250.王子と王女と悪役令嬢の密談 4 -1
イザベラ嬢とのお茶会や、リラ妃とカレン妃のお茶会。そしてリュージュ様からのお茶会の作法。それにプラスして放課後はファラやキャスたちと、お友達を増やそう会議。
もうずーっと、ずーっとゆっくりする暇がない。
「だからどーしても、お茶会がしたかったの。三人で」
こんなに頑張っているんだものたまにはよくないかしら? 私は急遽、アリシアを呼びロイ兄様の小離宮に押しかけた。押しかけたとはいうけれど、事前に侍従長とロビンには伝達済みだ。さすがに急にお茶の用意をしてもらうのは大変だから。
私の意図を察して、ロビンはロイ兄様には内緒にしてくれてたようだ。そう。
あのときのように。
ロイ兄様の部屋のバルコニー。私とアリシアは二人でソワソワしながら待っていた。
アカデミーで土地の改良と、作付けの種類を実験検証中の兄様は最近少しだけ戻りが遅い。この土地の改良については魔力過多の畑でなくても、収穫量を上げるための研究なのだ。
魔力過多の畑はたしかに便利だけど、どこでも広大にできるわけではない。今はどうしてもポーションの材料である薬草が中心になっているしね。
それに貴族が畑作りに協力的か否か、でも変わってくる。その場合、住んでいる場所によって収穫量に大きな差が出てしまうのだ。そういう非協力的な人たちほど、論ってばかりで話にならない。
でも土地の改良はどんな人でもできる。肥料の配合を変えて、今よりもっと収穫量を増やすのが目標だ。それに暑い場所でしか育たない作物もあれば、寒冷地でないと育たない作物もあるわけで……そういった作物を土地の名産にするのも大事だ。
それに薬草以外の魔力過多の畑では、なくてはならない食材が中心になっている
特に小麦。香辛料。それにトウモロコシやじゃがいも、たまねぎ、トマト、など。そのうちここに砂糖が混ざってくる。
安価で、みんなが手に入れやすい食材。調味料。それらは食卓を豊かにする。
そこをさらに発展させようと、ロイ兄様は頑張っているのだ。
「そろそろかしら?」
「あの……本当にお知らせしてなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。無理ならロビンが止めてるもの」
「な、なるほど?」
アリシアはチラリとロビンに視線を向ける。ロビンはロビンですました顔で、部屋の中で待機していた。ロビンはカレッジでもそうだったけど、アカデミーにもあまり付いていかない。
だからといってロビンが時間を持て余している、ということもないわけで……ロイ兄様がアカデミーにいるときは何してるんだろ? と疑問でもある。
「お姫様方、そろそろですよ~」
「わかったわ!」
ロビンの合図に、私とアリシアはバルコニーの窓の影に隠れた。
本当は座って待ちたいけど、直ぐに気づかれちゃうと思うのよね。私だってロイ兄様を驚かせてみたい! そんな思いでロイ兄様が入ってくるのを待つ。
ロビンが扉の前に立ち、そしてドアノブに手をかけた。
カチャリと音がして扉が開く。
「ただいま、ロビン」
「おかえりなさいませ、ロイ様」
そういいながら二人は入り口で二言、三言、やり取りをしている。
普段のロイ兄様はおっとりしているようで隙がない。でも自分の部屋では別じゃない? 私ほどではなくても、だらりとしてる姿が見たいのだ!
窓の影からそーっと中をのぞき見る。
しかしそこにロイ兄様はいなかった。いや、たしかにさっきまではいた。いたはずなのに……死角に入ってしまったのだろうか?
