15話 メイとカーラ
「じゃあ、ボクはメイと戦えるんだね!」
新しい魔王さんが、私を魔王だと呼び跪く、最悪の現状。そして、続けて理解しがたい事を言うカーラ。
なので、私はもう一度思います。…帰りたいです。…はぁ。
「…私はもう、魔王ではありませんから。えっと…。新しい魔王さん。カーラが戦いたいそうなので、相手をして頂けませんか?」
「魔王様のご命令とあらば」
うぅぅ…。この人は、どうあっても私を魔王と呼ぶつもりなのでしょうか?せっかく魔王の称号が無くなったというのに、これからも魔王と呼ばれるのは嫌ですよ。
…とはいえ、良い人そうですし、カーラと戦わせるのは悪い気がしますね。まぁ、『魔王』になったくらいですから、それなりに強いとは思いますが。…視てみますかね。
『神眼』
私は、『大天使』になった時に得たスキルで、新しい魔王さんを勝手に視てみました。
『魔王』ドラディニエル・オッディウス レベル363
…は?
…え?私より少し強いのですけど。…え?
確か、私が魔王になった時のレベルは200ちょっとだったと思います。つまり、その時は私が一番強い魔族だったのです。ですが、新しい魔王さんのレベルは363。たった5年で、少なくとも150レベルほど上げた事になります。私が言うのもなんですが、おかしいと思いますよ?
…ん?ドラディニエル?…何処かで聞いた気がします。
『神眼』
『堕天使』ドラディニエル・マリヤ レベル358
…はい。お揃いですね、マリヤさん。ふふっ。そうだったのですね。
「マリヤさん。おめでとうございます!」
「…は?何よ急に」
つまり、マリヤさんは堕天してでも、この竜魔族さんと一緒に居たかったという事なのですね。どうやって知り合ったのかは分かりませんが、純白の翼よりも大切な存在という事なのですね。私には、純白の翼を捨てるなど到底理解できませんが、素敵な関係だと思いますよ。
「2人とも凄く強くなっていますね。マリヤさんが旦那様を鍛えたのですか?毎日一緒に居るのですか?」
「はああ⁈ メイ!あんた勝手に視たでしょ! …もぉ!そうよ!悪い?」
あぁぁ。照れるマリヤさん、新鮮で可愛いです。それほどまでに好きなのですね。
ですが、この関係を知ってしまった以上、マリヤさんの前でカーラにボコボコにされる姿は見せたくありませんね。カーラには悪いですが、負けてもらいましょう。
「カーラ、魔王さんとカーラに勝つ為の作戦会議をするので、あちらを向いて耳を塞いでいてください」
「うん!分かった!」
カーラは私がそう言うと、素直に言う通りにしました。カーラは強い相手と戦いたいのでしょうし、楽しめる可能性が上がると思ってくれたのでしょうね。まぁ、実際は私が何もしない方が楽しめると思いますけどね。
「新しい魔王さん、私からの最後の命令です。勇者を一撃で倒してください」
『攻撃力上昇』『速度上昇』
そして、私は新しい魔王さんにバフを掛けました。もちろん、全力です。
「あと、この剣をお貸しします。終わったら返してくださいね」
私は、アイテム袋から『聖剣』ゴンザリオンを取り出し、魔王さんに渡します。バフだけでも十分かもしれませんが、カーラの剣は最上級の『魔剣』ですし、普通の剣では耐えられないかもしれませんからね。
「…流石は魔王様。力が溢れ出てきます。必ずや、勇者を倒してみせましょう」
「はい。マリヤさんに良い所を見せてくださいね」
そして、私がそう言うと、少し照れる魔王さん。良いですね。
「カーラ、準備が出来ましたよ」
「…………」
…ん?
…あ。耳を塞いでるのでしたね。
♢♢♢
そして、遂に勝負が始まります。
『聖剣』ゴンザリオンを構え、マリヤさんに良い所を見せなくてはならない『魔王』さん。『魔剣』ゴスティリオンを構え、ただただ楽しみたいだけの『勇者』カーラ。
「じゃあ、行くよ!」
「おう!何処からでもかかって来い!」
魔王さんの言葉を合図に、一直線に走り出すカーラ。…そして。
ガンッツ!!ドガァァン!!
