7話 お引越し
「私も入って大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。どちらにせよ、今日で出ていくのだから」
私達は今、ギルド職員専用の寮に来ています。ギルドのすぐ近くで、サクラさんが住んでいる場所です。勝手に私が入っても大丈夫な場所なのかは疑問が残りますが、サクラさんが大丈夫というなら、信じるしかありません。本当はこれから住む場所を探す予定だったらしいですが、私がカーラの家に誘ったので、今から急遽お引越しという流れです。
「おぉ、可愛いお部屋ですね」
「ふふっ、でしょ」
サクラさんの部屋は、女性らしいお部屋で、可愛い家具や置物がいろいろあります。宿の一室とそこまで変わらないレベルの広さですが、安くて近いので住み続けたらしいです。
「はぁ、5年近くもここに住んでいたから、少し寂しいわね」
「…5年」
そんなにも長い期間この部屋で暮らしながら、朝早くから夜遅くまで仕事をし、その仕事ではカーラに虐められる…。私には絶対に耐えられませんね。3日で辞めて、実家に帰ると思います。サクラさんは本当に凄いです。これからは、贅沢にしてほしいものですね。
「じゃあ、早速始めましょ。メイちゃん、バフ掛けて」
「…え?今ですか?」
…急にどうしたのでしょうか?これから引越し作業をするというのに。理由が分かりませ……はっ!…わ、私、分かってしまいました。やはり、部外者を勝手に入れてはならなかったという事ですね。だから、バレてしまった時のために逃げる準備をしておくという事ですか。
「ありがとう。助かるわ」
「いえ、私も周囲の警戒は怠りません」
「ふふっ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。傷つけたりしないわ」
おぉ。流石はサクラさんですね。余裕そうです。これなら大丈夫そうで…。
「よいしょっと」
ヒュンッ…ヒュン、ヒュン
……い、一体、何が起きているのでしょうか。サクラさんの部屋の荷物が凄いスピードで消えていきます。どんどん部屋が広くなっていきます。
…もしかして、バフを掛けたのは重い物を1人でアイテム袋に収納するためだったりします?
「ふうっ。バフにアイテム袋…。最強ね。業者要らずだわ」
「…そうですね」
…どうやら、私の勘違いだったのかもしれませんね。サクラさんは1分ほどで荷物をアイテム袋に入れ終え、部屋から物がなくなってしまいました。部屋が狭く、物が少なかったのもありますが、凄く手際が良いと思います。手を止めずに、一気にやってしまうとは…。私だったら、絶対に1分では終わりませんね。
「じゃあ、行こっか」
「そ、そうですね」
…何だか、無駄に警戒していた事が恥ずかしくなってきました。
「でも、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。皆さん優しいので」
カーラの家の方達は、急に連れてこられた私を、すんなりと受け入れてくれましたからね。それに、魔族のキャルシィだって受け入れてくれる方達です。サクラさんなら大丈夫に決まっています。きっと。
♢♢♢
「わあっ、やっぱり大きいわね。って、ちょっとメイちゃん!まだ心の準備が!」
「大丈夫ですって」
私達は一度ギルドに戻り、キャルシィを迎えに行った後、カーラの家に帰ってきました。そして、やはりサクラさんは心配のご様子です。ですが、私はもう慣れているので、迷わずに入り口の扉を開けました。
「おかえりなさいませ、メイお嬢様、キャルシィお嬢様。…そちらのお嬢様は?」
「サクラお嬢様です!カーラとは長い付き合いで、新しくパーティーを組んだ仲間です」
何度呼ばれても嬉しい響き、お嬢様。キャルシィの事も家族として迎えてくれているので、この執事さんなら大丈夫です。たぶん。
「おぉ!!こちらのお嬢様が、お噂のサクラお嬢様でしたか!カーラお嬢様からは、一番のご友人だと伺っております!カーラお嬢様と仲良くして頂き、誠にありがとうございます!私、ユリアール家の執事をさせて頂いております、ルナールと申します。ユリアール家一同、サクラお嬢様を歓迎させて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」
「…は、はい。よろしくお願い致します」
急に感極まった様に、嬉しそうに話し出す執事さん。というか、ルナールさんと言うのですね。知りませんでしたよ。私には自己紹介してくれましたっけ?してくれませんでしたよね?
