21話 お肉
二度寝から覚めると、部屋にサクラさんとキャルシィは居らず、お昼の時間です。どうやら、置いて行かれたみたいですね。仕方が無いので、今日はのんびりしましょう。先ずは、ご飯ですね。
そして私は、顔を洗って食事に向かいます。
「おや?今日は遊びに行かなかったのかい?」
「はい。置いて行かれました」
食堂に着くと、既に皆さん食べ終わっている様で、料理人さんがお皿を片付けています。…どうやら、少しだけ寝すぎてしまったみたいですね。
「ご飯、残っていますか?」
「残ってはいるけど、メインが無いね」
うぅ。領主様達は居ませんし、メインは人数分しか作っていなかったみたいです。いつも居ない人間が食事の終わった後に出てくれば、こうなってしまいますよね。凄く悲しいです。
「…何か作ろうか?」
「良いんですか⁈ お願いします!!」
凄く嬉しいです。カーラの家の人はみんな優しくて大好きです。
「いやぁ、そんな悲しそうな顔されちゃあね。何が良い?」
「お肉が食べたいです!!」
せっかく私の為に作ってくださるなら、我儘を言わなければもったいないです。私は、率直に食べたいものを要求します。
「…お肉かぁ。これから買い出しに行く予定だったから、くず肉くらいしか残ってないな」
「…そうですか」
残念ですが、仕方がありません。買い出しが終わるのを待っていれば、何時になるか分かりませんからね。うーん。どうしましょう。あ!そういえば…。
「私、お肉持ってます!」
「えぇぇ⁈ お肉を持ち歩いてるの⁈ …そんなに好きなんだね」
どうやら、少し誤解されているみたいです。別に、食べる為に持ち歩いている訳ではありませんからね。
「少し大きいので、お庭に出しますね」
「え…。うん」
そして私は、裏口から外に出て、アイテム袋からお肉を出します。一昨日ポチが狩ったドラゴン、入れたままだったのですよね。
「……え。…メイお嬢ちゃんが倒したのかい?」
「違います。私の家族が倒しました」
ポチにバフは掛けましたが、私はそれ以外に何もやっていませんからね。
「…凄いな。でも、良いのかい?売れば当分の間、贅沢出来るだけの金が手に入るよ?」
「大丈夫です。まだ沢山持ってるので、調理代と思ってください!残った分は、好きに使ってくれて良いですからね」
ドラゴンは大きいので、私が1食分食べても、殆ど残ります。余ったお肉は次の調理でも使えますし、素材を売れば、それなりの金額になるはずです。いつも美味しいご飯を食べさせてもらっているので、そのお礼だと思えば安いものです。
「…分かった。ありがたく受け取るよ。直ぐに調理するから、少しだけ待っててね」
「はい!」
そして料理人さんは、ドラゴンの尻尾を少しだけ切り取り、厨房に向かいます。私は食堂に戻り、暫しの待機です。メインを作るだけなので、きっと直ぐに出来るでしょう。
♢♢♢
「お待たせ。ドラゴンの尻尾ステーキだよ」
「美味しそうです!ありがとうございます!」
10分もせずに出てきたので、おそらく味付けして焼いただけですが、香ばしい匂いが凄いです。
「んんぅ。美味しいです!」
高級食材に、一流の料理人。まずい訳がありません。柔らかさが丁度良くて最高です。カーラとパーティーを組んで、本当に良かったです。カーラと組まなければ、私は一生食べれなかったと思いますからね。
はあ、本当に美味しいです。幸せです。
♢♢♢
美味しいものは、直ぐに食べ終わってしまうのが自然の摂理で、いつの間にか私の前のお皿から料理は無くなりました。お腹も満腹で、満足です。これは、もう一度お礼を言うべきですね。…どこに居ますかね?
そして、料理人さんを探しますが、厨房を覗いても居ません。外ですかね?
あ、居ました。ドラゴンを解体しようとしているみたいですね。
「んー。どうしたものか…」
ですが、何やら困っている様です。売ったお金の使い道でも悩んでいるのですかね?
