5話 死んだら生き返らせなさいよ!
午後になり、再び森に入った私達は、どんどん奥へと進んでいきます。定期的に現れるスライムは全て倒し、角うさぎやコボルトからは逃げまくりです。
経験値を考えると普通は逆ですが、サクラさんは相手の見た目で倒すかどうか判断しています。
ある意味、自分勝手な戦い方ですが、私も全く異論は無いので問題ありません。
ガサガサッ!
「メイちゃん!またオークが来たわ。デバフデバフ」
「はい!」
そして、ちょっと強い敵が出れば、私の出番です。これが本来の私の正しい戦い方ですからね。
自分では戦わず、デバフを掛けて後ろから見るだけ…。最高ですね。
「ふぅ、結構倒したし、かなり奥まで来ちゃったわね。そろそろ私じゃ倒せない魔物が出そうね」
「大丈夫ですよ。いざとなったら、私がサクラさんを抱えて逃げますから!」
まぁ、そんな敵は現れないでしょうけどね。最低でもドラゴンくらいが現れないと、私のデバフには抗えないですからね。
「あら、頼もしいわね。じゃあ、もう少し近くに居ようかしらね」
そう言って、サクラさんは私のすぐ隣に来ました。もうどっちが前衛か分からない状態ですが、まあ問題ないでしょう。
「そうだ!サクラさん、バフ掛けましょう!」
「…え?メイちゃん、バフも使えるの?」
まぁ、言ってませんからね。サクラさんは驚き、今日一番引いている気がします。流石に予想外だったみたいです。
「はい。使えるようになったのです。カーラには言わないでくださいね」
「…絶対に言わないわよ」
やはり、サクラさんは分かっていますね。カーラがバフの存在を知った時の可能性を。私や敵を強化して戦いたがるに違いありませんからね。それは災害レベルで危険です。
「じゃあ、掛けてみてもらえるかしら」
「はい、掛けますね」
そして私はサクラさんにバフを掛けます。威力は最大です!サクラさんの体が薄く光り、激強サクラさんの誕生です。これでドラゴンが現れても大丈夫ですね。私は、出来れば戦いたくありませんし。
「…一応確認だけど、本気のカーラを一撃で倒したのって、これ?」
「これですね」
「ふふっ、納得ね。謎が解けたわ」
サクラさんは手のひらを閉じたり広げたりし、微笑みました。
「さあ行くわよ、メイちゃん!どんな魔物でもドンと来いよ!」
…どうやら、少し強く掛けすぎてしまったのかもしれませんね。変なスイッチが入ってしまったみたいです。私よりもよっぽど好戦的ですね。…もしくは、日ごろのストレスが爆発したのかもしれません。そんな気がしてきました。
「「「グラアァァ!!」」」
すると、急に大声を上げたサクラさんに反応するかの様に、複数の魔物の声が聞こえてきました。
「ちょっと待って!何匹居るのよ!一匹ずつ来なさいよ!メイちゃん、デバフデバフ!」
…やはり、サクラさんはサクラさんですね。好戦的とは言っても、カーラみたいな戦闘狂とは全然違います。相手はオーガ5匹。普通は怖いですもんね。私は今でも怖いです。
「すみません、サクラさん。デバフは同時に複数掛けれません」
「えぇ⁈ 聞いてないわよ!」
う…。確かに、これは言っておくべきでしたね。言わないと分からないですもんね。ですが、私にも失敗はあるのです。寧ろ、日々失敗だらけですけどね。ですが、今回は大丈夫です。
「サクラさん、デバフを使わなくても余裕で勝てるはずですよ。頑張ってください!」
「…言ったわね。信じるから。死んだら生き返らせなさいよ!」
サクラさんはそう言い、オーガに向かって行きます。私でも生き返らせる事は無理なので、私は黙って見届けます。まぁ、死ぬ要素が無いので問題ありません。
そしてサクラさんは、一番近くのオーガに近付くと、勢い良くオーガの首を目がけて跳びます。
「え⁈ 嘘⁈」
ザシュッツ
サクラさんの剣は見事にオーガを捉え、首が胴体とお別れしました。サクラさんはそのままオーガの頭上を越え、次のオーガに向かいます。
「ちょっとメイちゃん!限度!限度があるわよ!!」
「あはは…」
そう言いつつも、サクラさんは次々と倒していき、最後のオーガにも一撃で勝利しました。この姿をカーラが見れば、間違いなく勝負を挑みそうですね。それくらいに可憐で圧倒的な勝利でした。
「お疲れ様です、サクラさん」
「本当よ!レベルが7つも上がったわよ!」
オーガはBランクの魔物ですからね。私がバフを掛けたとはいえ、倒したのはサクラさんですからね。そこそこの経験値を得られたのでしょう。しかし、これはサクラさんを怒らせてしまったのかもしれませんね。
「…すみません、サクラさん。怒っていますよね?」
「え?怒ってないわよ。疲れたけど、少し楽しかったわ」
良かったです。こんな事で関係が悪くなるのは嫌ですからね。それにしても、サクラさんは見た目によらず気が強いですよ。初めての冒険で、オーガまで倒すとは驚きです。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。メイちゃん、明日も大丈夫?」
「…え?大丈夫ですけど、お仕事は平気なのですか?」
いくらカーラが居ないからって、2日連続で大丈夫なのでしょうか?それが可能なほどに、カーラがサクラさんの仕事量に影響を及ぼしているのでしょうか?
「あら、私言ったじゃない。受付嬢の仕事を終わらせてくるって」
「……へ?」
…どういう事でしょうか。…え?まさか、受付嬢を辞めたって事でしょうか?そんな訳ありませんよね。きっと聞き間違いでしょう。
「今朝、ギルマスに辞めるって言ってきたわ」
「…………」
…私の頭のスペックでは、状況が理解できません。辞めるとは、退職するという意味ですよね?