もう少し、と身を乗り出せば反対側からパタパタと手を動かす気配がした。
アリシアに視線を向ける。すると――――
「ルーティア。なにしてるのかな?」
耳元にロイ兄様の声。ヒュッと小さい悲鳴が上がる。
悲鳴を上げたのは自分だったのか、アリシアだったのか。顔を声のする方に顔を向ければ、私が隠れていた場所のちょうど死角。そこにニコニコと笑みを浮かべたロイ兄様が立っていた。
「ろ、ロイ兄様……おかえりなさい!」
「ただいまルティア。それにアリシア嬢も、久しぶりだね?」
「お、お久しぶりです! ロイ様」
いつの間に、と言う感想しか出てこない。ロビンに視線を向ければ、口元を押さえながら肩を震わせている。
「……も、もしかしてロビンが教えた?」
「いいや。教えてもらわなくてもわかるよ。可愛いお花が二人もいるのだからね」
「可愛いお花……?」
「ルティアはまだまだ勉強が必要みたいだ」
私が首を傾げれば、ロイ兄様は苦笑いを浮かべた。
アリシアは意味がわかったのか、いたたまれない……といった表情を浮かべている。そんな私たちにロビンがワゴンを押して近づいてきた。
「さ、お三方とも。お茶をするんでしょう? 席にどうぞ」
「ありがとう、ロビン。君もルティアたちの協力者だったとはね」
「そりゃあ、たまのお願いはね。最近頑張っていらっしゃいますし?」
「それはそうだけどね。まあ、怒ってるとかそう言うわけじゃないから……アリシア嬢は心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ」
「きょ、恐縮です……」
アリシアはぴゃっと小さくなって、下を向いてしまう。そんなアリシアを見てロイ兄様はふふっと小さな笑い声をあげた。二人の間の空気に常とは違うものを感じたのだけど、それを何と言っていいのかわからない。
なんかこう、幸せそうに見えるけど……ちょっと違うのよね。
ファスタさんたちとは違う空気感。あのお二人は、俗な言い方をすれば「ラブラブ」と言うらしい。夫婦仲が大変良い。
ロイ兄様とアリシアの空気感はそれと近いようで、ちょっと違う。
もう少し、間に線があるような? 本当は二人が婚約をしてしまえば良いのにな、ってずっと思っている。でもそうすることで兄様とアリシアが危険な目に遭うのは避けたい。
フィルタード侯爵派閥はライルを立太子させたい。第一候補、と言う立場上、ライルの立場を脅かす存在は排除するだろうから。
ロイ兄様は第二候補。そして婚約者がいない。ロイ兄様の婚約者は、家格によってロイ兄様の大きな後ろ盾となる。だからこそアリシアをロイ兄様の婚約者にはまだできないのだ。
とはいえ、ロイ兄様には王位に就くつもりがない。その主張は五年前からずっと変わっていないのだ。
第一王子だからといって、王位に就く必要はない。父上が王位に相応しい者を後継者に選ぶだろう、ともっともらしいことを言っているけどね。
私はもしかして……と考える。もしかして、お父様と同じことをしようとしてるんじゃないかなって。
お母様と一緒になりたいから、お父様は早々にカタージュに婿入りした。
もちろんフィラスタ伯父様の件もあるだろうけどね。
アリシアとロイ兄様は私そっちのけで話をしている。私が黙っていることすら気がつかないようだ。その様子にふふふっと笑ってしまう。
「……ルティア? どうしたの??」
「いいえ、なんでもないわ。ね、ロビン?」
「そうですねぇ。良いお茶会日和だなって思ってるだけっすよ」
ロビンに同意を求めれば、ロビンも同じように頷いてくれる。ロイ兄様とアリシアはお互いを見遣り、そして同じように首を傾げた。
「さ、お茶を飲みましょう!」
「そうですよ。ロイ様が帰ってくるまで、姫さんもアリシア嬢もずーっと待ってたんっすから」
「それは……事前に教えてくれてれば、早く帰ってきたんだけどね」
「それじゃあ、ロイ兄様を驚かせられないじゃない」
「やっぱり驚かせようとしてたんだね?」
「あっ……で、でも! ロイ兄様だって昔同じことアリシアとしたでしょう!?」
「そんなこともありましたね」
アリシアは苦笑いを浮かべる。そんなアリシアを見て、ロイ兄様はアリシアのお皿にケーキを取り分けていた。そういえばあのときもそうだったわね。あのときも今も、ロイ兄様はアリシアに疚しい気持ちがある。
イザベラ嬢のことを秘密にして、彼女の対応をさせようとしているのだから。
これは気の弱いアリシアに自信を付けさせるためでもある。そして私に、諸問題に対する対応力を付けさせるための。
そのせいもあって、三人でのお茶会が最近は減っていたのよね。
でも今回は二人に共有する話がある。
だから――――
「さ、密談を始めましょう!」
私はそう宣言した。
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