14話 新たな魔王
「メイは、みんな一緒が良いって言ったよ!」
「あら。でも、勝ったのは私よ」
カーラとサクラさんの勝負は、サクラさんの勝ちで終わりました。いえ、終わるはずでした。なんと、私が言った一言で、今度は口頭での戦いが始まってしまったのです。
「サクラもボクの家に戻ってきてくれれば良いじゃん!戻って来てよ!」
「嫌よ!サイコス様とソフィー様も居るじゃない!」
私がみんな一緒に居たいと言ったのを良い事に、負けたにも拘わらず引かないカーラ。確かに私は、そう言いましたが、最終的にどうするかは勝ったサクラさんが決めるべきだと思います。最初から私の意見は通りませんからね。
「メイ、お願い!サクラを説得して!」
「…え。私がですか?」
カーラは、自分ではどうしようも無い事を理解したのか、私のそう言ってきます。ですが、私でも無理ですよ。私だって、みんな一緒が良いですが、サクラさんが妥協しない限り、それが無理だという事は分かっています。そして、サクラさんが妥協しないのであれば、私はサクラさんにつきます。
毎日居るサイコス様達と、偶にしか居ない元ギルマス。それだけ比べても、圧倒的に後者が良いですからね。何より、勝ったのはサクラさんですし。
「カーラ。私はサクラさんにお世話になりま…」
…ん?ちょっと待ってください。ここで私がサクラさんを選んだら、まずい気がしてきました。
何故なら…。
「…カーラ。私がサクラさんと一緒に暮らすと言うと、カーラはどうしますか?」
「………ボクもサクラの家に行く。そうだよ!そうすれば良いんだ!」
…はい。アウトです。ソフィー様に殺されますね。いや、もしかすると、ソフィー様もセットで来るかもしれませんね。それは良いですけど、サイコス様が不憫すぎます。ユリアール家に婿入りして領主になったのに、嫁2人に家出されるとか、いくら何でも可哀そうです。
「…サクラさん。一緒にカーラの家に行きませんか?」
「…あぁ、もう!せっかく勝ったのに!カーラ、サイコス様とソフィー様にしっかりと説明しなさいよ」
「うん!ありがと、メイ!サクラ!」
サクラさんも、カーラが家出するのはダメだと判断したみたいです。ちょっと嫌そうな顔をしてますけどね。
はぁ。ソフィー様がどう出てくるか不安ですが、こうするしか無かったですからね。まぁ、何とかなるでしょう。何はともあれ、またみんな一緒に暮らせるというのは嬉しいです。それに、久しぶりのカーラの家のご飯。今から楽しみですね!
「じゃあ、メイ!帰ろうっか!」
「…魔王は良いのですか?」
「あ!ちょっと行ってくる!」
はい。カーラは完全に忘れていましたね。言わない方が良かったかもしれませんね。まぁ、和平を望んでいるかどうかくらいは、確認しなくてはなりませんからね。私も行きましょう。誰が魔王になったのか少しだけ気になりますし。
ドゴォォォォン!!
………。
…そして、カーラは魔王の部屋の扉を壊しました。
…5年前にカーラが破壊し、魔族さん達が頑張って修繕した扉なのですけどね。それが、勇者としての正しい入り方なのでしょうか?…そんな訳ありませんね。
…ごめんなさい、魔族さん。また直してください。
♢♢♢
カーラのせいで舞った土埃も晴れ、見えてくる魔王の玉座。そこに座るのは…。
「…お手洗いですかね?」
「んー。椅子の隣に誰か居るよ」
誰も座っていない玉座。そして、その横には1人の魔族。立つ位置からして、側近だと思われます。
背が高く、竜のような鱗を持つ腕。竜魔族ですね。たぶんですが、私の十三天王の1人だったと思います。私の記憶が正しければですけど。
「…オッディウス。魔王なんだら座っときなさいよ」
すると、横から顔を出してきたマリヤさんがそう言いました。どうやら、あの竜魔族さんが魔王みたいですね。マリヤさんは、魔王とお知り合いみたいですね。という事は、下界に来てから魔族領で過ごしていたのですかね?何の為にでしょうか?
「はっはっは。マリヤちゃん、俺は魔王代理だ」
すると、竜魔族さんはマリヤさんの言葉に反応し、そう言いながら私達に近付いてきます。近付いてきている竜魔族さんは、何故か私をずっと見ていますし、何だか凄く嫌な予感がしてきます。
そして、竜魔族さんは私の前まで来ると、すぐさま跪きました。
「よくぞお戻りになられました。『魔王』メイ様」
…はい。帰りたいです。




