234.悪役令嬢、奮い立つ 1(アリシア視点)
私とルティア様が出会って五年経った。
まだ五年なのか、もう五年なのか。
そして――――あと五年。あと五年で断罪の年が来る。
あと五年の間にできることをしなければいけない。
ポーションがあるから、流行病に関しては問題ないだろう。ロイ様も至って健康。ヒロインに助けてもらう必要もたぶん、ない。
国王陛下が生きていらっしゃるから国力が低下することもないし……それにトラット帝国が予定を早めて戦争を仕掛ける、なんてこともないはず。
とはいえ、私はただの侯爵令嬢で国政に関わる情報なんてそう簡単にはいってこない。
ルティア様やロイ様だって、簡単に情報を得ることはできないだろう。
だから私にできることなんて、実はそんなにない。悪いことをしないで、大人しくしていれば大丈夫。そう高を括っていたのだ。
だが、現実はそう甘くない。
ルティア様にいわれて、私は目を背け続けた現実にいよいよ向き合わねばならなくなったのだ。
「ボッチオタクに、社交は難しいよぉ……」
寮の自室、ベッドに制服のまま大の字になるとひぃんと泣き言を漏らす。
そりゃあね! 商売に関しては、美味しいものを一つでも増やすことができれば嬉しいから頑張れるけど!! 社交ってそれとは違うのよ!
美味しいものは、人の口に入れば自然と広まっていく。口コミって大事。
でもね、人付き合いって人見知りの私にはハードルが高い。めちゃめちゃ高い。
ルティア様なんてコミュ力の塊なのに、今まで友達がいなかったのが不思議なのよ!
ベッドの上で枕を抱きしめながら、ゴロゴロと転がる。
「……あえ? もしかしてシナリオの強制力……??」
コミュ強ルティア様に友人が増えないのって、モブ王女だからとか? まさかそんな??
ここにきてシナリオの強制力が??
そんな風に考えて、私はルティア様の普段の様子を思いだしスンとなった。
ルティア様に友人が増えないのって、どう考えても私のせいじゃない?
普通に話かけづらい。私が逆の立場だったら絶対に近寄らないわーだって怖そうだもの。そういえば、ルティア様もそんなことを言ってなかったかな……
一国の王女と侯爵令嬢。そのツートップが並んでいて話しかけてくるのは、余程の野心家かフィルタード派の子息子女ぐらいだ。
そしてそんな野心家はカレッジだとまだいない。アカデミーぐらいになれば出てくるかも知れないけど。
ノンデリカシーなフィルタード派の子息子女は、自分たちの方が偉い! と勘違いしているので平気でこちらを見下すようなことをいってくるけれどね。
それにしても、友達……友達か……
「……ルティア様に、私より仲の良い友達できたらやだなぁ」
一番のお友達だと自負がある。自負してるけど、これから先はわからない。
だってルティア様は私が知っているゲームの中の『モブ王女』ではもうないから。
コロンコロンしながらベッドの上で考える。
友達……友達を作るってどうやるの?
「私、一応悪役令嬢だからな……話し方、大丈夫かな。目つきがキツいとか思われてたらどうしよう……」
アリシア・ファーマンのビジュアルは好きだった。
今は自分の顔でもあるけれど。
だけど客観的に見て、キツい印象を与える要素があるのも確かなのだ。
愛されメイクなんて、仕事するうえで必要ないし。
かといって舞台を見に行くときは、推しメイクはしても愛されメイクなんてしないし……
「もうちょっと、印象を柔らかくするメイクを覚えておくんだった……!!」
ゴロン、と転がるとそのままベッドの上から落ちる。
ギャッと小さな悲鳴を上げ、カエルがべしょっと落ちたような姿に悪役も何もないな……なんて独りごちた。
「はぁ……本当に友達ってどうやって作ればいいんだっけ?」
ベッドの下で私はグルグルと考え込んだ。
***
「現実問題として、仲の良いお友達は無理だとしても友人知人は必要なのよね」
「それはまあ、そうですね」
朝食の席で私は目の前に座っているシャンテ君にそう話しかける。
シャンテ君はA定食を食べ、私はC定食。この辺が未だ日本のゲームだなーと思ってしまう所以だ。
定食って何だ。定食って。セットでいいじゃないか。
そんな突っ込みを心の中でいれる。
ちなみにA定食はパンと、コーンスープ、サラダ、白身魚のフリット。C定食はリゾットとコーンスープ、ヨーグルトだ。どれも美味しい。ありがとう、お父様が開発してくれたコンソメの素。
「あのね、ルティア様と話をして……友達作りって大事だなって。そう思ったの。思ったのだけど、友達ってどう作ればいいのかわからないの」
「気持ちはわかるんですけど、アリシア嬢はその、一応侯爵令嬢ですからね?」
「そうなの。私一応侯爵令嬢なの。侯爵令嬢って自分からドンドン話しかけなきゃいけないものなのかなぁ!?」
「社交的に言うなら、そうですね。身分が下の者から上の者へ話しかけたりしませんから」
「そうなんだよねぇ……」
私からはじめないと、話が進まない。その現実に絶望している。
うっかり侯爵令嬢に生まれ変わってしまったがために……!!