そして、一番の友人だと認定されていたサクラさん。戸惑いが隠せない様です。無理もありませんね。きっと、自分が知らないうちに、貴族のユリアール家に知れ渡っているのですから。
ソフィー様や他の冒険者を差し置いて、一番の友人。カーラに友人と言える人は少なそうとはいえ、凄いです。
「余裕で大丈夫でしたね、サクラお嬢様」
「…そうね、メイお嬢様」
とはいえ、大丈夫だと言った私ですが、こうも上手くいくとは思いませんでした。予想外すぎますよ。家族にサクラさんの事を話すカーラ…。容易に想像できてしまいますね。
そして、私達は何の問題もなく家に入り、カーラの部屋に向かいました。
「ここがカーラの部屋です。サクラさんも自由に使ってくださいね」
「…とんでもなく広いわね。寮の6倍くらいかしら。…ん?カーラと同じ部屋?メイちゃん達も?」
「はい、一緒です」
やはり、疑問に思いますよね。こんなに大きな家なのに、3人で同じ部屋だなんて。私がここに住むようになった時、そして、キャルシィが住むようになった時も私は言ったのですが、カーラは別の部屋を用意してくれません。ですが、今回は言うべきですよね。
「カーラが帰ってきたら、相談しましょうね。それまでは一緒で良いですか?」
「えぇ、もちろん。ベッドもかなり大きいものね」
サクラさんが言うように、カーラのベッドは余裕で3人一緒に寝れるサイズです。キャルシィは小さいですし、私もすこしばかり小さい方なので、そこまで場所を取りませんし。ですが、サクラさんはカーラと同じくらいなので、カーラも加わると少し狭く感じるかもしれません。それに、キャルシィがまた抱き枕にされる可能性がある以上、阻止する意味でも部屋を分けるべきですからね。
「では、一先ずお風呂に行きましょうか」
「お風呂!絶対に広いわよね!」
ふふっ。やはり、お風呂に飛びつきますか。貴族の家のお風呂というだけで凄そうに感じますからね。事実、その通りですし。サクラさんの期待を裏切らない事、間違いありません。
♢♢♢
「凄いわ!凄いわよ、メイちゃん!」
「…凄いですね」
……こんばんは、メイです。どうして、この世の中は、こんなにも理不尽なのでしょうね。サクラさんは、大きなお風呂に感動していますが、私はサクラさんの体の方が驚きですよ。
…いや、分かってはいましたよ。服を着ていても大体は分かりますし。ですが、実際に見ない事には本当の事は分かりません。そして今、私は現実を知りました。
カーラもスタイルは良いですが、サクラさんは一歩先を行く素晴らしさです。何より、お胸の大きさが許せません。以前から、カーラより少し大きいかとは思っていましたが、本当に少し大きかったです。カーラも私よりは大きいですが、一般的に見て大きい方ではないと思います。つまり、何が言いたいかと言うと、サクラさんは理想的な大きさで、スタイルが良くて羨ましいです。
どうして、私の成長期はお休みしたままなのですか?カーラの家に来て、栄養のある物をたくさん食べているのですよ?だというのに、大きくなる気配がありません。
私だって、サクラさんみたいになりたいです。サクラさんは私より2つ年上なので、私もあと2年でああなりたいです。遺伝子に逆らいたいです。
「メイちゃん、どうしたの?入る前からのぼせちゃった?」
「…大丈夫です」
心配されても、サクラさんには言えない悩みなのですよ。申し訳ないですけど。
…とにかく、諦めてはダメですね。先ずは外面ではなく、内面から大人になっていきましょう。そうすれば、きっと私の成長期も応えてくれるはずですから。悩むのは時間の無駄です。美味しいご飯を想像して忘れましょう。今日は何でしょうかね。
♢♢♢
「凄い豪勢ね。どれも美味しそうだわ!」
「…ですね」
…どういう事でしょうか。私達はお風呂を終え、食堂にやってきました。すると、そこに並べられている食事は、心なしか、いつもより豪華です。カーラやカーラのお父さんが居ないので、質素になるなら分かりますが、何故か豪華です。何故ですか?私的には豪華な食事はとても嬉しいですけど。
「改めまして。サクラお嬢様、ようこそユリアール家へ。僭越ながら、私が乾杯の音頭をとらせて頂きます」
…執事さん、私の時はそんな事しませんでしたよね?きっと、カーラやカーラのお父様が居ないから、食事を豪華にする理由が欲しかっただけですよね?そうですよね?
…まぁ、そんな雰囲気ではないので、理解していますよ。サクラさんは物凄く歓迎されているのですね。
…はぁ。カーラは、どれだけサクラさんの話を皆さんにしていたのでしょうか。この感じだと、1回や2回でない事は確かです。
美味しい食事が食べられるので、良いのですけどね。