「ぐはっ…」
バタッ…
はい。終了です。カーラは剣は受け止められただけでなく、そのまま壁まで突き飛ばされ、動かなくなりました。私の時と似たような状況です。
「…メイ、何したのよ。生きてるの?あれ」
「少し手を貸しただけですよ。カーラは死なないので大丈夫です」
予定とは違い、マリヤさんは魔王さんに惚れ直すでは無く、私に引いています。少しだけやりすぎたかもしれませんね。まぁ、魔王さんが負けるよりは全然良いでしょう。
「魔王さん。あなたは、私よりも強いです。なので、あなたになら魔族領を任せられます。よろしくお願いしますね」
「…はっ!必ずや、メイ様のご期待に応えてみせます」
ふぅ。これで、一件落着ですね。さて、カーラを治しますかね。
私は、聖剣を返してもらった後、カーラの所まで行って回復魔法を掛けました。なんだか、5年前を思い出しますね。
「カーラ、起きてください。いつまで寝ているのですか?」
「…う。メイ!見てた⁈ 凄いよ!ボクが一撃でやられちゃったよ!」
カーラは、目を覚ますと笑顔になり、とても嬉しそうに語ります。…変な所でも打ったのですかね?…いや、これが正常ですね。
「あの魔王、メイより強いよ!嬉しいね、メイ!」
「…そうですか」
全く共感できませんが、カーラが嬉しいなら結果オーライです。私よりレベルが高い魔王さんに、私が全力でバフを掛けましたからね。私より強いのは当たり前です。
「もう1回戦ってくれないかな?でも、絶対に負けちゃうなぁ!!」
あぁ。カーラが幸せそうです。良い夢を見せてあげれたのかもしれませんね。
「さっ、そろそろ帰りましょうよ。私はお腹が空きました」
「そうだね!あぁ、嬉しいなぁ!メイも帰って来たし、魔王はボクより強いし!今日はいっぱい戦えたし、ボクは凄く幸せだよ!」
カーラにとっては、勝つことよりも、負けるほど強い相手が居る事の方が嬉しいのでしょうね。サクラさんに負け、魔王に負け。勇者としては情けなくとも、戦える相手が居ないより、よっぽど幸せなのでしょうね。
そして、私達は魔王さんとマリヤさんに別れを告げ、魔王城を後にしました。それから、ギルドにキャルシィを迎えに行き、カーラの家に向かいます。いや、違いますね。カーラの家に帰ります!
♢♢♢
「ただいま!」
「お帰りなさいませ、カーラ様。随分とご機嫌がよろ……。お帰りなさいませ、メイお嬢様、サクラ様、キャルシィお嬢様」
久しぶりのカーラの家。そして、以前と変わらず迎えてくれる、執事のルナールさん。
少しは敬遠されるかもしれないと思っていましたが、執事さんに関しては無用な心配だったみたいです。カーラの幸せそうな顔を見て、察してくれたのでしょうね。執事さんにとっては、サイコス様とソフィー様の幸せより、カーラの幸せの方が大切という事でしょうね。
「今日は御馳走にしてね!サイコスとソフィーにもよろしくね!」
「かしこまりました。直ぐに準備致します」
おぉ!!御馳走!!凄く美味しいご飯が期待できますね!凄く楽しみです!
ですが、早くもサイコス様とソフィー様と会うのですね。少し緊張します。サイコス様と会うのは初めてですし。まぁ、そんなの些細な事ですね。早くご飯が食べたいです!
♢♢♢
そして、久しぶりのカーラの家のお風呂を満喫し、ご飯の時間がやってきました。もう、お腹ペコペコですし、目の前の料理が美味しそうでたまりません。
心から歓迎してくれているかは分かりませんが、サイコス様が歓迎の挨拶をしてくださり、歓迎会が始まります。まぁ、ソフィー様はずっと私を睨みつけているので、歓迎していない事は確かですが。
どうなるかと心配していたサイコス様は、カーラを妻にするだけの事はあり、心が広そうで優しそうな人です。これなら、この家でやって行けそうですね。ソフィー様は、どうせ直ぐになんとかなるでしょうし。ちょろ…カーラに一途ですからね。
「じゃあ、サイコスの堅苦しい挨拶も終わったし!お帰り、メイ!サクラ!キャルシィ!かんぱーい!!」
そして、カーラがワインを手に、嬉しそうにそう言います。カーラのテンションについて行ける人は居ませんが、皆それぞれグラスを持ち上げます。私も、ブドウジュースを1口飲み、ようやく料理に手を付けます。
んんー!!美味しいです!
