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7話 誓いません!

 

「カーラちゃん、サイコスちゃん、準備ができましたよぉ」


「はい!」


 神官様とソフィーが婚姻の儀の準備を始めてから数分後、ボクとサイコスは神官様に呼ばれた。サイコスは、待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうに返事をし、神官様の元へ向かう。ボクは、今だにボクが結婚するのかどうかも分からないけど、呼べれたから黙ってサイコスの後を追う。


 そして、ボクとサイコスとソフィーは、横一列に並ばされた。


 でも…やっぱり、おかしい。どういう訳か、ボクが真ん中だ。だけど、その違和感に誰も何も言わず、神官様の話が始まる。


 神官様は、何かの本を出すと読み始め、しばらくすると、サイコスの方を見た。


「サイコスちゃん、カーラちゃんとソフィーちゃんを幸せにする事を誓いますか?」


「誓います」


 …………。


 …今、ボクも幸せにするって言ったよね?


 やっぱり、サイコスはソフィーだけでなく、ボクとも結婚するの⁈


 …どうしよう。ボクにはメイが居るのに。


「カーラちゃん、サイコスちゃんを幸せにする事を誓いますか?」


「…えっと」


 どうしようどうしようどうしよう!ボクは何て答えるのが正解なの⁈ 『誓いません』って言えば、結婚しなくて良いの?でも、そんな事を言える空気じゃない気がするし…。


「その…」


 そしてボクは、うまく言葉が出てこず、神官様を縋る様に見つめた。


 すると、神官様は何かを理解した様に、にっこりと微笑み、次はソフィーの方を向き、口を開いた。


「ソフィーちゃん、サイコスちゃんを幸せにする事を誓いますか?」


「誓いません!」


 …え?


 ……え?


 ボクは、驚きを隠せず、ソフィーを見た。すると、ソフィーは、さも当たり前かの様な顔をしている。


 …あれ?ボクが聞き間違えただけ?


「…あらあら。ソフィーちゃんったら」


 でも、どうやらボクの聞き間違いではなかった様で、神官様も困った表情をした。


 だけど神官様は、直ぐに表情を戻すと、再び読み始めた。


 そして読み終わると、一枚の紙を取り出し、ボク達を呼んだ。


「サイコスちゃん、カーラちゃん、ソフィーちゃん。この誓約書にサインして教会に納めれば、婚姻が成立するわ」


 …つまり、さっきの問答は、唯の儀式の様なもので、たとえ誓わなくてもサインさえすれば関係ないって事なのかな。だから神官様は、あまり気にせずに進めたのだと思う。


 …やっぱり、貴族だと望まない結婚が多いんだろうな。…やだな。その事実に神官様も慣れてしまっているって事だろうし。


「カーラ、改めてよろしくな!」


 そしてサイコスは、そう言うと何の迷いも無くサインをした。サイコスは凄いな。ボクと違って、貴族としての義務を果たす事が当たり前だと思っているんだろう。


「カーラ、大好きよ!」


「…え?」


 続いて、ソフィーは心にもない事を言って、サインした。伝える相手を間違えてると思うけど。…でも、たとえ言い間違えや嘘であっても、ソフィーに好きだと言われたのは嬉しかったけど。


 サイコスと結婚するのであっても、ボクを極力邪魔者扱いしたりしないっていう、ソフィーなりの優しさなのかもしれないな。…事実、ボクは2人にとって邪魔な存在になってしまうのだろうけど。


「…な! 俺もカーラの事が大好きだ! 愛している!ソフィーよりもだ!」


「は⁈ 私の方がカーラの事大好きよ! それだけは譲れないわ!」


 …え?


 いやいや、そんな訳が無い。サイコスがボクの事を大好きで、ソフィーもボクの事が大好き。そんな夢の様な話がある訳ない。もし事実なら、ボク達がパーティーを解散する事はなく、もっと楽しく冒険できていたはずだから。


 だけど、2人の言い争いは収まらず、何度もボクの事が好きだと聞こえてくる。


 …でも、ボクは分かっている。


「いいよ。そんな気を使わなくても。ソフィーとサイコスは優しいね」


 ソフィーとサイコスは優しいから、ボクの事を好きだと言ってくれているのだろう。お互いの事が好きだけど、ボクの事も少しは好きでいてくれている。それだけでも、ボクにとっては十分すぎるほど嬉しい事だけど。


 だけど、2人の気持ちを察してボクがそう言うと、2人はボクを見つめてきた。


「…カーラ、俺は昨日から何度も言っているだろう。俺はカーラの事が大好きだ。嘘じゃない」


「私はずっとずっとカーラの事が大好きよ!」


 …2人に好きだと言ってもらえることは、凄く嬉しい。でも、サイコスの好きは、ソフィーが一番。ソフィーの好きは、サイコスが一番。ボクは二番か三番か…。いや、そんなに高い訳が無いな。たぶん十番目くらいかな。それくらい上位だと嬉しいな。


「…ありがとう。ボクも2人の事が好きだよ。でもね、ちゃんと分かっているから」


「「分かってない(わ)!」」


「えぇぇええぇ⁈」


 ソフィーとサイコスは、声を揃えてボクの言葉をを否定した。でも、やっぱり2人は息もピッタリだし、ボクの考えは間違っていないと思う。


「俺は世界で一番カーラの事が好きだ!!!」

「私は世界で一番カーラの事が好きよ!!!」


 そう言って、ソフィーはボクに抱きついてきた。


「ほうぇぇぇえ!!!???」


 何が起きたの⁈


 ソフィーが!ボクに!!抱きついている!?


「な!!!!何をやっているんだソフィー!!ズル…いや、そんな!!ズルいぞ!!!」


 ………あ。


 今、ボクは全てを理解した。


 おかしいと思っていたんだ。1万歩くらい譲ったら、ソフィーとサイコスがボクの事を好きかもしれない。でも、2人そろってボクの事が世界で一番好きだなんてあり得ない。


 ましてや、ソフィーがボクに抱きついてくるなんて…。


 …いつからかは分からないけど、これは夢だったんだ。


 メイが帰って来ない寂しさのあまり、ボクは現実ではあり得ない夢を見てしまっているんだ。


 …そっか。そうだよね。


「カーラ、お願い。誓約書にサインして。一緒に暮らしましょ」


 そしてソフィーは、ボクに抱きついたまま、上目遣いでそう言ってきた。


「…うん。そうだね。ソフィーは可愛いね」


「んな!なななななななななっ!!!」


 ぷしゅー


 夢だと分かったボクが、ソフィーには絶対に言えない事を言ってみると、ソフィーは顔を真っ赤にして動かなくなった。ソフィーがこんな反応をするなんて、凄く変な感じがする。ボクの夢だけの事はあるな。


 そしてボクは、ソフィーに言われた通りに、誓約書にサインをした。夢とはいえ、こんなに可愛いソフィーのお願いを断るなんてボクにはできない。


 それからボクの夢は覚めないまま非現実的な1日が終わり、ボクは夢の中で眠りについた。翌日の夜に全てを理解して後悔する事になるとは知らずに。



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