ミアを守るのは二度目
「――っ⁉」
「~~~~~っ⁉」
ベニスの体の内側から、声にならない声が聞こえる。吸収された人々は、まだ、生きているようだ。
僕が額に冷や汗を掻いていると、ベニスの肉塊に浮き出る目玉の全てが、ギョロりと動いた。僕を見て来たのだ。そして、ベニスは動くことを一瞬だけ止めた。
「……お、おばべ、ダ、ダンバ」
先ほどの騒動で、蝶仮面も取れてしまったから、すぐに僕だと分かったようだ。
「ベニス……」
「お、おでば、おばべがぎにびらなくて……」
ベニスは、こんな怪しげセミナーに参加し、果ては化け物へとなり果てた原因が僕だと告げた。
「……僕が気に入らなかったから?」
「おばべがみどめだででる、どぅがつく‼」
そんなくだらないことで……。
「ごんだじゅがたぬなっどぅの、などもがの、おばべのせべだ‼ どぅっどじょうだ‼」
ベニスはそう言うと、触手を操り、僕へと攻撃を繰り出して来る。肉弾戦はあまり得意ではないけれど、どうにかこうにか躱して――そして、ふと、触手の生え際に術式を見た。
目視で解析。
すると、それが、先ほど”神”が行使した繋ぐ魔術であることが分かった。
……そうだった。ベニスの体は生来のものではなく、魔術によって作られたものなのだ。
これは裏を返せば、術式をどうにか出来れば、元の姿に戻すことが出来るかも知れない、ということでもある。可能性がある。
解除が出来れば、取りこまれた人々もなんとかなるかも知れない。出来ることであれば、助けられる命は助けてあげたい。そうは思うのだ。
だから僕は、ベニスにかけられた魔術式を、一つ一つ破壊していく事に決めた。
けれども――
「――くそっ」
向こうが攻撃をしてくるものだから、集中が出来なかった。
ベニスにかけられた魔術は凄く拙いものだ。
だから破壊も容易ではある。
しかし、だと言うのにすぐには行えないのは、戦いながらということに僕が慣れていないからだ。
対抗戦の時とは違う。あの時は、僕は既に使える魔術をいじくっていただけに過ぎない。
「じね!」
ベニスは僕に攻撃を加えつつも、周囲に残っている人間を、どんどん吸収していく。そして更に肥大化し、一撃はより重くなっていく。
建物の壁や天井を破壊し、とうとう、外にその姿を露出させるまでに至った。
「う、うわあああ‼」
「なにあれ⁉」
街の人々が、ベニスの姿を目にし、そして慄く。んな化け物が出てきたら、驚いて当たり前である。
「……早くなんとかしないと、周りの人たちに死傷者が出るかも」
焦る。
そして、その時だった。僕の眼にミアが映った。
そういえば近くの書店で働いているのだった。
今が仕事終わりで、帰ろうとしていた所だったようだ。
運が悪すぎる……。
「――ダンバァァァアアアア‼」
ベニスが、周囲の瓦礫や棒を拾い上げ、ところ構わずに投げ始めた。死傷者を出すわけには行かない。僕はすぐさまに小太陽を創り、全てを迎撃する。
しかし――そのうちの一つを、取りこぼしてしまった。そして、それはあろうことかミアに襲い掛かった。
「い、いやぁあああああ‼」
ミアの叫び声が聞こえる。僕は小太陽での迎撃を行おうとして――一瞬踏みとどまった。ベニスの放り投げた棒切れが、ミアとの距離を縮め過ぎていたからだ。
小太陽で迎撃をしたら、ミアにまで被害が及ぶ可能性がある。幸いだったのは、迎撃をしているうちに僕とミアの間の距離も近づいていたことだ。
僕は動いた。
気づいたら体が勝手に動いていた。
だから……、
「え……?」
腹部が妙に生暖かい。ぽたぽたと水滴が地面に落ちる音がする。
分かっている。
自分の体の状況なんて分かっている。
太い棒きれが、僕の体を貫いているのだ。
そして、攻撃に驚いて転んでいたミアが、そんな僕を見上げていた。
「……ミア、大丈夫?」
「そ、その怪我……」
「僕は大丈夫だよ。それより、早く逃げて」
「えっ……でも……」
「ほら早く」
僕はミアの腕を掴み、持ち上げて立たせると、背中を叩いた。それから肩を竦めて、最大限のやせ我慢で笑いつつ語り掛ける。
「……僕はこう見えて、色々な魔術が使えるんだ。対抗戦の時の魔術、凄かったでしょ? だから、治療とかも出来るんだ」
ウソではない。
状況さえ落ち着けば、安心して集中出来る状態になれば、治療用の魔術を”創る”ことも可能だ。
ただ、その状態を作るには、まずベニスをどうにかしないといけない。
この怪我を負った状態だと、ミアを守りながらベニスを相手するのは少々キツいので、早く逃げて欲しいのだ。
「お願いだから」
僕が再び笑いかけると、ミアも信じてくれたのか、短く頷いて駆けた。今にも泣きそうな顔はしていたものの、この場に自分がいれば邪魔になると、それは雰囲気で察してくれたようだ。
僕はミアの後ろ姿を見届けて――
「ごふっ……」
――棒切れを体から引き抜くと、傷口と口から大量の血が飛び出した。ぼたぼたと止めどなく溢れてくる。
痛みを感じないのは、傷が深すぎるせいだ。
このままだと、さすがに、僕も危ない。早くベニスを……。
僕は朦朧となりながらも、改めてベニスを見た。更に大きくなったベニスが、暴れまわっている。
もう、術式の解除等と言っている場合ではない。ここまでの事態になってしまったのであれば、やるしかない。
僕は覚悟を決めた。取り込まれた人々諸共ベニスを殺す覚悟を決めた。
今回の展開に関してですが、以前に主人公最強モノを書いた事があり、その時に苦戦をほぼ無しにしてみたのですが、その作品が全く伸びなかったことがありました。なので、本作では少しばかり切羽詰まった展開を試して見た次第です。
感想欄の制限、無しにしております。小説家になろうのIDを持っていない人でも感想を書けるようにしております。次作を書く場合に参考したいと思いますので、今回の展開がどうであったか、どしどし感想を頂けると嬉しいです。




