報酬
翌日。
僕は弐番寮の入口の辺りで、王女殿下を待つべく、待機していた。
部屋まで来る、という話ではあったけれど、そもそも部屋に女性を入れるのは寮則違反だ。王女殿下がお忍びで来てくれるならあるいは、ではあるけれど、恐らくそれは上手く行かない。
隠れようとしても目立つタイプだからだ。
だから、こうして入口で待ち、報酬はここで受け取るべきだと僕は判断した。
『報酬ねぇ……』
僕にだけ見える姿で、赤ずきんちゃんが呟く。ベニスとの一件以降、外に出る時も付いて来ることに決めたようで、こうして近くにいる。
それから、しばらく待つ。
すると、王女殿下が現れた。
今日はお付きの人もいるようで、幾らか年上の女性を連れて来ていた。
学生服ではなくスーツ姿で、如何にも警備が仕事です、と言わんばかりの出で立ちの人である。
「……お部屋までお伺いすると伝えましたのに」
「部屋に女性を入れるのは、寮則違反ですから。ここで受け取ろうと思いまして」
「こ、ここでですか……?」
急に王女殿下の頬が朱色に染まる。
なんだろうか……様子がおかしい。
そういえば、手ぶらだ。
報酬らしきものを何も持って来ていない。
「さ、さすがに外では……」
「外では……? あの一体報酬とは……?」
「こ、こほん。……ジャンバ・アルドード、あなたが何を好んでいるのかは、私も承知しております。以前に見せて貰いましたから」
見せて貰った?
王女殿下は一体何を言っているのだろうか?
「……私が報酬について考え始めた時に、セミナーでの一件が起きました。とても大変な事件にあなたを巻き込んでしまった事を後悔し、そして、せめてもあなたが一番に満足する報酬を与えようと考え至り、そこで思い出したのがあの時に見せられたことです」
「は、はぁ……」
王女殿下の顔がどんどん赤みを増していく。そして、お付きの女性が涙を流しながら、ハンカチで目尻を拭っていた。
「わ、私を好きになさい」
……うん?
「私の体を、貪るように、すすす、好きになさいと、そう言っているのです!」
「あの……」
「は、初めてですが、頑張りますから。あなたへの報酬ですから、き、気持ち良くなって頂けるように、私も誠心誠意努めます」
何か盛大な勘違いをしているのではないか。
僕は困惑する。
と、近くにいた赤ずきんちゃんの表情が引きつっていた。
『……ま、まさか、そういう風になるとは』
突然過ぎて、赤ずきんちゃんですら驚いている、といった感じだ。
「で、ですが外は私も恥ずかしいのです」
「いや、あの、別にそういう報酬は――」
――要らない、と言おうとすると、鋭い殺気が飛んで来た。王女殿下のお付きの人が明確な殺気を持って僕を見据えていたのだ。
「……王女殿下の決意、心意気、決して無碍にしてはならぬ。貴殿がすべきことは、優しく、王女殿下を女にしてやることだ」
「は、はい」
思わず僕は頷いてしまった。
※※※※
外ではさすがに出来ない、けれども部屋に女性を入れるのは寮則違反。そういう事情もあり、僕と王女殿下は、街中の片隅にある休憩できる部屋を借りることになり、そこで二人きりとなっていた。
いや、厳密には透明な赤ずきんちゃんがいるから、三人だけれども。
僕は正直を言うと、赤ずきんちゃんに止めて欲しい、と考えていた。
だがしかし。
赤ずきんちゃんは悔しそうな顔をしながらも、
『……今回は私の失態ね。甘んじて受け入れるしかないわ。……ま、体だけの関係だろうから、浮気にはカウントしない。ノーカン』
と、そんなことを言って、むしろ肯定して来た。
予想外の展開に僕は戸惑うものの、赤ずきんちゃんが止めないと言うのであれば、王女殿下と肌を重ねる以外の選択が取れなくなってくる。
まもなくして、部屋に備え付けてある浴槽で身を清めた王女殿下が現れる。
「……ジャンバ・アルドード。私は準備が出来ました」
僕はやけくそになって、赤ずきんちゃんに見られながら、けれどもなるべく優しく王女殿下を抱いた。
ちなみに、この時のことが原因で、半年後に王女殿下の妊娠が発覚する。
王族が絡む大問題に発展してしまう。
大変な事になった、と僕の血の気が引いていくことになるのだが……それはまた、別の話だ。
一区切りつけた所で完結させる、と決めてしまったので書く事は無いと思いますが、実は長期連載した場合には王族騒動は書く予定ではありました。




