238.女の子たちの集い 1
その日はたくさんの女の子たちと話した。それはもう、数年分くらい!
普段からそこそこ話す方だとは思っていたけど、寮の部屋に戻ると顔周りがなんか変な感じがする。
もちもちと揉んでみたけど、まだ変な感じ。そんな私を見てアリシアが小さく笑っていた。
寮の部屋ではリーナが待機していて、どうでしたか? と聞いてくる。
私はちょっと首をかしげてから、大丈夫そうと答えた。だが体の方はそうでもなかったようで、ソファーに座るとちょっとだけ横になる。体の中から魔力が抜けたときのような? そんな気分だ。
「あのね……みんな凄くおしゃれで、ちょっとおどろいたわ」
「たしかに……おしゃれな方が多い印象ですね」
「り、リーナもおしゃれに興味ある? もしかして私に気を遣ってなにもしてない??」
「そんなことはないですね」
「本当に? 言いだせないとかない!?」
ガバッと起き上がり、リーナを見る。リーナは大丈夫です、というが……ちょっと心配になってしまった。
私があまり興味ないせいで、私に合わせていたのなら申し訳ないからだ。キャス曰く、年頃の女の子はみんなおしゃれに興味がある。というし……
もちろん全く興味がないわけじゃない。ただ、それよりも本を読んだり、畑に何を植えようか? 今の季節なら花は何が咲くか? とかそっちに興味があるのだ。
土いじりに関しては、趣味と実益を兼ねているといっていい。
ラステア国からお詫びにって、上級ポーションのさらに上のポーション。ハイポーションと言うらしいのだが、そのレシピと種もいただいてしまった……! とっても凄いもので、その種をいつ植えようかな、とカーバニル先生と思案している。
魔力過多の畑なら、そこまで厳密に種を植える時期を考えなくても大丈夫だけど。ただ、いただいた種は少量。失敗はしたくない。
ちなみにハイポーションは、致命傷でも一瞬で癒やし体力も全快させる凄いもの。
上級ポーションの上位相互というよりは、より治療速度を早くしたものらしい。
らしい、というのは……ラステア国でも作られなくなって久しいから。
薬草の育ち辛さもそうなのだけど、そそぐ魔力量も大量に必要なのだ。そうなると上級ポーションだけで大丈夫なのでは? となったらしい。
たしかに上級ポーションなら切れた腕すら生えてくるものね。
第五騎士団のクマさんに似たマクドール・ヘインズ副団長が、「あれはすごい!」と感心しきりだった。
そんなことをつい、つらつらと考えてしまう。
考えなければいけないおしゃれはどこかへ飛んでしまった。はあ、と吐息をはく。
「……おしゃれって難しい」
「そうなのですか?」
「そうなの。おしゃれのことを考えようとすると、つい別のことを考えてしまうくらいには私には難しいわ」
「難しいと思われるから難しいのでは?」
「そんなこと、……あるのかしら?」
「あるかもしれませんよ?」
リーナはいつも通りの落ち着いた様子で、私の目の前に紅茶の入ったカップを差しだす。
それを受け取ると、ふわりと良い香りがした。
アリシアなら、どこ産の紅茶ですねって出てくるのかな?
私は出された紅茶はみんな美味しく感じるけど。
この辺は礼儀作法とはまた別なのよね。
テイスティングもその一つ。視覚、嗅覚、味覚、触覚を用いて分析しなきゃいけない。
美味しいものは美味しいだけじゃダメだし、流行だって押さえなければいけない。
「……何でもできるようになるのはまだまだずーっと先ね」
「一つ、回避する方法がありますよ」
「えっ! どんな方法!?」
思わず前のめりになり、リーナに先を促す。リーナは事もなげにこういった。
「私はどこ産のものが一番好きなんです、と仰ればよろしいのです」
「それって、美味しいですよって勧められても?」
「ええ。こちらのお品もよろしいですが、私はどこどこのものが好きなのです。そう仰るだけでよろしいかと」
「なんだかズルしてる気分ね?」
「ですが自分の好きな物を公表するのも大事ですよ。何でも受け入れていたら、アレもコレもとだされてしまいますし」
「それはたしかに?」
嗜好品、というのは好みがでる。
双子たちですら、好きな物は違うのだ。
翻って自分のことを考える。私の好きな物って何だろう?