「どうされました?」
「…いや。貰ったは良いんだけど、どうやって解体したものかと…」
あぁ。確かに、ここまで大きいと大変ですもんね。それなりに力も必要でしょうし、料理人さんには少し難しいかもしれませんね。
「適当にぶつ切りで良ければ、私が切りますよ?」
「え⁈ そんな事出来るのかい?」
料理人さんは、私が冒険者だとは知っていますが、レベルまでは知りません。だから、出来ないと思っているのでしょうね。ですが、適当に切るだけなら、私でも可能です。
「楽勝です!」
「出来るなら、やってほしいけど…」
やはり、信用していないみたいですが、やってほしいならやりますよ。美味しい料理の為ですからね。
そして私はアイテム袋からゴンザリオンを出して、ドラゴンの両手両足、翼に頭、尻尾を根本から切り落とします。胴体は、内臓の位置を教えてもらって、それを避けて適当にぶつ切りです。
ドラゴンといえど、死んでいれば怖くありませんからね。遠慮なく切り刻みます。
「…いやぁ。カーラお嬢様は凄いと聞いているけど、メイお嬢ちゃんも凄いんだな。流石は勇者パーティーだね」
…え?勇者パーティー?
私達のパーティーって、そう呼ばれているのですか?確かに、カーラは勇者の称号を持っていますが、勇者パーティーというのは、勇者、賢者、聖女の揃ったパーティーの事ですよね?私の聖女の称号は上書きされましたし、賢者は私達のパーティーには居ません。カーラが勇者と言うのも、微妙な所です。
「別に、勇者パーティーではありませんよ?」
勇者と大天使〈堕〉と元受付嬢。…何パーティーですかね?
「そうなのかい?俺からしてみれば、カーラお嬢様が居るパーティーが、勇者パーティーだよ」
「…そうなのですか」
世間では、そういう認識なのですね。…少し。いえ、かなり嫌ですね。そんな大層な者ではありませんし、カーラがリーダーみたいで嫌です。
私はリーダーに向いていませんし、やはりリーダーはサクラさんですかね?サクラさんなら適任です。…そうですね。元受付嬢パーティーというのは変ですし、差し詰め、寄せ集めパーティーという所でしょうかね?
カーラは元のパーティーを解散して1人でしたし、私はパーティーを追い出された身。サクラさんは、脱受付嬢です。本当に、どうしてこんなパーティーが出来てしまったのでしょうね?まぁ、私は今の生活に満足しているので良いですけど。
♢♢♢
「メイちゃん、ただいまぁ」
「おかえりなさい」
ご飯を食べてからは、ベッドの上でダラダラ過ごし、夕方頃にサクラさんとキャルシィが帰ってきました。ダラダラしていると、1日というのは本当に短く感じてしまいますね。先ほどお昼ご飯を食べたのに、もうすぐ晩御飯です。楽しみですね。
「メイちゃん、見て見て!」
そう言って、サクラさんが見せてきたのは冒険者のギルド証です。
「…え?ギルマスを倒したのですか⁈」
そこに書かれていた文字は、私と同じSSランク。サクラさんはCランクだったはずですけど…。私がだらけている間に、1人でランクを上げてきたという事でしょうか?
「負けちゃったけど、昇格は認めてもらえたわ」
「…凄いです。カーラが驚きますよ」
本当に信じられません。5日でEランクからSSランク。絶対に最速ですよ。私なんて、2年も冒険者をやっていたのにBランクでしたし。…才能ですかね。…いや、努力ですね。
この5日間、私がポチと遊んでいる間にも魔法の特訓をしていましたし、今日も私がダラダラしている間にギルマスと戦ってSSランク…。何だか、自分が少し恥ずかしくなりますね。
…こんなではダメですね。この調子だと、簡単にサクラさんに追い抜かれて、愛想をつかされます。まぁ、追い抜かれるのは一向に構いませんが、サクラさんに見放されるのは絶対に嫌です。
「…サクラさん、明日はちゃんと動きますから」
「ふふっ。期待してるわよ」
…これは、頑張らなくてはなりませんね。先輩冒険者として、しっかりとやらなくてはなりません。私は、明日から本気を出します。本気でバフとデバフを掛けまくりますからね!




