1話 強制依頼
新章開幕です。
『七聖龍』
それは世界に7匹のみ存在する聖なる龍。1000年以上もの間、世界を守り続けていると言われている。
しかし、そんな偉大なる七聖龍の牙や鱗が、ここ数年で出回り始めた。寿命が尽きたのか、何者かに殺されたのか。本物なのか、偽物なのか。多くの人々は真相を知らない。
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月日は流れ、王城での会議から20日ほどが経過しました。魔王に選ばれたとはいえ、私自身の生活は大きく変わることなく、冒険者としてカーラに振り回される毎日です。その間もレベルは上がり続けましたが、もう気にする必要はありません。何せ、私はランキングに記載されなくなりましたからね。これからは、私の個人情報は守られるのです。大天使<堕>もみんなにバレずに済みました。キャルシィも受付嬢になってくれて一緒に暮らせていますし、案外、魔王になった事のデメリットはあまり無いのかもしれませんね。まぁ、今のところは…ですけど。
「メイ、早くー!」
「はいはい、分かっていますよ」
そんな事を考えながら、私は今日もカーラに急かされてギルドに入ります。さて、今日はどんな依頼に付き合わされるのでしょうかね。
「カーラ、ちょっと来なさい!」
ん?何でしょうか。ギルドに入るなり、サクラさんの声が聞こえてきました。また何かやらかしたのでしょうね。もっとゆっくりさせてくださいよ。
…はぁ。今度はどんなトラブルでしょうか。まぁ、どんなトラブルだったとしても、カーラとパーティーを組んでいる以上、私も一緒に行動しなくてはなりません。キャルシィも受付嬢として頑張っているのですから、私も頑張りましょう。
「ではキャルシィ、今日も頑張ってくださいね」
「はい!」
そして、私達はキャルシィとはお別れし、サクラさんの元へ向かいます。キャルシィは、サクラさんの指導の下に毎日頑張っている様ですし、立派な受付嬢になる事は間違いありません。
「おはようございます、サクラさん」
「おはよう、メイちゃん。早速だけど、カーラに指名依頼よ」
「…えぇ、やだなぁ」
おっと。どうやら、トラブルではないみたいですね。カーラが呼ばれたので、完全に何かやらかしたと思ってしまいましたよ。決めつけるのは良くないですね。ごめんなさい、カーラ。
とはいえ、指名依頼ですか。これはこれで面倒事かもしれません。カーラは勇者として有名ですから、お金をかけてでもカーラにやってもらいたいという物好きが、わざわざ依頼してきたのでしょうね。カーラも嫌そうにしているので、そういう依頼は偶に来るのかもしれません。
「依頼内容は『サザナミ領の北の森で山火事が発生した為、消火してほしい』との事よ」
「え?…それ、ボクじゃなくてよくない?」
んー。これは、私もカーラが言う通り、依頼する相手を間違えていると思いますね。カーラは脳筋なので、そういう事は向いていない気がしますし。火事であれば、水魔法を使える様な人が適任だと思います。
ですが、サクラさんはカーラの反論を無視して続けます。
「達成報酬は1カーラ。2日以内に解決しろとの事よ」
「「…え?」」
…少々意味が分からなくなってきましたね。本来、指名依頼は高額になるはずです。確実に達成してもらう為に有能な人を指名し、相場より高く設定するからです。ですが、1カーラというのは、完全におかしいです。こんな依頼、受ける訳がないと思いますけど、受けさせる気はあるのでしょうか?
…ですが、こんな依頼をギルドが受け付けたという事は、何か理由があるかもしれませんね。
「…ねぇ、カーラ。どうして山火事が発生したと思う?」
「…え?…誰かが火を付けたとか?」
おっと。何だか雲行きが怪しくなってきましたよ。…まさか、カーラがやらかしたのでしょうか。それなら、1カーラも納得ですけど。いつのまに放火なんてしたのでしょうか?
