39話 カーラに鉄槌を
「待て待てメイ!お父さんが?カーラちゃんと?勇者様だよ?」
「あら、良いじゃない。『メイが冒険者になるなら俺も鍛える』って鍛えていたじゃないの」
へぇ、お父さんがそんな事を。…何だか、少し嬉しいですね。なら、尚更戦ってもらいましょう。
「お父さん、実は、カーラはポチをいじめたのです。だから、適度に懲らしめてほしいのです」
「なんだと!それは許せんな!本当なのか、カーラちゃん」
「ぇえ⁈ …うん。ただの魔物だと思って倒したよ。でも、謝ったから!」
カーラは正直です。私と違って、嘘をつけません。その代わり嘘をつかない分、余計なことを言ったりします。そのうえ、必要なことを意図して言わなかったり、話を盛って伝えたり、変な事を言ったりします。つまり、カーラは嘘をつかない嘘つきです。なので、普通の問いかけに対しては、事実が回答されるのです。
「謝ったとはいえ、家族を傷つけられたなら、何もしない訳にはいかないな。…とは言っても。メイ、俺がカーラちゃんを懲らしめるほどの実力があると思っているのか?」
「その点は大丈夫です。私が補助します。ではカーラ、先に外で待っていてください」
「うん、分かった」
そして私は、カーラが家から出たのを確認してから、お父さんにバフを掛けました。バフはデバフと違い、掛けると少しだけ体が光ります。それを見られると、私が何かしているとカーラにバレてしまいますからね。
「おお、何だこれは!」
「バフです。今のお父さんなら、ドラゴンにも負けません。そして、カーラにはデバフを掛けています。なので、今のカーラはドラゴンくらいの強さです。だから勝てます」
カーラへのデバフは村に入る前に掛けていますからね。レベル差は、おそらく300くらいありますけど、今の私の力があれば、そのくらいは覆せますから。
「…お、おう。凄いんだな、メイは」
「さあ行きましょう!」
何だか、お父さんが少し引いている気がしますが、気にしない事にしておきます。私だって、もう分かっていますよ。私の力がおかしいことぐらいは。気にしたって仕方がありません。
そして、私たちも外に出ました。カーラに木刀を出してもらい、戦いの始まりです。
「カーラ、本気を出して良いですからね。お父さんはカーラより強いですから」
「え!うん!」
カーラはいじめっ子扱いされて、少し気を落としていましたが、私の一声で復活しました。本当に単純で戦闘狂です。
そして、カーラはお父さんに向かって駆け出しました。
「くっ…」
カンッ
「お?あれ? …大した事ないな?」
お父さんは、カーラの一撃にビビりつつも受け止めると、その手ごたえのなさに驚いているようです。最強の勇者に振り下ろされた木刀を、簡単に受け止めることが出来たわけですからね。驚くのも仕方のない事でしょう。
「んふぅ。まだまだぁ!」
あぁ、カーラが嬉しそうです。気持ち悪い笑みがこぼれています。攻撃が受け止められた事が、凄く嬉しいのでしょうね。貴族令嬢の顔とは、到底思えませんね。
カンッカンッ
その後も、カーラの攻撃は全て受け止められ、戦いが続きます。ですが、お父さんは攻撃を受け止めるだけで、反撃しません。余裕はあるはずなのですがね。
「お父さん!お父さんもカーラに攻撃してください!」
「だ、だ、だ、だがメイ、どうすれば良いんだ!カーラちゃんの攻撃が途切れないぞ!」
そうなのです。お父さんは、私と会話出来るくらいの余裕があるにも関わらず、反撃できません。何故かというと、お父さんは剣術の心得が無いからです。どのタイミングで攻撃すれば良いのか分からないのだと思います。
「お父さん、攻撃を受けた瞬間に、そのまま力いっぱい、はね返してみてください」
「お、おう…」
すると、お父さんは受けた攻撃をはね返し、カーラが少しよろけます。
「今です!カーラに思いっきりやってください!」
「お、おう!」
ボキッツ
「ぐふぇえ!!」
