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表彰式

 結果から言うと、弐番寮は1位になった。

 それも、僕がその後に戦うことも無くである。

 どうにも、王女殿下と僕の勝負を見て、他の寮が一斉に棄権したらしいのだ。


 新入生だと言うのにあれだけの魔術を行使し、そして、何より王女殿下をとんでもない姿にしたその度胸に腰が引けたとかなんとか。


 控室でその報せを聞いた、僕は、ただただ真面目な表情になっていた。

 自動的に1位になれたのは嬉しいけれど、それよりも、先ほどの西館相手との勝負、その勝ち方のほうが気がかりだったのだ。

 王女殿下に勝った、というだけならまだしも、あんな姿にしてしまった。


「ははっ! 最高だぜジャンバ!」


 嬉しげに大笑いしつつ、ゴルドゴが僕の体を叩き始める。


「出て来た相手が相手だったからな。さすがに肩書的にこれは……と思っていたが、そんな不安も一瞬で消し飛ばしてくれた。全く怯まず、それ所かあんな姿にするなんて、中々出来る事じゃない」

「いや僕は別に……」

「西館の連中も、王女をまともに相手なんか出来ないと高を括ってたハズだ。……スカッとしたぜ。それも、あんなエロい格好で辱めるなんて、大人しい顔してジャンバも中々に男だな」

「だからその……」


 僕が、「わざとではない」と口にしようとする度に、それに気づく気配の無いゴルドゴが、矢継ぎ早に畳みかけて来る。そして、「皆も喜んでる」と、控室の扉を開いた。

 次の瞬間。

 どどどどっと弐番寮の面々が姿を現わし、僕の体を掴み、そのまま胴上げしながら急発進した。


「勇者だぜコイツ!」

「我らが弐番寮の誇り! 見た事ない魔術だった! 天才降臨!」

「まさかの1位だぜ! しかも西館完封!」

「つか、他の寮が一斉に棄権とか伝説に残るだろ!」

「銅像作ろうぜ!」

「エロイ格好、眼福になった! ありがとう!」


「「「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」」」



 ちょっ……。

 弐番寮の人たちは、一体、僕をどこに連れて行こうというのか

 僕は困惑する。

 すると、今度は赤ずきんちゃんが宙に現れた。

 応援の時とは違い、僕にだけ見える姿のようだ。


『……』


 赤ずきんちゃんは、なぜか、頬を膨らませていた。

 応援してくれていたのだから、勝ったら喜ぶかなと思っていたので、意外だった。


『あんなにえっちな格好にさせるなんて……。ああいうのが見たければ、わたしにやりなさい。わたしに』


 赤ずきんちゃんは、腕を組むと、ぷいっと横を向く。

 どうにも、王女殿下をああいう格好にさせた事が気に食わないようである。

 でも、これだけは一つだけ言いたい。

 それは誤解だよ赤ずきんちゃん。

 僕は別に、相手をああいう姿にしてやろう、と思っていたわけではないのだ。


 ところで。

 今考えるべきではないことくらいは、理解しているけれど、少し気になったことがある。

 赤ずきんちゃん、やるなら自分にと今言ったけれど、それ本当かな……?


 あとで改めて確認してみよう。


※※※※



 さてはて。

 僕が胴上げされつつ連れて行かれた先だけれど。

 そこは会場であった。

 なぜ再び……と思っていたところ、どうやら表彰式があるらしいのだ。


 壇上に来るように、と言われて、僕はゆっくりと向かう。

 トロフィーを手に僕を待っていたのは、魔専の教頭だ……と思う。

 断言が出来ないのは、入学式の時にちらりと見たくらいで、良く覚えていないからだ。


「……いやはや、まさかこのような結果になるとは、思っていなかったよ。それにしても、凄い魔術だね。私も目にしたことがない。あれが普通の魔術ではないことは、一見しただけでも分かる。私は学生時代、魔術実学を専攻していたから、特に良く君の魔術の凄さが分かる」

「は、はぁ……」

「……それから、君が王女殿下をあのような格好にしたことについては」


 あまりしたくない話を振られた。


「やっぱり問題になります……?」

「……い、一応は、我が校の理念上はどの生徒も対等であるし、あくまで試合中のアクシデントであったように見えたので、学校としては咎めるつもりはないよ。……わざとではない、で合っているかな?」


 僕は力強く首肯する。

 わざとではない。

 たまたま、ああなったのだ。


「であれば、魔専学校としては問題としない」


 ほっとした。

 学校側から、ああだこうだと言われる事はないようだ。

 後は、王女殿下個人がどう思っているかだけれど……それについては、祈る他に無い。

 ま、まぁ本人も「忖度も心配も無用」的なことを言っていた。

 恐らく大丈夫だと思う。きっと。


「……少し、話が長くなってしまったね。これは表彰式であるからして、ともあれ、おめでとう」


 言われて、トロフィーを受け取る。

 純金で出来ているらしく、ずっしりとした重みであった。


 僕は、会場を一望すると、トロフィーを持ち上げて見せた。

 西館壱番寮らしき人たちの怨嗟の声と、変態野郎というヤジが一部あったけれど、大多数が賞賛である歓声が、一斉に沸き立つ。


 ――かくして、今年の新入生対抗戦は終わった。


 後は、今日いっぱい行われているという、この対抗戦にかこつけたお祭りを楽しむだけとなった。

赤ずきんちゃん『練乳と卵白買って作らないと』

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