20話 賭け
「ん?誰も居ないじゃないか」
私とギルマスは、SSランク昇格試験の為にギルドの闘技場に向かった。そしてギルマスは、辺りを見渡す。
「居ますよ。ここに」
私のその言葉に、ギルマスは目を見開き固まった。信じられないものを見てしまったかの様に。
「……は? ………いやいやいや、待て待て待て!そうだ!トイレにでも行ってるんだな!全くあいつらは!それくらい事前に済ませておけよな!」
…ん?
…つまり、私な訳が無い。私であってほしくないって所かしら?それなら…。
「ギルマス、賭けをしませんか?」
私はそう言って、剣を抜いた。メイちゃんの昇格試験の時を思い出させれば、世の中には自分が納得出来ない事が起こりうる事を理解出来るだろう。
「…ま、ま、ま、ま、待ってくれ!少しだけ待ってくれ!…お、お、お、お、落ち着け、サクラ!落ち着こうな、サクラ!」
…誰が見ても落ち着いていないのは、ギルマスの方。だけど、よく考えてみたら、剣を抜いたところで、私がギルマスに剣術で勝てる訳が無い。確かに、私は落ち着いていなかったかもしれないわね。
そして、私は一度抜いた剣を収めた。
「偉いぞ、サクラ!そうだ、落ち着くんだ。それにしても遅いな。腹でも下しているのか?…な、サクラ!」
剣を抜いて尚、認めようとしてくれないとは…。まぁ、見せれば早いわよね。
「ギルマス、見てください。Sランクです」
私は、ギルマスに見える様に、冒険者のギルド証を見せた。
「そんな訳無いだろう!!…はっ、そうか。偽造したんだな!サクラなら出来るもんな。絶対に怒らないから、正直に言ってくれ。いや、嘘でも構わないから、偽造したと言ってくれ!」
確かに私なら出来ない事は無いけれど、流石にそんな事しないわよ…。どうやっても認めたく無いみたいね。
「…ギルマス、いい加減にしてもらえませんか?そろそろ戦りましょうよ」
「サクラがそんな事言う訳無いだろうが!!!」
ギルマスは今日一番の大きな声で叫び、私の言葉を否定する。こんなにも感情的なギルマスを見るのは初めてかもしれない。
「…サクラ。俺は、お前とは戦いたくない…」
「…どうしてですか?」
「…俺は。…サクラにまで負けたら絶対に立ち直れない」
あぁ。気持ちは凄く分かるけど、その言葉をギルマスから聞きたく無かったわね。メイちゃんに手も足も出ずに負け、かなり落ち込んだのは知っている。そして、それから強くなるために毎日訓練した事も…。
その状況で、元受付嬢の私なんかに負けてしまったら、自信を無くして立ち直れなくなるかもしれない。…でも。
「ギルマス、私のレベルは128です。普通にやれば、ギルマスが負ける事はありません」
「そうか!良かった!………いやいやいや、おかしいだろ!何だよ、128って!あいつらより高いじゃないか!」
ギルマスがあいつらと呼ぶのは、おそらくメイちゃんに改造された冒険者の事。彼らは、110レベル前後だったはずだから、それよりは明らかに高い。
「まあまあ。それは良いじゃ無いですか」
「…良くは無いが。だが、分かった。認めたく無いが、認める。…ふぅ。始めようか」
そして、ギルマスは剣を抜き、息を整える。私のレベルを聞いて安心したのか、さっきまでの慌てようが嘘の様だ。
「では、賭けの内容は…。私が勝ったら、キャルシィの給料を3倍に。負けたら私の退職金は無し。…くらいで良いですか?」
受付嬢の退職金は辞めてから1週間程で振り込まれる。つまり、私はまだ貰っていない。…それに今の私なら、自己都合退職の退職金なんて大した額じゃないし、貰えなくても問題ない。
「給料は1.5倍なら良いぞ」
…前回の反省からか、ギルマスの器が小さい。まぁ、流石に勝てるとは思っていないから、どちらでも良いけど。
「分かりました。では、始めましょうか」
「…おう」
そして、賭けの内容も決まり、戦いが始まる。
だけど、ギルマスは動かない。前回メイちゃんに一撃でやられた事を警戒しているのかもしれない。でも、私にはそんな事出来ないから、寧ろ好都合。
私は、自分の魔力をどんどん使い、出来るだけ多くの水の矢を作り出した。そして、それをギルマスに休む暇なく放つ。ドラゴンを倒した時の様に、撃っては作りを繰り返す。
「なっ!ちょっ、おい!はぁ⁈」
だけど、流石はギルマス。驚きながらも、全ての矢を避けたり剣で防ぐ。やはり、このくらいではダメみたいね。そしてギルマスは、矢を防ぎながら少しずつ近付いて来る。
…相手になるとは思えないけど、剣で応戦するしか無いわね。
キイィィィン!!
一撃目は何とか受け止めた。だけど、力が違いすぎる。受け止めるだけで精一杯。
「やるじゃないか、サクラ。負けるかと思ったぞ」
「…ふふっ。余裕そうですね」
ギルマスは勝ちを確信したかの様に、自信たっぷりでそう言ってくる。
「終わりだ、サクラ!」
そして、ギルマスは剣を再び振り下ろす。
…流石に、これは受け止められなさそうね。私なりに結構頑張れたけど、やはりまだギルマスには及ばないみたいだわ。
ガキンッ!
……ザッツ!!
「「……は?」」
だけど、どういう訳かギルマスの剣は折れ、切先が地面に刺さる。
…これは。
シュッツ!
私は直ぐに剣を動かし、ギルマスの首元で止めた。
「私の負け…でしたね」
「…あぁ。だったな」
負けのはずだった…。強さだけで言えば、私の完全なる敗北。だけど、剣の性能が違いすぎた。『魔剣』ディスティリオン…。やはり、とんでもない剣を貰っていたわね。
「はぁ。じゃあ、私の退職金を新しい剣の代金の足しにしてください」
ギルマスが使う様な剣の代金から考えれば、殆ど役に立たないけど、負けたのだから仕方が無い。
「…分かった。キャルシィの給料は1.5倍にしておく」
「え⁈ 良いんですか?」
…意外。ギルマス的にも、勝ちとは言えなかったという事かしらね。
「あぁ。付いて来い」
「はい!」
そして、私はギルマスの後を追った。
♢♢♢
「キャルシィ、サクラをSSランクにしてくれ」
「はい」
キャルシィの元に着くなり、ギルマスはそう言った。
「良いんですか?」
「あぁ。十分だ」
このギルドでSSランクになるには、ギルマスに勝つか、認めてもらうか。さっきの試合は勝ちとは言えなかったけど、ギルマスは実力を認めてくれたみたいね。
「ありがとうございます。次は負けませんからね」
「…勘弁してくれ」
そして、それだけ言ったギルマスは自分の部屋に戻って行った。メイちゃんの時みたいに、自信を無くした訳ではなさそうだけど、少なからずギルマスの心に影響したみたいね。
「サ、サ、サ、サクラ!…あなたねぇ!!」
「ふふっ…。なってしまいました」
私をSSランクにする事を聞き、再びレイラさんはドン引きして頭を押さえる。だけど、これは言い訳のしようが無い。
このギルドのSSランク冒険者は、カーラとメイちゃんだけ。つまり、私はこのギルドで3番目に強い冒険者…。
…他の冒険者に申し訳無いわね。まぁ、なってしまったものは仕方が無い。あの2人とパーティーを組むんだから、これくらいで丁度良いわよね?




