ささを痛感する。

紫苑のように整った顔立ちの人。背の高い人。夢を語り合う人。

様々な参加者が集まる中で、神威には胸を張って誇れるものが何一つなかった。

俯いた、その時。

不意に伸びてきた指先が、神威の顎を軽く持ち上げる。

「随分と愛らしい子も参加しているんだね?」

至近距離で顔を覗き込まれ、神威は思わず息を呑んだ。

「中学生?」

濁色の瞳に、銀河を閉じ込めたような夜空色の瞳が映り込む。

次の瞬間、パーカーのフードを引っ張られ、神威の身体がぐらりと後ろへ傾いた。

突然のことに、神威と紫苑は揃って面食らう。

「凡庸に見受けられるけど、よく書類選考を通れたね?おめでとう。君には何か特別な才能でもあるのかい?それとも、今回は偶然や奇跡が重なった結果かな?まあ、どちらにせよ、僕には一切関係のないことなのだけれどね。

天才(自称)たるこの僕と同じ回に受験するなんてちょっとだけ運が悪かったね。でも大丈夫。次回以降のオーディションで精進すれば君もいつかきっと僕の後輩(アイドル)になれるはずだよ。頑張って。

挑戦も経験のうち。経験は誰にだって平等に価値のあるものだからね。今回だけは特別に、君のその心意義を買ってこの僕が評価してあげよう」

延々と続く言葉に、二人は完全に置いて行かれていた。

「光栄だねっ☆」

絢爛な笑顔と共にウインクが飛んでくる。

(なんだこいつ)

「ありがと(?)」

困惑しきった紫苑とは対照的に、神威はとりあえず曖昧に返事をした。


「ところで君は誰だい?」

椿神威(つばきかむい)です」

「カムイ?神ってこと?それはまた縁起の良い名前だね。僕の名は玖珂京桜。よろしくね、椿くん」

「よろしく」

京桜の手を取った瞬間、神威の腕が勢いよく振り回される。

「やめろって。神威(こいつ)の腕がもげたらどうすんだ」

紫苑が割って入り、京桜の手を振り払った。

「大丈夫。人間の体はこんなことで壊れないよ」

「……っコイツは貧弱なんだよ!」

「おっと。それは失礼」

京桜はわざとらしく両手を上げ、一歩引き下がる。

その横で、神威は紫苑の言葉に密かに青筋を立てていた。

「んもうっ、この子は何?椿くんの護衛?」

「幼なじみです」

「へぇ……お友達と来たんだ。仲良しなんだね」

「はい」

「……」

紫苑は京桜を警戒するように睨みつける。

「そろそろ時間だ。あっちで待とうか紫苑!」

神威は一触即発の空気を察し、慌てて間に入った。

「んじゃ玖珂さんっ、また後で!」

「……さようなら、椿くん」

神威は紫苑の背を押してその場を離れる。

京桜は去っていく背中を、にこやかに見送っていた。




「ああいうのにはあんま構ってやるなよ」

「なんで?」

紫苑はそっぽを向いたまま答えない。

神威は乾いた笑みを浮かべて空気を和らげようとしたが、結局うまくいかず、大人しく隣に並んだ。


やがて、マイク越しに女性の声が響く。

「お待たせしました」

その一言で、控え室中の視線が一斉に前方へ集まった。

そこに立っていたのは、審査員兼進行役の榊原アンリ。そして他四名の審査員たち。


「これより、ニューライトオーディション二次審査を開始します」

【登場人物】

泉 紫苑(いずみ しおん)

主人公?イケメン。神威の幼なじみ。白髪、水色の眼。


玖珂 京桜(くが けいら)

天才(自称)。美人。コメディ要員。ピンク髪、紫寄りの碧眼。


椿 神威(つばき かむい)

主人公候補?整ってるけど美形ではない感じの顔。紫苑の幼なじみ。灰を被ったような銀髪に、濁色の眼。

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