233.彼らが考える、特別な自分
フィルタード派の子たちの面倒をまとめている、いや面倒を見ているのはエスト・フィルタードである。
特別な自分たちに酔っているフィルタード派の子たちに比べればマシな部類だろう。
ただ、多少マシというだけだが。
それでも彼は私に対して頭を下げた。
「姫殿下、そしてファーマン嬢。このたびは彼らが失礼な発言をしたこと、どうぞお許しください。そしてシュルツ嬢はまだこの国に来たばかり。大目に見ていただきたい」
「……そうですね。シュルツ嬢はまだファティシアにいらしたばかりですもの。自国と、ファティシアの違いがわからなくて当然ですね。ですが、後ろにいらっしゃる方々は自国の産業もどれだけ自分たちが恵まれてるかもわからないご様子。それは貴族としていかがかしら?」
「仰るとおりです。彼らには、私が責任を持って注意いたします」
「その言葉、お忘れなきようお願いしますね? 他国の留学生の前で、あまりにも恥ずかしいですよ」
扇で口元を隠したまま、チラリと彼らの方を見る。苦々しげな顔でこちらを睨み、反省しているようには到底思えない。
だがこれ以上、ここで揉めるのは悪手。
なぜならエスト・フィルタードが頭を下げたから。
フィルタード侯爵家が王家、そしてファーマン侯爵家に対して頭を下げた。
ならばここで治めなければいけない。
私はパチン、と扇を閉じる。それを合図にして、エスト・フィルタードが顔を上げた。
いつものように笑顔を貼り付けたような、表情。
そこから何か考えを読み取ることはできなかった。
エスト・フィルタードがフィルタード派の子たちとイザベラ嬢を連れていなくなる。
その後ろ姿を見送り、ようやく姿が見えなくなったところで大きく息を吐いた。
周りを見れば、観客がまだいる。ここで「疲れたー!」なんて言えるわけもない。
私は苦笑いを浮かべると、アリシアとシャンテ、そしてファラに移動を促した。
「いやードキドキハラハラしちゃいましたね」
あっけらかんとファラがいうものだから、アリシアは「こっちは心臓が口から飛び出そうでした」と困り顔で呟く。確かにいつものアリシアなら喧嘩を買ったりはしないだろう。
「アリシアも、凄かったわね」
「そ、んなことは……もう、無我夢中で……今思いだしても胃がキュッてなります」
「僕もアリシア嬢が言い合いをはじめたので胃がキュッてなったんですけど、後ろでルティア様とファラさんがこそこそ話し合ってて……危うく吹き出すところでした」
別の意味でハラハラしましたよ。といわれてしまうと、私とファラは顔を見あわせて笑うしかない。真面目な? 言い合いの場で申し訳ないことをした。
「そ、そんなことが私とシュルツ嬢の裏で……!?」
「だってそんなことも知らないのかしらってなるじゃない?」
「我が国の識字率は数年前からグッと上がりました。それこそカレッジに入学する平民が増えたのが良い例です」
ファラが自分もその一人です! と胸を張っていってくれたので私は嬉しくなる。
ローズベルタ侯爵家が才能ある若者たちに援助し続けている結果が、徐々に結果として表れているのだ。王家としても才能ある人々の援助がもっとできると良いのだけど……
現実はそう優しくはない。
優秀な研究者を輩出し、支援し続けているローズベルタ侯爵家ですら結果がでるまでに時間がかかっている。
「本当は……王家としてももっと支援したいのよね。ローズベルタ侯爵家だけでなく、王家がもっと大々的にできればいいのだけど……」
「そうですね。ファーマン侯爵家も同じ意見です。ですが……」
「そうなの。フィルタード派の貴族たちが、王家が支援してどれほどの利益が得られるのか? それよりも即効性のある政策をすべきだ! っていわれてしまうのよ」
「難癖……ですよね」
「そうね。難癖ではあるわね。でも、その言い分がわからないわけではないの。支援するなら、結果を伴わないと……」
アリシアとシャンテは難しい顔をして頷く。それに対してファラは、にこりと笑った。
「なら簡単ですよ! 私たちが頑張れば良いんです。平民だってやればできるんだってみんなで頑張りますよ!!」