「山火事の原因は落雷よ。過去に無いくらいの落雷が起きたそうよ」
「へぇ、そうなんだ」
「普通はね、そんな大きな雷雲が発生したら、雷が落ちる前に雷龍が食べるらしいのよ」
……はい。つまり、雷龍を殺したカーラのせいですね。
そしてサクラさんは、ため息交じりに話を続けます。朝からこんな依頼の話をしなくてはならない事に、少し同情しますね。
「あと、森が燃えたとしても、炎龍が抑えてくれたり、緑龍が森を守ってくれたりするらしいわよ」
「…へぇ」
はい。もう逃げ道が残っていません。話の流れ的に、カーラが過去に討伐した七聖龍でしょうね。カーラも自分のせいだと気付いたのか、少しだけ覇気がなくなっている気がします。
「まぁ、あくまで可能性の話よ。受けるって事で良いわよね?」
「…え。…でも」
「受けるわよね?」
「…う、うん」
…これは、カーラに断るという選択肢は最初から無かったのでしょうね。あくまで可能性と言われても、限りなく黒に近いですし。
♢♢♢
そして、私達は依頼を受注した後、サザナミ領に向かっています。今回は大した距離でも無いので、走って向かっている最中です。闇魔法で行ければもっと楽なのですが、私はサザナミ領に行った事が無いので、残念ですが使えません。
「それでカーラ、どうやって消火するのですか?」
「水魔法で消してもらおうと思ってるよ。あてがあるからね」
おお!走りながらカーラに聞いてみると、意外にもカーラには考えがあったみたいです。水魔法を使える知り合いが居るなんて知りませんでしたよ。脳筋戦法での消化活動を覚悟していましたが、とんだ杞憂でした。
そして走る事、約3時間。私達は、サザナミ領内の浜辺に到着しました。広大な海が広がり、とても美しい風景です。ですが、近くに民家らしき物は無く、人が住んで居る様には見えません。
「こんな場所に住んで居られるのですか?」
「うん。あそこに島があるでしょ。そこに住んで居るんだよ」
…島?
…確かに、ありますね。カーラが指差す方向を見てみると、海に浮かぶ様に島があります。島には大きな山があり、洞窟の様に大きな穴が開いています。
カーラの知り合いというだけあって…というのは失礼かもしれませんが、随分と変わった所に住んで居るのですね。これは変人の可能性が高い気がします。
「メイ、あの島に行ける?」
「行けますよ。繋げますね」
本来は船で行くような場所ですが、見えてさえいれば問題ありません。私の闇魔法で一瞬です。私は出口を島の上に出し、島に向かいました。
「…えっと。…遠目で見たより大きな山ですね」
浜辺からは距離があったので分かりづらかったですが、近くに来ると、首が痛くなるほど見上げないと頂上が見えません。つまり、浜辺から見た洞窟の様な穴も、私が思っていたよりも巨大です。
…物凄く嫌な予感がしてきました。気のせいですよね? きっと、島の何処かに家が有るに違いありません。そうですよね?
ですが、そう思いたい私の心を裏切るが如く、カーラは一切の迷いなく巨大な穴に入っていきます。
「メイ、居たよ!」
そしてカーラは、あたかも知り合いかの様に言ってきます。
…最悪です。その姿を見た瞬間、私は絶望しました。
「もう、いい加減にしてくださいよ…」
…少しでもカーラを信じた私が馬鹿でした。そんな都合よく水魔法が使える知り合いが居るわけないじゃありませんか。もしかしたら、私には学習能力が無いのかもしれません。少し前にも同じような体験をしたというのに。…あの時は、氷龍さんでしたね。
普通のドラゴンよりも、水中を移動する事に長けた細長い体。それでも飛ぶ事ができる立派な翼。確かに、水魔法は使えそうですよ。それも、かなり強力な。
ですが、私には分かっています。これから何が起きるかが。…いや、私でなくても分かりますね。カーラの満面の笑みを見れば。
「さあ、メイ!よろしく!」
「…はぁ」
帰りたいです。




