38話 お赤飯
「ただいま!」
「あら、どうしたの?そんなに嬉しそうにして」
おや、顔に出てしまっていましたかね。そうです。事実、嬉しいです。
「いろいろな物を頂いたのですよ!」
そうなのです。私はポチとキャルシィと一緒に、村の民家を周りました。そして、怪我をしている人を治していったのです。すると、何という事でしょう。皆が皆、私達にお菓子やお野菜、果物をくれるのです。だから今、私は凄く嬉しいのです。治した皆が喜び、私もいろいろ貰えて満足です。中には、腰痛とか虫刺されとかの人も居ましたが、全て治していきましたからね。
「良かったわねぇ。私もカーラちゃんと沢山お話しできて楽しかったわよ。メイちゃん、カーラちゃんと同棲しているなら言ってよ、もぉ」
「…は? …お母さん、カーラの言ったことは8割方信用しなくて良いですよ。殆ど嘘ですから」
少し目を離しただけでこれです。どうしてカーラはいつも変な事を言うのでしょうか。いい加減にしてほしいですよ。せっかくの良い気分が台無しです。
「え?じゃあ、メイちゃんが七聖龍を従えてるとか、カーラちゃんを一撃で倒せるとかも冗談だったのね?聞いた時は驚いて、包丁を落としそうになっちゃったんだから」
「…えっと。それは、まあ…。何というか…」
…やりますね、カーラ。より事実とは思えない事実を混ぜることで、嘘を本当の事のように思わせる作戦ですか。
…いや、違いますね。カーラは自分の中の事実を、大袈裟に伝えているだけでしょうね。余計にたちが悪いですよ。
「メイちゃん、ちょっと座ろっか」
「…はい」
どうしましょう。お母さんが興味津々です。嘘でも否定すれば良かったです。
私は、面白そうに手招きするお母さんの前に座りました。
「カーラちゃんと同棲していないの?」
「カーラの家に居候しています」
「カーラちゃんは、寝る時もずっと一緒だって言ってたわよ?」
「…う。カーラのベッドはとても大きいので…」
「お風呂も一緒って言っていたわ」
「…カーラの家のお風呂は、とても大きいので」
…なんでしょう、この質問攻めは。逃げ道が全くありません。そして、どんどん誤解されそうな方向に進んでいる気がします。
「七聖龍を従えているって言うのは?」
「回復魔法を掛けたら付いて来ました」
「カーラちゃんを倒した事が何回もあるって。何回くらい?」
「…30回くらいは」
「メイちゃんは聖女で魔王で最強だって」
「…カーラの方がレベルは上です」
あれ?おかしいです。先ほど私は、8割ほど嘘だと言いましたが、明らかに否定できる事が一つもありません。どうしてでしょうか…。私が思っているほど、カーラは変な事を言っていないという事でしょうか。…そんな訳ありませんよね?
「ふふっ、追加でお赤飯作らなくちゃ」
「ちょっ、お母さん⁈」
そして、お母さんは台所に戻っていきました。…凄くニコニコしながら。
私は、どう答えるのが正解だったのでしょうか…。
♢♢♢
「凄く美味しいわぁ」
「ああ!カーラちゃんは、勇者としてだけでなく、料理まで上手とは。凄いな!」
皆がカーラの料理を絶賛する中、私はお赤飯を食べています。お母さんは、本当に作ってしまったのです。…これはこれで美味しいので良いですけどね。
「キャルシィ、美味しいですか?」
「はい!凄く美味しいです!」
おお!これはカーラの株が上がっていますね。良かったです。とても美味しそうに食べていますよ。
カーラには良い所が沢山ありますが、それに負けないくらい悪い所がありますからね。これから一緒に居るわけですから、良い所がある事を先に知ってもらえた事は、とても良かったと思います。悪い所しか知ってもらえなかったら、2人の仲が悪くなってしまいますからね。私の隣で空気が悪くなるのは嫌ですから。
私が、そう1人で納得していると、キャルシィがとある質問をしてきました。
「あの、メイお姉ちゃん。今日一緒に村を周っていて思ったのですが、どうして魔族である私をすんなりと受け入れてくれるのですか?」
あぁ、そんな事ですか。答えは簡単ですね。
「キャルシィが可愛いからですよ」
「にゃ⁈ からかわないでください!」
別にからかってはいませんが…。事実ですし。まぁ、普通は疑問に思いますもんね。魔族と人族は長い間争っている訳ですし、この村以外だったら怖がられたりするでしょう。
「キャルシィ、この村は魔族領のお隣です。偶に、人族に興味を持った魔族の人が来たりするのですよ。そういう人は大体友好的です。
だから、村の人たちにとって、自ら会いに来る魔族とは観光客みたいなものなのですよ。過去にはそのまま、この村に住んだ人も居るくらいです。因みに、私の曽おばあちゃんも魔族だったらしいです」
私が生まれる前に死んでしまったみたいなので、会った事はありませんけどね。曽おばあちゃんみたいに、人族と結婚する魔族は特殊なので、相当珍しいみたいですけどね。なので、私の存在は、かなりレアで異質です。以前、カーラが私の事を変異種と言ったのも、あながち間違いではありませんからね。まぁ、言われるのは不快でしたけど。
「…そうなんですね。だから皆さん、私にもお菓子をくれたのですね」
「それはキャルシィが可愛いからです」
そこは間違ってはいけませんよ。普通は観光客だからっていっても、誰もがお菓子をあげたりしませんからね。キャルシィが可愛らしいから、皆がお菓子をあげたのです。
そしてそれからも、カーラが無駄に私の事を喋ったり、ポチの活躍を聞いたりで、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。カーラの言う事を逐一否定するのは、少々骨が折れましたが、みんな楽しそうにしていたので私も満足です。
そして食事も終わり、私はあの話を切り出しました。
「カーラ、お父さんと戦ってみたくありませんか?」
「え、良いの⁈ 戦りたい!」
「んな⁈」
さてさて、出来レースの始まりです!




