1話 強制依頼
新章開幕です。
『七聖龍』
それは世界に7匹のみ存在する聖なる龍。
だが、近年ある者の手によって、数を減らした。七聖龍とは名ばかり。現在は氷龍、地龍、黒龍、海龍の4匹のみとなっていた。
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月日は流れ、王城での会議から20日ほどが経過しました。魔王に選ばれたとはいえ、私自身の生活は大きく変わることなく、冒険者としてカーラに振り回される毎日です。その間もレベルは上がり続けましたが、私はランキングに記載されないので、もう気にする必要はありません。というより、気にしたくありません。
私以外で一番変わった事と言われれば、キャルシィがギルドの受付嬢になった事ですかね。サクラさんの指導の下、毎日頑張っています。キャルシィならば、立派な受付嬢になる事は間違いありません。
「メイ、早くー!」
「はいはい、分かっていますよ」
そして私は、今日もカーラに急かされて、ギルドに向かいます。
♢♢♢
「カーラ、ちょっと来なさい!」
そして、私達がギルドに到着するなり、サクラさんがカーラを呼びました。また何かやらかしたのでしょうかね。名指しで呼ばれた以上、私達はそのままサクラさんの元に向かいます。
キャルシィはこれから仕事なので、ここで一先ずお別れです。私が『今日も頑張ってください』と言うと、にこやかに『はい』と返事をしてギルドの奥に向かいます。本当に、いつ見ても可愛いですね。
さてさて、私も頑張りましょう。今日はどんなトラブルでしょうかね。
「カーラに指名依頼よ」
「…えぇ、やだなぁ」
指名依頼ですか。どうやら、トラブルでは無いみたいですね。カーラは勇者として有名ですから、お金をかけてでもカーラにやってもらいたいという、物好きも居るみたいです。…カーラは凄く嫌そうにしていますけど。
ですが、サクラさんは気にする事なく続けます。
「依頼内容は『サザナミ領の北の森で山火事が発生した為、消火してほしい』との事よ」
「え?…それ、ボクじゃなくてよくない?」
私もカーラの言う通り、火事であれば、水魔法を使える様な人が適任だと思いますけどね。カーラは脳筋なので、そういうのは向いていない気がしますし。
ですが、サクラさんは再び無視して続けます。
「達成報酬は1カーラ。2日以内に解決しろとの事よ」
「「…え?」」
…少々意味が分からなくなってきましたね。本来、指名依頼は高額になるはずです。確実に達成してもらう為に、有能な人を指名して、相場より高く設定するからです。ですが、1カーラというのは、完全におかしいです。こんな依頼、受ける訳が無いと思いますけど、受けさせる気はあるのでしょうか?
「…カーラ、どうして山火事が発生したと思う?」
「…え?…誰かが火を付けたとか?」
ですが、何だか雲行きが怪しくなってきました。…まさか、カーラがやらかしたのでしょうか。それなら、1カーラも納得です。
「山火事の原因は落雷よ。過去に無いくらいの落雷が起きたそうよ」
「へぇ、そうなんだ」
「普通はね、そんな雷が発生したら、落ちる前に雷龍が食べるらしいのよ」
……つまり、雷龍を殺したカーラのせいですね。
そしてサクラさんは、ため息交じりに話を続けます。朝からこんな依頼の話をしなくてはならない事に、少し同情しますね。
「森が燃えたとしても、炎龍が抑えてくれたり、緑龍が森を守ってくれたしするらしいわよ」
「…へぇ」
はい。もう逃げ道が残っていません。話の流れ的に、カーラが過去に討伐した七聖龍でしょうね。カーラも自分のせいだと気付いたのか、少しだけ覇気がなくなっています。
「まぁ、あくまで可能性の話よ。受けるって事で良いわよね」
「…うん」
そして、私達の今日の依頼が決まりました。流石にカーラでも、この状況で断ることは出来ないようです。あくまで可能性と言われても、カーラが1㎜も悪くない可能性は無いでしょうからね。
♢♢♢
私達は依頼を受注した後、サザナミ領に向かっています。今回は、大した距離でも無いので、走って向かう事になりました。
闇魔法で行ければもっと楽なのですが、私はサザナミ領に行った事が無いので、止めておきます。行けない事は無いのですが、何処に出るか分からないと不安ですからね。最悪の場合、人様の家や危険な場所に出る可能性もありますからね。
「カーラ、どうやって消火するのですか?」
「水魔法で消してもらおうと思ってるよ。あてがあるからね」
走りながらカーラに聞いてみると、意外にも、カーラには考えがあったみたいです。水魔法を使える知り合いが居るみたいですね。
そして走る事、約3時間。私達は、サザナミ領内の浜辺に到着しました。広大な海が広がり、とても美しい風景です。ですが、近くに民家らしき物は無く、人が住んで居る様には見えません。
「こんな場所に住んで居られるのですか?」
「うん。あそこに島があるでしょ。そこに住んで居るんだよ」
そしてカーラが指差す方向を見てみると、海に浮かぶ様に島がありました。島には大きな山があり、洞窟の様に大きな穴が開いています。カーラの知り合いというだけあって…というのは失礼かもしれませんが、随分と変わった所に住んで居るのですね。これは変人の可能性が高い気がします。
「メイ、あの島に行ける?」
「行けますよ。繋げますね」
本来は船で行くような場所ですが、見えてさえいれば、私の闇魔法で一瞬です。私は出口を島の上に出し、島に向かいました。
「…遠目で見たより大きな山ですね」
浜辺からは距離があったので分かりづらかったですが、近くに来ると、首が痛くなるほど見上げないと頂上が見えません。つまり、浜辺から見た洞窟の様な穴も、私が思っていたよりも巨大です。
…物凄く嫌な予感がしてきました。
ですが、カーラは一切の迷いなく、穴に入っていきます。
「メイ、居たよ!」
そしてカーラは、あたかも知り合いかの様に言いました。私は一瞬めまいがし、絶望しました。
「………。もう、いい加減にしてくださいよ…」
…少しでもカーラを信じた私が馬鹿でした。もしかしたら、私には学習能力が無いのかもしれません。確かに、水魔法は使えそうです。それも、かなり強力な…。
私は、少し前にも同じような体験をしました。あの時は、氷龍さんでしたね。
普通のドラゴンよりも、水中を移動する事に長けた細長い体。それでも飛ぶ事が出来る、立派な翼。
そして、カーラが水魔法だけを目当てで来た訳が無く、笑顔で私に言ってきます。
「さあ、メイ!よろしく!」
「…はぁ」
帰りたいです。




