19話 メイちゃんは起きない
早朝から、七聖龍がやって来るという予測出来ない事が起き、メイちゃんは朝ご飯を食べた後に寝てしまった。少し疲れたのかと思い、少しだけそっとしていたけど、1時間経っても起きなかったので、私はギルドに向かった。キャルシィの仕事もあるから、これ以上遅くなるのはまずいものね。
さて、何をしようかしら。1日中ギルドでキャルシィの相手をしていても良いけれど、受付嬢を辞めた私が居座っていると、何か言われそうなのよね。特に、レイラさんさんは絶対に何か言ってくるわ。メイちゃんが居ないと不安だけど、狩りにでも行ってみようかしらね。
♢♢♢
ズシィィィィン!!
……おかしいわね。オーガってこんなに弱かったかしら?メイちゃんにバフもデバフも掛けてもらってないのに、一撃…。それに、1人で倒したのにレベルが上がらない。まぁ、昨日100レベルを超えちゃったものね。これは仕方ないわ。もう少しだけ強い魔物は居ないかしらね?
でも、辺りを見渡しても、なかなか見つからない。…あんまり奥まで1人で行くのは危険だけど、もう少し進んでみようかしら。
そして、進みながら敵を倒し、私はどんどん奥へと進んで行った。
「…おかしいわね」
Aランクの魔物もちらほら出てきたというのに、剣と魔法で対応すれば、苦戦する事無く倒せていく。
メイちゃんに貰った『魔剣』ディスティリオン…。改めて、凄い剣よね。それに、メイちゃんのお母さんである、マイさんに教わった魔法…。少ない魔力で効率よく発動出来るから、何発も撃てるのよね。威力も申し分ないし。
はぁ。自分で望んで進んだ道だけど、まだ実感が湧かないわね。この調子なら、ドラゴンくらい倒せるんじゃないかしら?その辺に居ないかしらね。
…居たわね。
遠くに見える山の上。くっきりとは見えないけど、ドラゴンなのは間違いないわ。
…行ってみようかしら。危なくなったら逃げれば大丈夫よね?
♢♢♢
ドシイィィン!!
「…おかしいわね」
近付くのは危ないと思って、少し離れた位置から魔法を撃ち続けていたら、10分ほどでドラゴンを倒してしまった。メイちゃんみたいに、3匹まとめて一撃には程遠いけど、1人でドラゴンを倒すってだけで、もうトップレベルの冒険者よね。
…まだ5日目なのだけど。
♢♢♢
「素材代、1860万3000カーラです」
「ありがとう」
…受付嬢の給料何年分かしら?
お昼ご飯を食べに戻ってきて、食べた後に狩った魔物をギルドで換金したら、とんでもない金額になってしまったわ。しかも、1人で倒したから、まるまる私のお金。…ヤバイわね。
「それと、今回の討伐でSランクに昇格です。おめでとうございます」
「…うん。ありがとう」
…まずいわね。嬉しいんだけど、お昼時でギルドに冒険者が殆ど居ない事もあり、キャルシィの声がギルドに響く。もちろん、他の受付嬢に聞こえない訳が無い。
「…サクラ。…え?…サクラ?」
「…サクラですよ」
それを聞いていたレイラさんが、明らかにバグを起こされている。少し前までレイラさんの後輩受付嬢だったサクラで間違い無いですよ。
「…そんな訳無いわ。あなた誰?」
「…サクラですよ」
いや、7年も一緒に勤務した相手の顔を忘れたのですか?間違い無く私ですよ。昨日も会いましたよ。
思わずそう言いたくなるくらい、レイラさんは動揺されている。まぁ、無理も無いわね。私自身、まだ信じられないもの。
「はぁ…。あなたも聖女様に改造されたのね…」
「え…。まぁ、そうですね」
レイラさんが聖女様と呼ぶのは、もちろんメイちゃんの事。レイラさんは、メイちゃんが魔王だという事を知っているけれど、まだ秘匿事項扱いだから、聖女様と呼ぶ。
メイちゃんがランキングから消えた事は、もちろんギルド関係者なら誰でも知っている。だからこそ、ギルド関係者にはメイちゃんが魔王である事は伝えられ、冒険者に広めない事が義務付けられた。
そして、このギルドには、レイラさんの言う様に改造された冒険者が存在する。今まで殆ど居なかった、Sランク冒険者になった8人の事だ。たった数日で実力を身につけた彼らは、改造された冒険者と呼ばれている。その8人と同じ様に、私は数日でSランク冒険者になってしまったから、そう呼ばれるのは仕方がない事だ。
でも、その8人はSランクで止まっている。それは、レベルが上がっただけで、技術が追いついていないからだ。それでは、ギルマスに認められてSSランク冒険者になる事は不可能。だけど、私は違う。…と思う。
「ちょっと、ギルマスに会ってきますね」
「ギルマスに会うには受付嬢の同伴が必要よ。…やっぱり、あなたはサクラね」
もちろん、私もそんな事は知っているけど、きっと私なら許される。事実、誰も止めようとしないし、付いて来ようともしない。まぁ、ギルマス会うのが嫌という事が強いかもしれないけど。普通は、自分が所属するギルドのトップに会いたいとは思わないものね。ましてや、あのギルマスだもの。
♢♢♢
コンコンコン
「ギルマス、居ますか?」
「……あぁ。居るぞ」
私は、ギルマスの部屋に行き、ドアをノックした。午後に部屋に居るかどうかは、2分の1くらいの確立だけど、今日は居たみたいね。メイちゃんに負けて以来、午後は闘技場で訓練しているか、部屋で休憩しているかなのよね。
「…今日は暇なのか?受付嬢の仕事がやりたいなら、いつでも戻ってきてくれて構わないぞ?」
どうやらギルマスは、私が1人で部屋に来た事を、受付嬢の手伝いか何かだと思っているみたい。普通は、冒険者が受付嬢を伴わずにやって来たら、怒らなければならない立場なのだけどね。
だけど、受付嬢の仕事とも言えなくは無いから、私は気にせずに続ける。
「ギルマス、SSランク昇格試験の申請がありますが、今から可能ですか?」
「あぁ、良いぞ。また改造者の誰かだな。全く懲りない奴らだ」
改造者で間違っては居ないけれど、ギルマスが想像している改造者じゃ無いのよね。まだ言わないけれど。
そして、私はギルマスを連れて、闘技場に向かった。




