15話 受付嬢のレイラさん
「…ここは勝手に入っても大丈夫なのですか?」
今、私が来ているのは、ギルド内の資料室の様な場所です。こんな場所がギルドに有ったとは知りませんでしたね。
「大丈夫よ。キャルシィに許可を貰ったから」
………。サクラさんはそう言いますが、本当に許可を貰ったのでしょうか?家からギルドに来る間に、そのような会話は無かったと思いますが。…私が寝ている間に話したのですかね?それとも、お手洗いに行っている間ですかね?まぁ、許可を貰ったなら大丈夫なのですけど…。
そして、サクラさんは慣れた手付きで資料を漁ります。流石、元受付嬢ですね。
「ここで竜に関する資料を探すのですね?」
「えぇ。魔物の目撃情報なんかは、ギルドが一番持っているもの」
手当たり次第に竜を探すのではなく、先ずは情報収集からという事ですね。こういうのは、私やカーラでは出来ませんし、サクラさんだから効率良く出来る内容ですね。
「あらぁ?サクラじゃない。こんな所で何をやっているのかしら?」
すると、サクラさんが資料を探し始めて数分後、とある女性が話しかけてきました。受付嬢のレイラさんです。レイラさんは、私の最初の担当受付嬢で、黒髪黒目の美人さんです。
「…少し資料を探しています」
「あら、ここはギルド職員以外立ち入り禁止よぉ?」
…許可を貰ったとか以前の問題でしたね。サクラさんが許可を貰ったと言うので、少ししか疑わずにいましたが、完全にアウトではありませんか。ギルド内部なのに、私が存在を知らない訳ですよ。
「別に良いではありませんか。荒したりしませんから」
「サクラだから、その辺の心配は無いけど、規則は規則よ。今なら見なかった事にしてあげるから、出ていきなさい」
サクラさんは長年勤めていた訳ですから、信用はされています。ですが、そういう問題では無いみたいです。
「…規則と言うなら、どうしてレイラさんは私に敬語を使ってくださらないのですか?私は冒険者ですよ?」
受付嬢の規則で、許可を得ない限り冒険者には敬語を使う事になっています。つまり、たとえ元先輩であっても、レイラさんはサクラさんに敬語を使う必要がある事になってしまいます。…その規則を持ち出すとは、サクラさんは意外と意地悪ですね。
「…そうですね。では、さっさと許可を頂けないでしょうか?サクラ様に敬語を使うのは少々違和感を覚えます」
「では、もう少しだけ資料を探させて頂けませんか?それを黙認して頂ければ、直ぐに許可致しますよ?」
…あぁ。一言で言うと、怖いです。この2人は仲が悪かったのですかね?今すぐ、ここから出ていきたいです。ですが、1人で逃げる訳にはいかないので、出来る限り空気になりましょう。これから飛び交うであろう罵詈雑言。私は一切気にしませんからね。
「はぁ。で、何探してんの?」
「竜の資料です。風魔法と光魔法を使える竜を探しています」
…あれ?一瞬で険悪なムードが消えてしまいました。どうなっているのでしょうか?私の予想とは違い、瞬時にお互いの条件を受け入れた様です。
…もぉ。それが出来るなら、最初からそうしてくださいよ。凄く怖かったではありませんか。
♢♢♢
あれからレイラさんも資料探しに加わってくださった事で、直ぐにお目当ての情報が見つかり、私達は竜を探しに向かいます。2種の竜の目撃情報があったのは、ここから遠くない場所で、日帰りで向かえそうです。
「先ずは、風魔法を使える竜ね。メイちゃん、よろしく」
「はい」
そして、私は闇魔法をとある場所に繋げます。闇魔法をつなげられる場所、つまり私が行った事のある場所です。
「…うわぁ。聞いていたよりも悲惨ね」
そう。ここは山火事があった、サザナミ領の北の森。高い場所から見ているので、燃えた森が一望出来ます。ここで竜が目撃されたみたいです。
ですが、竜が目撃されたのは森が燃える前。きっと逃げているでしょうね。
「どうやって探しますか?」
カーラが居れば、野生の勘で直ぐに見つけてくれるでしょうが、今は居ません。私達だけで見つける事は出来るのでしょうかね?
ですが、そう言ったのも束の間。サクラさんが信じられない事を言います。
「どうやってって…。そこに居るわよ」
「…え? …居ますね」
そんな都合良く居る訳ないと思いながらも、サクラさんが指差す方を見てみると、焼けた森の中に1匹の生き物の姿が見えました。
その生き物の周りの燃えた木々はなぎ倒され、上から見れば丸見えです。森が燃えて逃げたけど、火が消えて戻ってきたのでしょうか?どちらにせよラッキーですね。
見た目はドラゴンよりも大きいので、竜である事は間違いありません。後は、あの竜が風魔法を使えるか確認する必要がありますね。
「じゃあ、メイちゃん。行ってきてくれる?」
「…え?…嫌ですけど」
「…え?」
あれ?私が全部やる流れなのですか?
あの竜が風魔法を使えるか確認して、動けなくして魔力譲渡して、回復させて…。
…全部私がやらなければならないのでしょうか?