一応、学園内は平等という理念はあるけれど……あるけど、そもそも私に話しかけてくる人がいないので自分で話しかけないといけないのよ。
私の他に同じ歳の侯爵家の人間ってエスト・フィルタードしかいない。他の三家は学年が違うから、そもそも出会わない。自分から話かけるしかないのだ。
「……ルティア様は、話しかけるの躊躇しなさそうですよね」
「そうだよね。躊躇せず話しかけるよね。きっと友達だってすぐできちゃうよ」
「それが良いところでもあり、もう少し警戒心を持ってほしいところでもあるんですけど……」
「気持ちはわかる。でも、きっとそれも含めて必要なんだよね。私たち、固まりすぎたんだな……きっと」
「今の僕たちの状態は、あまり良くないでしょうね」
そう言ってシャンテ君はチラリと周りに視線を向けた。寮の食堂は、それなりに賑わっている。横長の席の端に座っているのだが、私たちの隣二つは開いたままだ。
ちなみに本日はルティア様はいない。王城から学園に来ることになっている。
それなのに、私たちと他の生徒の間は二つ――――席が空いていた。
合計四つの空席。
そりゃあ、ルティア様が一緒に食べるなら一つは開いていてほしいけど。でも一緒にいないってことはいないのよ。いつも一緒に行動してるんだもの。
それだけ私たちは遠巻きにされてる、ということだ。
これじゃあ、どんなに断罪を避けようと頑張っても味方になってくれる人たちがいない。
我関せずか、フィルタード派の子息子女たちにやんやと言われて不利になる。
いや、ダメだ。友人知人がほしい理由がそれだけって相手に失礼なのよね……
ルティア様は純粋にお友達になって、ってと思ってるはず。私みたいに邪な思いだけでなく、狭い世界をもっと広げたいと思っているのだ。
ルティア様って本当に凄いな。
「……私もルティア様みたいに躊躇なく人に話しかけられる心臓がほしい」
「それ、僕もほしいです」
「本当にどうしたら良いんだろう」
「単純に話しかけに行くしかないのでは?」
「切欠! お話する切欠がほしいの!!」
「切欠……ですか。なにか共通点を探す、とか?」
「私たちに人に話せる共通点あるかな?」
「……畑仕事?」
「……畑仕事は、アウトじゃない?」
「今自分でもそう思ったので言わないでください」
額を押さえながらシャンテ君はうーんと唸りだす。まあそうなのよね。私たちの共通点って畑仕事になっちゃうよね。
あの畑で出会った日から、ずーっとみんなで畑で作業してたもの。
リーン君が魔力過多の畑に興味を持ってくれなかったら、今私とシャンテ君はこんな風に話していなかっただろう。
それはライル様もそうなのだけど……きっと一方的に嫌われたままだったかも。
「あ、そうだ。商家の子たちに話しかけるのはどうです?」
「商家の子たち?」
「アリシア嬢は商才があるでしょう?」
「商才があるんじゃなくて、単純にお父様がすごいのよ」
「でもデザインとか、色々あるじゃないですか」
「デザイン……」
「裕福な商家は新しい販路を探してるんじゃないですかね?」
「そうか。うちの商品、領外で販路を探すなら今なのか……」
「口実の一つにはいいのでは?」
「そ、れでいこうかな。まずは商家の子たちを調べないといけないけど」
今すぐ話しかけに行こう! とならないのは、慎重だからだと思ってほしい。
だってほら! 何を扱ってるのか知らないと、話しかけても相手にしてもらえなかったら困るし。最低でも販路拡大できれば、うちのプラスになるもの。
そう。これは戦略的な問題であって、私が及び腰だからではない。
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あと3日で書籍発売なのでモブ姉王女の更新を集中しておこないます。
続刊出したい!!




