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2話 サクラの失敗

 

「サクラさん、これからどうされるのですか? 1人で冒険者を続けるのですか?」


 カーラの家を出て少し歩くと、キャルシィが心配そうに私に聞いててきた。


「…んー。…冒険者は引退するわ。もう私に傷を付けられる魔物なんて居ないし」


 メイちゃんが居なくなってからも私のレベルは上がり続け、今ではカーラを超えてランキング1位。その理由は、メイちゃんが居なくなった後も枕投げが続いた事と、カーラが自分にハンデを付けて魔物と戦っていたからだ。


 枕投げでは、剣を使わないカーラが、魔法を使う私に勝てる訳が無く私が毎回勝つ。回復役が居ないから1日1回で終わるけれど、それでも世界最強だったカーラを倒せば、それなりに経験値が入る。カーラは私に勝てなくても毎日やろうと言ってくるから、負けてもやれるだけで楽しいと感じているのだと思う。


 魔物討伐では、カーラがデバフの代わりに目隠しをしたり木剣で戦ったりしているうちに、カーラが戦っている1匹以外を私が倒すから、たとえカーラが獲得経験値上昇のスキルを持っていても、取得する経験値量は私の方が多かった。


 そうしているうちに、1年で私のレベルはカーラを超え、ランキング1位になっていた。


 だから、私にとってSランクの魔物もスライムと大差ないと感じられるようになり、これからも同じような事を続けようとは思えない。お金も使い切れないくらい貯まっているものね。


 …そうなると。…んー、そうね。


「…もう1度、受付嬢にでも戻ろうかしらね」


「え⁈ 本当ですか⁈」


 私がそう言うと、キャルシィは急に驚いたように私を見つめてきた。


「サクラさんが戻ってきてくれるなら、凄く嬉しいです!!」


 …半分冗談で言ったつもりが、キャルシィは本当に嬉しそうに私を見つめてくる。…んー、これは今更冗談だとは言えない雰囲気だ。受付嬢の仕事は、結構大変なうえに、お給料も少ないのよね。今の私なら、1年分の給料を1日の魔物討伐で稼ぐ事だって出来るし…。


 …はぁ。


 …まぁ、1度辞めた私を雇おうとは思わないわよね?


 あ、でもギルマスは、いつでも戻ってきて良いと言っていたような…。



 ♢♢♢



「じゃあ、ちょっとギルマスのところに行ってくるわね」


「はい!!」


 そして、キャルシィを期待させた状態でギルドに着いてしまい、私は諦めてギルマスの部屋へと向かった。


 コンコンコン


「…ギルマス、居ますか?」


 サボって居ない事を少しだけ期待しつつ、私は扉に向かって話しかける。


「…おう、居るぞ。どうしたんだ、サクラ」


 ギルマスは、声で私だと分かり、そう言ってきた。本来であれば、今はギルド職員でない私が1人で訪ねてくるのはおかしな事だが、ギルマスは咎めたりしないだろう。


 そして私は扉を開け、ギルマスの部屋へと入る。


「…お仕事中すみません。…ちょっと、お話がありまして」


 午前だという事もあり、ギルマスは書類仕事をしている。今日も午後からサボる(訓練する)為に、仕事を進めているのだろう。


「急ぎか?」


「…いえ」


 私がギルマスの問いに返答すると、ギルマスは左手でソファーを差し、座って待っていろと無言で告げる。


 そして数分後、キリが良くなったようで、ギルマスがテーブルを挟んで私の向かいのソファーに腰を掛けた。


「…で、どうしたんだ?」


 急ぎでは無いとは伝えたとはいえ、ギルマスは少し不安そうに私に尋ねてくる。


「…えっと。冒険者を引退するので、もう1度受付嬢として雇ってもらえたらな…と」


 そこまで言うと、ギルマスは目を見開き、私を凝視してくる。


「あ、もちろん無理なら断ってくださってかまいませんから!」


 寧ろ、断ってくださいと少しだけ思いながら、語気を強めて私は言う。


 正直言って、自分で考えても虫の良い話だと思うし、十分に断ってもらえる可能性が残っていると思う。一方的に冒険者になりたいと言って受付嬢を辞めておきながら、今度はまた雇って欲しいと言っているのだから。


 それに、ギルマスが以前言った『いつでも戻ってきて良い』というセリフも、建前だったかもしれないし。


 そう思いつつギルマスを見てみると、ギルマスは何かを考えているようで全く動かない。


「…ギルマス?」


「…あ、あぁ。…そうだな。サクラが受付嬢として戻って来てくれるなら、ギルドとしてもありがたい。…だが、ダメだ」


 …お!!


 私は、期待通りの返答をされ、少し嬉しくなる。


「…そうですよね。無理を言って申し訳ありません。…では、失礼しますね」


 キャルシィも、ギルマスに断られたと言えば納得してくれるだろうし、本当に良かった。ありがとうございます、ギルマス!


 私は口には出さずに、そう思い、席を立とうとした。


「待て!そういう意味じゃない!」


「…え?」


 …何故だか、嫌な予感がする。


 そしてギルマスは、急に口角を上げ、とんでもない事を口にする。


「サクラ、俺の代わりにギルマスをやってくれ!サクラには、その資格が十分にある!」


「………は?」





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