表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「自分の書いた小説に転生したのに、設定が崩壊してるので“書き換え”ながら生き残ります」―作者なのにヒロインに殺されかけてます―  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/57

第四十話「残ったものと、これからのこと」

 戦いが終わったあと、世界はすぐには戻らなかった。


 夜の空気は静かだったが、どこか歪んでいる。さっきまで“未確定”として開いていた可能性が、ゆっくりと閉じていく過程にあるのだと、肌でわかった。音が少し遅れて届く。灯りがわずかに滲む。人の気配すら、どこか現実から一歩ずれている。


 私は、その中に立っていた。


 立っているだけで、妙に疲れる。


 身体じゃない。頭でもない。


 “選び続けたこと”そのものの疲労だった。


「……ユイ」


 横から声がする。


 アリアだ。


 さっきの戦闘で受けたダメージは残っているはずなのに、もう立っている。無理をしているのはわかる。でも、それを言っても止まらないこともわかっている。


「大丈夫?」と私は聞いた。


「大丈夫ではないです」


 即答だった。


 少しだけ笑う。


「でも、動けます」


「そっか」


 それ以上は言わない。


 今は、それでいい。


 ---


 少し離れた場所で、リゼットが剣を地面に突き立てて呼吸を整えている。あの人もかなり無理をしているはずだ。剣の担い手の攻撃を真正面から受けて、立っているだけでも異常に近い。


 ノエルは座り込んだまま動けないでいた。さっきの戦闘の衝撃が抜けきっていないのだろう。セオドアは壁にもたれながら、何かを記録している。あの人は本当にブレない。


 鍵の担い手は、いつものように軽い顔で立っているが、よく見ると指先がわずかに震えている。鏡の担い手は、何も言わずにこちらを見ていた。


 全員、無事ではない。


 でも――


 誰も欠けていない。


 それが、何より大きかった。


 ---


「……勝ったんですか?」とノエルが言う。


「勝ってない」とリゼットが答える。


「でも、負けてもいない」


 私は、その言葉に頷いた。


「うん」


 あれは勝利じゃない。


 でも、敗北でもない。


「止めた、って感じかな」と私は言う。


 セオドアが言う。


「正確には、“確定を遅延させた”だな」


「言い方が硬い」


「事実だ」


 でも、それが一番しっくりくる。


 ---


 私は、ペンを見た。


 まだ手に握っている。


 少しだけ、熱が残っている。


 さっきの戦闘で、私は初めて“結果を書かなかった”。


 それが、どれだけ大きな変化だったのか、今になってじわじわと実感する。


「……変わったね」と私は呟く。


「何がですか」とアリア。


「書き方」


 私はゆっくりと言葉を選ぶ。


「前はさ、“こうなる”って書いてた」


「はい」


「でも今は違う」


 少しだけ考える。


 うまく言葉にするのは難しい。


 でも、はっきりしている。


「“こうもなる”って書いてる」


 アリアが、静かに頷く。


「選択肢を残している」


「うん」


 それが、今の私のやり方だ。


 決めるんじゃない。


 開く。


 固定するんじゃない。


 揺らす。


 ---


「代償はありますよ」とセオドアが言う。


「あるだろうね」


「未確定状態の維持は、構造への負荷が大きい」


「うん」


「使いすぎれば、世界そのものが不安定になる」


 ノエルが顔を上げる。


「それ、やばくないですか」


「やばい」と私は即答する。


「めちゃくちゃやばい」


 でも。


 それでも。


「やるしかない」


 その一言に、誰も反論しなかった。


 ---


 そのとき。


 ふっと、空気が揺れる。


 全員が反応する。


 だが、今度は戦闘じゃない。


 もっと、柔らかい揺れ。


 私は、ゆっくりと振り向いた。


 そこに――


 水のような光が浮かんでいる。


 あの感覚。


 温泉と同じ。


「……来た」と私は言う。


 ノエルが息を呑む。


「また、現世……?」


 私は頷く。


「うん」


 光の中に、像が映る。


 真理だ。


 そして――


 その隣に、母がいる。


 今度は、はっきり見える。


 逃げない。


 揺れない。


 “重なっている”だけじゃない。


 **“近づいている”**


 ---


 真理が、こちらを見る。


 今度は、迷いがない。


 そして――


 口を動かす。


「ユイ」


 今度は、聞こえた。


 はっきりと。


 ノエルが震える。


「……声、聞こえましたよね」


「うん」


 私は答える。


 胸が、強く打つ。


 母も、こちらを見る。


 涙は止まっている。


 でも、目は赤い。


 その視線が、まっすぐこっちに来る。


 ---


「……帰れるの?」と真理が言う。


 その一言。


 それだけで、空気が変わる。


 これは、ただの再会じゃない。


 **選択の話だ。**


 ---


 私は、少しだけ黙る。


 すぐには答えない。


 答えられない。


 今の私には、まだ――


 ---


「……まだ」と私は言う。


 正直に。


「まだ、わからない」


 真理は、目を細める。


「そっか」


 その声は、優しかった。


 責めない。


 急かさない。


 ただ、受け取る。


 ---


「でも」と私は続ける。


「帰るつもりはある」


 母の目が、揺れる。


 真理が、少しだけ笑う。


「だよね」


 その一言で、すべてが軽くなる。


 ---


 そのとき。


 鏡の担い手が、静かに言う。


「接続が強すぎる」


 セオドアが頷く。


「このままでは、境界が崩れる」


 鍵の担い手が笑う。


「いいじゃん、それ」


「よくない」と全員が同時に言う。


 ---


 光が、揺れる。


 時間が、残り少ない。


 私は、ペンを取る。


 書く。


 今度は迷わない。


 ---


『まだ、終わらない』


『だから、待ってて』


 ---


 短い文。


 でも、十分だった。


 光が、ゆっくりと薄れていく。


 真理が、頷く。


 母が、涙をこらえて笑う。


 そして――


 消える。


 ---


 静寂。


 夜が、戻る。


 ---


 私は、深く息を吐いた。


「……行こう」


「どこへ」とリゼット。


 私は、少しだけ笑う。


「決まってるでしょ」


 剣の担い手が消えた方向を見る。


「続き」


 ---


 アリアが、横に立つ。


「はい」


 その声は、迷っていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