ふふっ、最高です。カーラは持ち前の反射神経で、木刀を構えましたが、お父さんはそのまま振り下ろしました。そして、木刀は耐えられずに折れ、カーラの頭に直撃です。
「そこまでです!お父さんの勝ちです!」
「おおぅ!…勝ちなのか? …うおぉう⁈」
お父さんは、勝ちに疑問も持ちつつも木刀を降ろし、その後に変な奇声を上げました。そうです、あれが来てしまったのだと思います。
「メ、メ、メ、メイ⁈ レベルアップが止まらねぇ!」
ふふっ。懐かしいです。私の時と一緒です。初めてそれを体験すると、変な声が出ますからね。
「メイー。痛いよぉ…」
「あぁ、忘れていました。すぐ治しますね」
私は、頭を押さえながら弱弱しい声を出してくるカーラに、急いで回復魔法を掛けました。少々ハンデが大きすぎたのかもしれませんね。まさか、カーラに一撃で、こんなにもダメージを与えるとは思いませんでした。
「ねぇ、メイ。メイのお父さんは農家なんだよね?強すぎない?まるでメイと戦っているみたいだったよ」
近からず、遠からずですね。ほぼ私の力ですが、まだ教えません。被害者が増えてしまうかもしれませんからね。きっとカーラなら、自分を弱くして戦うより、相手を強くして戦う方が楽しいと言うでしょう。その方が爽快でしょうからね。
ですが、それには問題があります。カーラは楽しめても、カーラの力が強大で周りがもたないのです。事実、カーラは魔王城で簡単に扉を破壊しましたし、私の攻撃を受けて壁にぶつかると、壁が壊れたりしました。もし、近くに一般人が居たならば、被害を受ける可能性があります。それは回避しなくてはなりません。だから、カーラにバレるまでは教えない事にしておきます。
「先ほど言っていたではありませんか。お父さんは鍛えていたと」
「そっか!メイのお父さんだもんね!強くても不思議じゃないね!」
…その納得の仕方はどうかと思いますが、カーラが単純で良かったです。
「さっ、今日はもう疲れたので、そろそろお風呂に入って寝ましょうね」
「うん!」
そして私達は、家に入りました。口では簡単に言いましたが、本当に疲れましたね。
今日は馬車で移動してきて、歩いてサイコス様の家に向かっていたら、魔王城に飛ばされ魔王になりました。そしてキャルシィと出会い、カーラと戦いました。その後は実家に帰り、皆の家を周って回復魔法を掛けていき、そして今、カーラを懲らしめました。本当に濃い一日でしたね。
…あ。サイコス様の家に行っていませんでした。…まぁ、もう良いですかね。行く理由がありませんし、面倒ですし。きっとカーラは忘れているでしょうから、私も忘れましょう。
♢♢♢
「またいつでも帰ってきなさいね。カーラちゃんもキャルシィちゃんも」
「はい。お母さん、お父さん、ポチ、いつまでも元気でいてくださいね。お父さん、もう怪我しないでくださいね」
「おう!大丈夫だ。本当に強くなってしまったからな!」
私達は実家で一泊し、朝から出発です。本当はもっとのんびりしていたいですが、そうもいきませんからね。和平を結ぶと言った以上、早急に対応してもらわないといけませんから。
「では、「「いってきます!」」」
「「いってらっしゃい」」
「キャウン!」
そして、私達は別れの挨拶をして歩き出し、村から出ていきました。たった半日でしたが、とても楽しい時間を過ごせましたね。今度は2年後とかではなく、もっと早く帰りましょう。
そして、村から出ると、恒例のあの質問が、カーラから飛んできます。
「じゃあメイ、馬車で10日・徒歩で12日・走って20時間、どれが良い?」
キャルシィが居るので、走って20時間は物理的に無理です。カーラがおぶれば行けるかもしれませんが、させません。徒歩は嫌です、疲れます。馬車はもう嫌です、凄く疲れます。
だから、私は新しい選択肢を追加します。私だから出来る、新しい選択肢。それは…。
「魔法で帰ります!」




