42話 知らないおじさん
「神官様、話は伺っております。さ、こちらへどう…。…何故、勇者様がこちらに?」
♢♢♢
…早く帰りたいです。
門番さんに案内された部屋は、横に長い大きなテーブルがあり、会議室のような部屋でした。そして私は、そのテーブルの中央に座っています。私の右隣りにカーラ、ギルマス。左隣に神官様、ソフィー様。後ろにサクラさんとキャルシィが立って控えています。
はぁ、どうして私が真ん中なのですかね。普通は勇者でしょうに。まぁ、それは神官様に座らされたので仕方ありません。神官様には逆らえませんからね。
そして、向かい側正面に、知らないおじさんが座っています。年齢は30歳くらいだと思います。服装はシンプルで、冒険にでも行きそうな格好ですが、真ん中に座っているので、ちょっと偉い人だと思います。その両隣に50歳くらいのおじさん。その奥は、40歳くらいのおじさんと、30歳くらいのおじさんです。
つまり、どういう状況かと言うと、私の前に体格の良い知らないおじさんが5人座っています。5人とも、執務をする様な格好では無く、冒険者に近い格好です。鎧とかは無く、動きやすそうな服装です。これが終わったら、みんなで仲良く冒険にでも行くのでしょうかね。
「皆様、お集りのようですね…」
始まる前から帰りたい気持ちが強い中、部屋に偉そうな人が入ってきて、そう言いました。眼鏡をした初老の男性で、頭の良さがにじみ出ている気がします。凄く落ち着いた雰囲気の男性です。
「…どういう事でしょうか?…ごほん。では、会議を始めさせて頂きます。先ず、お手元の資料…は、参考にならない為、気にしないでください」
…初見の印象とは違い、全く落ち着いていませんね。言っていることも何が言いたいのか分かりません。資料とは…これの事でしょうね。
気にしないでと言われると、余計に気になるもので、私はテーブルに裏返しに置かれた紙を見ました。
『勇者様・大賢者様の救出及び、魔王討伐作戦 会議資料』
必達目標
・3日以内にケルディ領に移動、ケルディ領軍と合流
・勇者様、大賢者様の安否確認、救出
・魔王討伐
そして私は、見るのを途中で止めて、再び裏返しで置きました。どうやら、私の頭では理解できない内容のようです。カーラも私と同じように資料を見て、首を傾げています。私だけじゃ無いようで、良かったです。
そう私が安堵していると、司会の男性が私達を見ているのに気付きました。
「…よろしいですか?」
どうやら、資料を見ていたのはカーラと私だけで、ほかの皆さんは手に触れてもいないようです。…凄いですね、普通気になりますよ。
「…すみません。続けて大丈夫です」
私は少し恥ずかしい気持ちもありつつ、そう言いました。皆さん、私達を待っていてくれたみたいですし。
「では。今回お集り頂いた理由は、ランキングから聖女メイ様の消失。つまり、死亡が推測された為です」
「「え⁈」」
…神官様が言っていたのは、この事なのですね。私が魔王になり、世界に人族と認識されなくなったのでしょうか…。私、死んだことになっていたのですね。
そして、この発言に驚いたのは私とカーラだけで、皆さん周知の上でお集りのようですね。
「聖女メイ様、詳細をお願い致します」
「え?私がですか?」
どうしましょう。急にそんな事言われても、何と言って良いか分かりません。誰か助けてください!
…ですが、私が黙っている間は、誰も口を開かずに私を見つめてきます。…うぅぅ、帰りたいです。こんな知らないおじさんが沢山居る中で、私の個人情報を流したく無いですよ。…はぁ。
「…メイです。…魔王に選ばれてしまいました。なのでランキングから消えたのだと思います」
そして私は、言ってしまいました。反応が怖いです。知り合いならまだしも、初対面の知らないおじさんに聞かれたく無かったです。
もう知っているので静かな私側と、対照的にざわつく向かい側。半分は味方だと思えば、ギリギリ耐えられそうです。
「…国王様。いかがいたしましょうか」
すると、司会の男性が変な事を言いました。
…え?国王様⁈ その言い方ですと、まるでここに国王様が居るかの様ではありませんか。
「…魔王メイ殿、敵意は無いと判断してよろしいか?」
「…え?もしかして、国王様なのですか?」
…どうしましょう。司会の男性の言葉に、目の前のおじさんが反応しました。何という事でしょうか。この冒険者みたいな恰好のおじさんが、国王様かもしれません。…どうか違うと言ってください。
「え、ああ。申し遅れたな。国王、レズリア・ガーランドだ。魔王メイ殿」
「…………はい。……よろしくお願い致します」
……………………………。
私はしばらく放心し、顔が真っ青になりました。…どうしましょう。国王様だとは知らずに、ちょっと偉い冒険者のおじさんだと思っていましたよ。…バレたら不敬罪で打ち首でしょうかね。一生心にしまっておきましょう。
「…で、敵意はあるのか?」
「…はっ!もちろん、ありません。和平を望みます」
…さらに不敬を重ねてしまいました。国王様に同じ質問を2回もさせてしまいました。もう嫌です。誰か変わってください…。




