1話 全部メイちゃんのせい
「…は?どういう事よ!」
家に帰ると、貴族の社交界に行っていたカーラが帰ってきていた。まぁ、それはいい。私は、カーラが居ない退屈だけど平和な1週間を、十分満喫できた。
だけど今、信じたくない状況になっている。
夕ご飯を食べに食堂に向かうと、何故かサイコス様とソフィー様が席に着いている。そしてカーラを見ると、バツが悪そうに口を開く。
「えっとね、サクラ。…サイコスとソフィーが一緒に住むことになったんだ」
「……は?」
私は、『絶対に嫌よ!!』と叫びたい気持ちを抑えつつ、カーラを睨みつける。本人たちが居なければ、間違いなく口にしている。
「急で申し訳ないが、俺とカーラは結婚する事になった。2日前に正式に、ユリアール侯爵から爵位を継がせてもらった。ユリアール・サイコスだ。改めて宜しく頼む」
………。これは…もう浮気確定ね。…いや、不倫になるのかしら?カーラは、一方的にメイちゃんと結婚しているにも関わらず、最低ね。メイちゃんが帰ってきたら悲しむわよ。
……いや、悲しむかしら?案外、祝福するかもしれないわね。
そんな事を考えつつも、もう1人の気になる人物を見てみると、どういう訳かサイコス様を睨みつけている。そして、すぐさま私を見て、ニコリと微笑み、口を開く。
「カーラと結婚した、ユリアール・ソフィーよ。よろしくね、サクラ」
………。
そして数秒後、私は理解した。ソフィー様は、カーラと結婚したサイコス様と結婚した。つまり、間接的にカーラと結婚したのだ。ソフィー様ならやりかねない。おそらく、結婚の手続きで教会に行った2人と会い、無理矢理決めたのだろう。
「……よろしくお願いします」
…はぁ。よろしく出来る気がしない。だけど、そう答えるしかない。そして私は、再びカーラを睨みつけた。
この日の夕食は豪華だったけど、私がこの家に来て以来、初めて美味しいと感じなかった。
♢♢♢
食事が終わり、私達はカーラの部屋に戻ってきた。一応、家に帰って来てからの初夜だし、カーラは別の部屋で寝るのかもと思ったけど、そんな事は無かった。まるで何事も無かったかのように、私とキャルシィと一緒に部屋に戻る。………いや、寧ろ私達が邪魔なのかしら?ここはカーラの部屋だものね。……はぁ。
「…カーラ、説明しなさいよ」
そして私は、部屋に戻るなりカーラに迫った。
「えっと…。サイコスと結婚する事になってしまったんだよ。そうしたら、ソフィーもサイコスと結婚する事になって…」
「それはもう分かったわよ!どうして結婚したのか聞いてるのよ!」
カーラは言い淀んでいるけど、大体の予想はつく。カーラは一応貴族であり、ユリアール侯爵家の一人娘。避けられない事は分かっている。
「…そんな怒らないでよ、サクラ。ボクだって、どうしようも無かったんだから。父さんが、
『カーラに爵位を継がせるのは絶対に無理だ。だが、カーラを利用しようとする奴に、任せる訳にはいかない。カーラの事を理解し、信用出来る人物は、サイコス殿以外に存在しないんだ』
…とか言って無理矢理」
「……はぁ」
カーラが無理矢理結婚させられたのは可哀そうだと思うけど、前侯爵の言った事には納得出来てしまう。世界で2番目にレベルが高いカーラの相手が出来る男性は、元パーティーメンバーのサイコス様以外に心当たりが無い。
…だからと言って、サイコス様達と一緒に住むなんて、私が無理。こんな状態でメイちゃんが居ない家に、居座り続ける意味が無い。
…潮時かしらね。カーラと2人での冒険も、それなりに楽しかったけど、1年も続けていれば、やる事が少なくなってきている。強い魔物の数には限りがあるものね。
「…もう寝るわ。おやすみ」
「え⁈ 今日は枕投げしないの⁈ やろうよ!サクラぁ!」
そして私は、そう言うカーラを無視し、目を閉じた。キャルシィは私の気持ちを汲んでくれたようで、電気を消す。私達が眠るベットは最高級でふかふかなのに、頭が重いせいで気持ちよさを感じない。
…はぁ。明日からどうしようかしらね。
♢♢♢
「どうしてなの⁈ そんな急に!!」
私は朝ご飯を食べた後、家を出ていく事をカーラに伝えた。カーラはまるで理由が分からないかのように慌てだす。
「サイコス様達が家に住むから、私は出ていくのよ。パーティーも解散するわ」
どうせ丁寧に説明してもカーラは絶対に納得しないだろうから、私は簡潔に伝える。
旦那と嫁を差し置いて、私がカーラと一緒に寝る事は、よく思われない。主にソフィー様に。このまま私が居続ければ、サイコス様とソフィー様との関係も悪くなるだろう。でも、それをカーラに説明しても、きっと伝わらない。
「そ…そんな。サクラまで居なくなったら、ボクはどうすれば良いんだよ…。お願いだよ、サクラ。サクラまでボクを置いて行かないでよ…」
「無理よ。もう決めたもの。カーラ、今までお世話になったわ」
そこまで言うと、カーラは顔を歪め泣き出した。きっとカーラは悪くないし、少し可哀そうだと思う。だけど、これは仕方のない事だと思う。
「キャ、キャルシィは残ってくれるよね…?」
「私はサクラさんに付いて行きます」
カーラは最後の望みを掛けたようにキャルシィを見つめるけど、もちろんキャルシィだけ残る事はあり得ない。自分で言うのもなんだけど、キャルシィは私の事を慕っている。カーラを選ぶ理由が無い。
そして私は、執事のルナールさん達に今までのお礼を言い、ユリアール家を出た。
後悔はある。カーラと喧嘩別れみたいになってしまったし、この家での生活は幸せだったからだ。それでも、私は出て行くという決断をした。
ただ、これだけは断言できる。
…全部。…全部メイちゃんのせいよ!!