「ありがとう。ファラ。とっても頼もしいわ」
「いえ、だって悔しいじゃないですか。なんでも私たちに丸投げにしようと考えてるくせに、私たちの努力なんてどうでもいいって言われたら」
「そうよね。結局のところ、働いてくれる人たちがいなければ何もできないもの」
「そうですよ。それに……今あの調子じゃ、将来はどうなるか簡単に想像つきます」
使用人が必ずしも善人であるとは限らない。悪い人間だっているのだ。そういった人たちは法の抜け穴を突いてくる。そうファラはいう。
自国の産業も、自領の特産も何も知らない彼らが将来家を継いだとして――――
騙される未来しかないわね。そういうのってどこからか嗅ぎ付けてくるものだし。
いいカモだ、とかわるがわる詐欺師が彼らの元を訪れそうだ。
そして騙されたと気がついたときには、莫大な借金を背負っているかもしれない。そして昔と違って、今は税金を上げるには国からの許可がいる。
昔は国に収める税金が確保できれば、領主に収める税金は何%以内なら……ってちょっとあやふやだったのよね。そしてあやふやなままだと、税金を最大まで上げる貴族もいる。
だってここまでならって、書いてあるからと。
もちろん毎年豊作で、領地の人々が飢えてないならそれも可能だろう。だがそんな都合の良いことは起きない。それでも構わず税を納めろと横暴に振る舞う貴族はいるのだ。
それではみんな生きていけない。土地から人々が逃げ、どうにもならなくなった貴族が泣きついてくる。なんてこともあった。だが彼らを裁く法がない。
それを問題視したフィラスタ伯父様が草案をまとめ、お父様とリュージュ妃様、ハウンド宰相様がたくさん頑張って法律として施行した。
おかげで今は、全体収入の何%が王家への税収。何%が領主の税収。と、きっちり決まっている。どれだけの収益になるかは、年によって違うけど……それでも指針となる数字があれば、不作の年には何%減らしましょうと変えることができる。
ちなみに領主が勝手に数字を変えることはできない。悪質な誤魔化しは、貴族籍の剥奪もあり得るのだ。
もしもどうしても上げなければいけない理由があれば、王家へ報告。王都から会計監査のできる役人を即座に派遣して、必要かどうかを検討する。
大体が必要のない値上げであるのだけどね。
自分たちの生活ができない! と文句を言う貴族もいるが、それは自分たちの生活を顧みない人ばかり。収入に対し支出が間違っているわけで……
そしてその必要のない値上げをしようとする貴族は、フィルタード派に多い……とても残念なことに。
ただ不思議なのだけど、フィルタード侯爵家からいわれたことはないそうだ。あとフィルタード派のカナン侯爵家からも。
もっともカナン侯爵家は元々が商家からの成り上がり。
領地を栄えさえ、バンバン国内外に販路を広げることこそ大事だ! というタイプの家だから税金を上げて自分たちの暮らしを……とは思わないのかもしれない。
「もーちょっと勉強してもらいたいわよね。私も勉強は得意とはいえないけど、あそこまで物を知らないのに留学生の側にいるのは……問題があるわよね」
「そこはフィルタード卿がなんとかするのでは?」
「そうしてくれるといいのだけど……フィルタード卿がいつも一緒にいるわけではないでしょう?」
「それは、そうですね……ですがこちら側になってほしくともあの態度では……」
そういってシャンテが難しい顔をする。
いいたいことはわかるが、あれは演技なのよ。ともいえない。
実際のイザベラ嬢は、シャンテやアリシアが思うよりいい子なのだから。
とはいえ、イザベラ嬢が彼らの側に甘んじていることで何かしら情報が入ってくるのも事実。
「なんとか……なんとかなるといいな」
特別なんて大変なだけなのに。王侯貴族というだけで責任がのしかかる。
その現実に、自分たちが特別だと思い込んでいる彼らが早く気がついてくれればいい。
まだ、間に合うのだから。
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