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26話 ケルディ・サイコス 3

 

「ソフィー!」


 俺は、社交界で勇者と幸せな時間を過ごした後、王都の教会に向かった。魔王討伐の為に一緒に冒険した仲間、大聖女のソフィーに会う為だ。


「…なんだ、サイコスか。どうしたのよ」


「なんだとはなんだ!せっかく会いに来たというのに!」


 ソフィーは俺が呼ぶと、一瞬でこっちを見たくせに、直ぐに素っ気ない顔をする。大方、名前を呼ばれて勇者が来たかもしれないと期待したのだろう。ソフィーを名前で呼び捨てるのは、勇者か俺くらいだからな。


「で、どうしたのよ。あんたがわざわざ来たって事は何かあったんでしょ?」


「あぁ。実はな、さっき勇者に贈り物を貰ったんだ!良いだろ!」


 そして、俺はアイテム袋から、勇者に貰ったツボを慎重に取り出した。万が一にも割ってしまう訳にはいかないからな。


「…ふーん。良かったわね」


 ソフィーは、絶対に羨ましがっているはずなのに、素っ気ない返事をする。


「あぁ、凄く嬉しかった。少し変わったデザインだけど、一生大事にしようと思ってるよ」


「…そう。カーラのセンスは独特だものね」


 独特だろうが何だろうが、勇者に貰った物なら最高の宝物になる。ソフィーもそれが分かって……ん?今、ソフィーは勇者の事を名前で呼ばなかったか?…いや、きっと聞き間違いだ。


「…ソフィー。今、何て言った?」


「カーラのセンスは独特だと言ったわよ?」


 …今度はしっかりと聞いた。間違いなく、ソフィーは勇者の事を名前で呼んだ…。


「ソフィー、どういう事だ!どうして勇者の事を名前で呼んでいるんだ!」


「ふふっ。実は、カーラに名前で呼んでほしいって言われたのよ!」


「な…!」


 …あり得ない。どうしてだ!羨ましい!


「ズルいぞ!俺だって名前で呼びたい!」


「えー。カーラに言われなかったって事は、別に名前で呼ばれたいと思って無いんじゃない?」


「くっ…!」


 くそっ!俺だって勇者ともっと仲良くなりたいのに。どうしてソフィーに言って、俺には言ってくれないんだ!俺がソフィーに負けてるって事なのか?このままでは、ソフィーに先を越されてしまう…。


「…俺も、勇者の事をカーラと呼ぶ。明日、絶対に呼ぶ!」


「好きにすれば。無視されないと良いわね」


 くっ…。確かに、その可能性もあるかもしれない。もし無視されたなら、俺は立ち直れなくなるだろうな。…だが、ソフィーが勇者を名前で呼んでると知った以上、俺も呼ばないという選択肢は存在しない。


 俺は、意思を強く持ち、明日実行する事を心に決めた。






「…そろそろ良いかしら?それで、自慢する為だけに私に会いに来たの?」


「…え?」


 俺が心の中で、勇者の事をカーラと呼ぶ練習をしていると、急にソフィーがそう言ってきた。


 …そうだった。自慢するついでに、魔王の事を聞こうと思っていたんだ。危うく忘れるところだったな。


 そして俺は、一旦練習を止め、頭を切り替えた。


「…ソフィーは魔王に会ったのか?」


「あぁ、その事ね。聖女の時に会ってるし、魔王になってからも会ったわよ」


 やはり、ソフィーも会っていたのか。にもかかわらず、魔族と知っても倒さないのか。…それとも、単に倒せないのか。


「実際、どうなんだ?」


 勇者は、魔王の事を優しいと言っていたが、ソフィーなら第三者として違った意見を持っているかもしれない。


「…ムカつくけど、良いやつよ。カーラとパーティーを組んで家に住み着いて、本当に羨ましすぎてムカつくけど、あの娘のおかげでカーラと少し仲良くなれた気がするわ」


「な、なんだと!勇者と何かあったのか?」


 名前で呼んでいる事だけでも羨ましくて仕方なかったというのに、それ以上の進展があったと言うのか⁈


 …魔王め。余計な事を…。やはり、野放しにはしておけない。



 ♢♢♢



 一体、何分が経過しただろうか。あれからソフィーは語りだし、なかなか終わらない。話の内容は、ユリアール領のギルドから王城まで、一緒に話しながら歩いたというだけだ。距離はそんなに無いし、歩いて20分ほどの道のりの内容だというのに、もうすでにソフィーは20分以上話し続けている。


 俺だって、今日は勇者と長い時間会話した。だが、勇者と一緒に歩きながら会話するのは、死ぬほど羨ましいと思ってしまう。それは、ソフィーがあまりにも嬉しそうに話すからだろう。


「…ソフィー、もう十分伝わった。そろそろ話を戻そう」


「はぁ?まだ全然伝えて無いわよ!それに、魔王は無害だし世界は今より平和になる。それが事実で、それ以上に話す事は無いわ。そんな事はどうでも良いから、もっとちゃんと聞きなさいよ!」


 そして、ソフィーの話は続く。聞けば聞くほど、羨ましくてたまらない。もう勘弁してほしい。…だが、勇者の事を聞けて嬉しい気持ちもあり、俺はソフィーが満足するまで黙って聞き続けた。




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