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6話 ブラック受付嬢

 

「…本当に辞めてしまわれたのですか?」


「えぇ、辞めちゃったわ」


 …そんな軽い問題なのでしょうか。サクラさんは、私が冒険者になるよりも前から受付嬢をされていました。何か、どうしても辞めないといけない理由があったのでしょうか。…もしくは。


「…カーラのせいですか?」


 サクラさんは、カーラの担当受付嬢です。たくさん苦労していたと思います。我慢強く耐えてきたけど、もう耐えられなくなってしまったのでしょうか?


「んー。どちらかと言うと、メイちゃんのせいかな」


「え…?私のせいですか?」


 どういう事でしょうか。私、何かやってしまったのでしょうか?私がやった事…。


 ………どうしましょう。よく考えてみると、思い当たる節が沢山ありますね。


 七聖龍をテイムしたり、冒険者のレベルのバランスを崩したり、死んだと思われて心配させたり、魔族(キャルシィ)を連れてきたり、騎士団長おじさんを外でスクワットさせたまま放置したり…。少し思い出すだけで、いろいろ出てきますね。


 もし、私の担当受付嬢になってしまったばかりに、サクラさんが何らかの後始末をしていたとなれば、私は物凄く迷惑をかけている事になります。カーラだけでも大変なのに、私の分まで…。


「…ごめんなさい」


 気付いていなかったとはいえ、許される事ではありませんね。私せいでサクラさんが仕事を辞めるまで追い詰められていたなんて…。


「ちょっと待って!何か勘違いしてるわよ。私がメイちゃんともっと一緒に居たかったから辞めたのよ!」


「…え?…私とですか?」


「そうよ。私ね、カーラが羨ましかったの」


 …どういう事でしょうか。話が見えません。それに、カーラに羨ましい要素なんて、ありますかね?…確かに、カーラには立派な家とお金がありますが、勇者とか貴族とか絶対に嫌ですし。サクラさんは、そういうのに憧れているのでしょうか?そういう風には見えませんけど。


「私は何年もカーラを見ていたんだけど、今のカーラは本当に幸せそうなのよ」


「…そうなのですね」


 きっと、それは私のデバフで楽しめるからですね。カーラは本物の戦闘狂なので、それがサクラさんから見ても、幸せそうに見えるという事でしょう。


「けどね、羨ましいのと同時にイラついたわ。私には散々面倒ごとをやらせたくせに、自分だけ幸せになりやがって…ってね」


「……………」


 お気持ち、物凄く分かります。カーラが幸せそうな顔をしている時は、私はムカついている時が多いですしね。逆に私が幸せだと思うのは、カーラが良い感じに痛めつけられた時ですし。


 そう考えると、枕投げは両者が楽しめる最善の方法かもしれませんね。…私のレベルが上がってしまう事を除けばですけど。


「では、その原因を作った私を利用して、カーラに復讐したいという事ですね」


「…物騒な事言うわね。まぁ、全くそのつもりが無いとは言えないけど。ただ、私も幸せになりたいと思ったのよ」


 ………。サクラさんが幸せになるのは大賛成ですが、どうも私のせいだという事にしっくりきません。


「えっと。つまり?」


「このまま受付嬢としてカーラに迷惑をかけ続けられるくらいなら、思い切って冒険者にでもなってみようと思ったのよ。そしてメイちゃんと一緒なら、私でも冒険者としてやっていけると思ったの。私も幸せになりたいの!」


 なんだ。そういう事なのですね。良かったです。幸せになったカーラが羨ましく、自分自身もそうなりたいと。その全ての原因が私にあり、私のせいだという事ですね。てっきり、私が何かとんでもない事をやってしまっていたのかと思いましたよ。なら、話は簡単ですね。


「サクラさん。私がサクラさんを幸せにしますからね!」


「ふふっ。ありがとう、メイちゃん。でも、何だか愛の告白みたいよ?」


「んな⁈ 違いますからね!そういう意味ではありませんから!」


 もう。カーラと生活しているせいで、カーラの変なところがうつってしまったのかもしれません。私の言葉に嘘はありませんが、そういう意味ではありません。もちろんサクラさんも分かっているので、笑っているのだと思います。


「じゃあ、メイちゃん。私をメイちゃんのパーティーに入れてもらえる?」


「もちろんです!よろしくお願いします!」


 これは凄く嬉しい事です!新たな仲間が出来てしまいました!しかも、サクラさんは私を魔物から守ってくれますからね。


「でも、良いんですか?カーラも居ますよ?」


「良いに決まってるじゃない。別に私、カーラの事嫌いじゃないわよ」


 …凄いです。何年もカーラの担当受付嬢をしてきて、そう言えるとは。大人ですね。


 …ですが、よく考えてみると、カーラに関わってカーラの事が嫌いな人は居ませんよね。私も、何だかんだ言っても、嫌いではありませんし。一緒に旅をしていたソフィー様はカーラの事が好きですし、サイコス様も嫌ってはいない様です。


 それは、実際カーラは優しくて、頼りになるからでしょう。自分勝手な部分は強いですが、それでも許される人徳を持っているという事でしょうね。



 ♢♢♢



 それから私達はギルドに戻り、倒した魔物を査定してもらいます。担当はキャルシィです!サクラさんが辞めるとなれば、必然的にそうなりますね。


「えっと、素材代46万2320カーラになります」


 スライムは大したお金にはなりませんが、オークやオーガを複数討伐したので、それなりの金額になりましたね。そして、私はこう言います。


「全部サクラさんが貰って良いですからね」


 実際、私は一匹も倒していませんし、スライムが相手の時は何もしていません。これは正当な理由でしょう。


「絶対にダメよ。カーラみたいな事言うんじゃないわよ」


「…え」


 サクラさんがそう言い、半分を私に渡してきました。


 …カーラみたいな事。カーラは譲りませんし、私はお金が好きなので受け取っていましたが、本来おかしいですもんね。そんな事を、同じように自分もやってしまうとは…。


「ごめんなさい…。ありがとうございます。これからは半分こですね!」


「お礼を言うのはこっちの方よ。1か月分の給料の約半分を、1日で貰えちゃったんだから。毎日朝早くから、夜遅くまで…。それをたった数時間で…。ありがとう、メイちゃん!」


 …少し、受付嬢のブラックな部分が見えてしまいましたが、喜んでもらえたのなら良かったです。そんな職業にキャルシィを勧めた私は…。いえ、キャルシィは私と同じ時間に来て帰るので、大丈夫ですね!


 …ですが、いずれは朝早くから夜遅くまで働くことになりますよね。ごめんなさい、キャルシィ。本当にごめんなさい。


「あ、あと。サクラ様はCランクに昇格になります。おめでとうございます」


「私達に様付けは不要よ。もちろん、カーラにもね」


 規則を守るキャルシィ…。流石です。そして、それを初手から止めさせるサクラさん。最高です。私もキャルシィに様付けされたく無いですからね。ここでもお姉ちゃんと呼んでほしいです。


 そして、さらっとサクラさんはCランクに昇格です。パーティーでとはいえ、Bランクの魔物を複数討伐しましたからね。Aランク以上は単独討伐が条件ですが、Bランクまでは直ぐになりそうですね。私も前のパーティーでは、魔物をほとんど倒さずにBランクになりましたからね。パーティーを組んでいれば、それが可能です。


 まぁ、サクラさんの場合は、私と違いますけどね。私からすれば、ほぼ1人で倒している様なものですし。


「じゃあ、メイちゃん。今日は本当にありがとう。明日もよろしくね」


「はい、こちらこそ。では帰りましょうか。カーラの家に!」


「…え?」



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