44話 キャルシィ
「私もお父さんみたいな四天王になる!」
「おぉ、そうかぁ。キャルシィは頑張り屋さんだからなぁ。もしかしたら魔王にだってなれちゃうかもしれないぞぉ」
そう言って、父は私を強く抱きしめた。私は、将来的に四天王になるために訓練をしていたし、実際になれるとものだと思っていた。だけど、その思いは簡単に消え去った。
その3日後に父が殺されたのだ。人族の勇者との戦いで。幼いながらに、私の世界はそんなに甘いものでは無い事を痛感した。その時、私はまだ7歳。尊敬する父が、私の目指す道で命を落とした。
そして私は、強くなるのを止めた。
♢♢♢
魔王様は、娘の私に父の最期を伝えに来てくれた。
父が殺された戦い。それは激しいものだったそうだ。相手の勇者は何代もの魔王様を殺してきた人族。その為、魔王様は一切手を抜かなかった。短期決戦、一発勝負。魔王様は四天王と協力して、勇者を倒すことを選んだそうだ。
人族の勇者は2人の仲間を連れていた為、数的には5対3で魔王様が有利。だけど、そう簡単にはいかなかった。敵の1人は殺したが、四天王が次々と殺され、残ったのは魔王様と勇者とその仲間1人。数の有利は覆された。だけど、勇者が弱っていた事もあり、魔王様は勇者を倒し、勝利した。
そして話し終わると、魔王様は私にこう言った。
「俺の四天王はあいつらだけだ。別のやつを新たに四天王にするつもりは無い」
その言葉だけで、私の父は信頼されていた事が伝わってきた。父は凄い人だった。尊敬する父…。だけど私は、再び四天王を目指したいとは思わなかった。
そして約2年後、新しい勇者が現れ、魔王様は殺された。
敗因は簡単に分かる。四天王が居ない魔王様は、ほぼ無傷の勇者達と1人で相手をしたからだ。その上、相手の勇者は女。魔王様は本気を出すことが出来なかった。
魔王様は甘い人だ。最初の勇者との戦いでも、女の1人は見逃した。武器も亡骸も全て持ち帰らせたのだ。
今回は女2人に男1人。最初から魔王様に勝ち目は無かった。
♢♢♢
それから5年近くの歳月が流れ、私は魔王城に召集された。次の魔王や四天王になる可能性があると、判断されたからだ。魔王城には、歴代の魔王様や前四天王の血族、名を馳せた強者が集められていた。私が選ばれる可能性は無いが、前四天王の娘というだけで、ここに連れてこられた。
そして、魔王城に来て2日目、魔王様の部屋の前を通ると、微かな物音が聞こえてきた気がした。獣魔族である私だから分かった様な、微かな音だ。私は魔王様が選ばれるには早すぎると思いつつも、扉を開けた。
すると、魔王様の椅子に1人の少女が座っており、暇そうに足をばたつかせていた。少女は私と同じくらいの年齢に見えたが、私は半信半疑で聞いてみた。
「…あの、魔王様…ですか?」
そう聞くと、その少女は自分が魔王だと肯定した。魔王だという事は、誰よりも強い魔族だという事だ。この少女は、見た目よりも年を取っている可能性が高い。背の低さはノーム族だからかもしれないな。
そして、私は魔王様に挨拶をした。近くで見ると、魔王様は本当に子どもの様に見え、怖さなどは一切感じなかった。まるで家族のような安心感さえ感じたほどだ。
それからの時間は、本当に夢のようだった。先ず、何故か私が四天王に指名された。なるつもりは無かったが、あまりの唐突さに、私はやると言ってしまった。そして直ぐに命令され、私は城の皆を集めた。
皆を集めると、魔王様は志願した全員を四天王にし、十三天王とした。正直言って、意味不明だ。しかも、十三天王を含む全員を、自分の後ろに控えさせ、1人で勇者を迎えると言った。
相手は先代の魔王様を殺した勇者。だけど、魔王様は余裕だと言った。半信半疑だったが、その言葉が事実だと直ぐに分かることになった。魔王様が言うように、勇者は直ぐに現れ、直ぐに倒された。魔王様が傷を負うことは無く、強力な一撃で勇者は地に伏せたのだ。
しかし、魔王様は勇者を殺すことなく、あろうことか回復させた。理由を聞くと、弱いから殺すのはもったいないと言われた。この言葉に、私が鳥肌が立ち、震えた。それは私だけでなく、他の魔族もだ。皆が魔王様に跪き頭を垂れたのだ。
そして魔王様は、私達に向けて和平を望むと言った。反対しているものも居たが、私は嬉しさがこみ上げてきた。もし実現するならば、父の様に死ぬ者はいなくなるからだ。私は、この魔王様に付いていきたいと思った。
魔王様は、私が付いていく事を承諾してくださったが、魔王様は勇者と共に行動すると言った。だから、私に1つの目標が出来た。この勇者は先代魔王様を殺した人族。魔王様が殺さないなら、私も殺しはしない。だが、手足の数本頂かないと、先代魔王様の魂が浮かばれない。
私は、この勇者に致命傷を与えると、心に決めた。