♢♢♢
「…で、いつまでそこに居るつもりですか、ソフィー様は」
大きなベッドが2つ繋げられたままの、カーラの部屋。おそらくカーラの事ですから、1人になっても、ずっとこのままだったのでしょうね。
そして、部屋の隅でずっと私達を見ているソフィー様。ご飯を食べ終わり、カーラの部屋に来てから数分、何も言わずに立っていましたが、ようやく私が問いかけた事で口を開きます。
「…別に。私が何処に居ても勝手でしょ。私の家なんだから」
「そうですね。では、気が済むまでそこに居てください」
「はあ⁈ 何よその態度!カーラは私の嫁よ!あんたなんかに渡さないんだから!」
はい。やっと本音を言ってくださいましたね。まぁ、言われなくても分かっていましたけど。
やはり、カーラはソフィー様の嫁なのですね。ソフィー様の夫の嫁では無く。そして、その嫁がライバルを連れてきたという所でしょうか。どうでも良いですね、そんな事。
「ソフィー様。このベッド、あと1人くらい余裕で寝られるのですよ。カーラの隣、空いていますよ?」
「はあ⁈ …そんな事!…別に私」
もう一押しですね。
「嫌なら良いのですよ。ですが、ソフィー様も一緒の方が、カーラが喜びますよ。ね、カーラ」
「…うん。ボクは嬉しいけど。でも、ソフィーは嫌だよね」
カーラは、未だに少し嫌われていると思っているのでしょうか?先ほど、ソフィー様が私の嫁と言った事を聞いていなかったのですかね?カーラは、相手の気持ちを読み取る力が乏しすぎますね。ですが、ソフィー様がこう言われて、反論しない訳がありません。
「嫌な訳ないじゃない!カーラがそこまで言うなら、私だって同じ部屋が良いわよ」
「本当⁈ じゃあ、これからはソフィーも一緒だね!」
はい。ソフィー様攻略完了です。サイコス様は大丈夫そうですし、これで平和に過ごせますね。
「ありがと、メイ。メイは凄いね。メイと居ると、みんな仲良くなれるよ」
「たまたまですよ」
今回は、ソフィー様に本音を言わせるだけの、簡単な事でしたからね。
ふふっ。ですが、ソフィー様は後悔するかもしれませんね。これから始まるであろう、避けられない戦いに。ソフィー様は、私達に比べてレベルが低いですし、もしかすると死んでしまうかもしれませんね。
まぁ、ソフィー様なら死んでも大丈夫ですけどね。『神官』ですし、もし死んでしまっても私が天界に迎えに行けば良いだけですからね。
「これからよろしくお願いしますね、ソフィー様」
「…家族なんだから、様なんて付けなくて良いわよ。メイ」
おお!ソフィー様が私の事を名前で呼んでくれました!初めてです!なんだか嬉しいですね。おっと、ソフィー様ではありませんね。…ソフィーさん?…なんか違う気がします。
「…ソフィーちゃん?」
これですね。しっくりきます。
「ちょっと!なんでそうなるのよ!私の方が年上なのよ!」
「はい。よろしくお願いしますね、ソフィーちゃん」
あぁ、きっとあれですね。天界で、シルフィアさんが『ソフィーちゃん』と呼ぶのを沢山聞いたからですね。だから、しっくりくるのでしょう。
「なら、私もそう呼ぶわね。ソフィーちゃん」
「サクラまで!もぉ、メイのせいよ!」
ふふっ。嬉しいですね。最初にお会いした時は、少し近寄りがたい雰囲気でしたが、今はそんな事全く感じません。ソフィーちゃんも、称号を持っているだけで、ただの女の子ですからね。私達と一緒です。
「メイ、楽しいね。…メイ。これからは、ずっとボクの傍に居てね。もう何処にも行かないでね」
そう口にするカーラの表情は、嬉しさと悲しさ、そして願望の様なものが感じられます。きっと、私が姿を消して、一番悲しんだのはカーラ。私が帰ってきて、一番喜んだのもカーラ。
「…仕方ないですね。カーラが死ぬまで、ずっと一緒に居てあげますよ」
この先、私の人生が数十年、数百年、数千年。どれくらい続くかは分かりません。ですが、これだけは確信出来ます。カーラと、そしてみんなと過ごす時間が、私の人生で一番大変で楽しくて、幸せである事は。