大事なものは思い浮かぶけど、好きな物と問われるとちょっと思い浮かばない。
小さい頃は、それこそ食事をちゃんと食べるのすら大変だった。
あり合わせの材料でユリアナがスープを作ってくれて、ちょっと固いパンを浸して食べる。アレはアレで美味しかったのよね。でも好きかといわれるとまた違う。
とはいえ侍女長が変わって、食事から衣服から一新したけれど――――
だされた食事を残したことはない。
お腹いっぱい食べられるだけで幸せなことだ。
「リーナ……大変だわ」
「どうされました?」
「私、好きな食べ物がわからないかも……あ、でも一番大好きなのは、ユリアナが作ってくれるリンゴのケーキなのだけどね。でもそれって違うのよね?」
私の問いにリーナは困った表情を浮かべつつ、小さく頷いた。
「どこ産の、やどこのお店の、といった物の方が良いとは思いますね」
「そうよね。お茶会に呼ばれたときに、どこのお菓子が好きなのっていえるものね」
「次からはそのお店のお菓子が並ぶでしょうから、なにがどう、といった話題にもならないでしょうし……」
「お店や産地がわかれば、事前に勉強できるものね」
はい、とリーナは頷く。
ズルしている気分、とはいったもののリーナの提案は何にでも通じる気がしてきた。
ただ何が好きかと聞かれると、本当に困る。王族としてある程度の品位を保つ必要はあるけれど、逆に保たれるのであれば特に指定するような物はないのだ。
「……そうか、私……好みがないのかな?」
「好みがない、ですか?」
「そう。洋服だって、アクセサリーだってみんな用意してもらってる。筆記具もそう。もちろん可愛いとか素敵なのもとかはわかるわよ? でもどうしてもこれが欲しい、というのはないのよね」
「たしかにルティア様は……こう、自己主張がないですよね」
「自己主張はしてるのだけどね」
「性格のお話ではなく、身につける物の話です」
「うん。それはわかるわ。物がありすぎるからダメなのかしら?」
「一般的な姫君の持ち物がどの程度あるのかわからないのでなんとも……しかし衣服に関しては少ないと断言できます。それ以外はちょっと……」
困らせたいわけではなかったのだけど、うーんとリーナは悩み出してしまった。
キャスは「洋服やアクセサリーなんていくらあっても良い!」そういっていた。気分によって変えられる。その気分の上がり下がりが年頃の女の子は顕著なのだ、と。
今日クラスの女の子たちと話してそれが良くわかった。
好きな色、デザイン、宝石にも興味を示す子も多い。しかも魔法石として使うのではなく、ちゃんとアクセサリーの用途として、だ。
私の年頃でそんなに高価なアクセサリーを欲しがるなんて、と思っていたけど……宝石にもランクがある。自分のお小遣いで買える程度の宝石だってあるのだ。
目から鱗が落ちる、というのはこういうことを言うのだろう。
刺繍が好きな子は刺繍糸にだって拘るし、リボンの好きな子は髪を結うときに必ず使うといっていた。好きなものを身につけると、気分が良くなるのだと。
私に、そんなものがあっただろうか?
ふと頭の中に、あるものが思い浮かぶ。でもあれは―――― 手紙にしか使えないものね。
「ルティア様。お知り合いが増えたのですよね?」
「そうね。今日だけでいっぱい増えたと思う。たぶん」
自信はないが、あれだけお話ししたのに明日には元に戻ってたら悲しくなる。
そんな私の心配を余所に、リーナが提案してくれた。
「ルティア様、皆様とお話をしながら好きを見つけてみてはいかがですか?」
「好きを、見つける?」
「はい。少しずつで良いので見つけてみてはいかがでしょう? つまり、積極的にお茶会に参加すれば良いのです!」
「お茶会に参加!?」
「はじめは小さな会から、徐々に人を増やし……最終的にはご自身でお茶会を主催できるまでになれば上出来かと」
「そ、そんなこと私にできるかなぁ……」
「何事も経験です。お茶会を主催するのなら、マリアベル様やリュージュ妃様にご相談なさればいいのですよ」
二人の名前を出され、それなら……と考える。
それにまだ自分が主催できるとも思えないし。小さなところから少しずつ、慣れていくしかない。
好きを見つける。その響きだけは素敵だなって思えた。
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