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札幌でクソゲーを攻略するお仕事ですが、残業代は出ますか?  作者: nov


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113/117

第113話 攻略開始:潜入


 木曜日、午前二時。


 作戦開始時刻ぴったりに、インカムの向こうが一気に騒がしくなった。

 氷結音。爆音。悲鳴。通知音。

 今日の騒ぎは、全部こちらの都合だ。


「第一陣、接敵しました!」


 インカム越しに、佐藤女史のよく通る声が聞こえる。


「カイザー班、右へ寄せて下さい! 雑魚は無視、レプリカボス優先ですわ!」


「了解しました」


 田辺さんの返答は相変わらず落ち着いていた。

 こういう時、声が静かな人は助かる。


 俺は創成川沿いの境界線で、スマホの電源を切った。

 画面が真っ黒になる。


 これで俺はただのおっさんだ。

 夜中に一人でススキノへ向かう、どう見ても不審者だが、少なくともシステム上は「プレイヤー」ではなくなる。


「モモカ、境界は」


「い、維持してますぅ……! でも、すごい勢いで押されてます!」


「無理はするな。抜かれそうになったら退いていい」


「は、はいっ」


 さて、行くか。


 息を整えて境界線を越える。

 スマホを切っている今の俺に見えるのは、普段より人通りの少ない夜のススキノだけだ。

 ただ、周囲の店から漏れてくる「スマホが繋がらない」「電気が落ちた」といった苛立った声で、界の異常がまだ街に居座っていることだけは分かる。


 作戦は上手く回っている。

 問題は、ここからだ。


 俺はネオンの消えた路地を南へ進んだ。

 普段なら酔っ払いと客引きでごった返している辺りも、今夜は妙に静かだ。


 足が重い。正直怖い。

 だが、スマホを点ける方がもっと怖い。


 インカムから断続的に報告が入る。


「北西ブロック制圧!」


「第二湧き、来ますわよ!」


「っ、まだ持ちます、たぶん!」


 みんなが騒がしく命を張ってくれているおかげで、俺は一人で黙々と歩けている。

 ありがたい話だ。


 南七条。

 玉宝禅寺祖院の山門が見えた。


 先日に一度見た場所なのに、今夜は別物だった。

 寺の周辺だけが妙に人気がなく、電子看板の表示もところどころ崩れている。


「……社長、そちらは」


 佐藤女史の声が割り込んだ。


「着きました。今から起動します」


「了解。死なないで」


「努力します」


 俺は山門の陰にしゃがみ込み、スマホの電源を入れた。


 起動画面の読み込みがやけに遅い。


 やがてAR画面が立ち上がり、警告が赤く点滅した。


『WARNING: System Overheat. Force close in 00:58』


 そして、AR画面の境内中央にいた。

 馬鹿でかい狼が、ゆっくりこちらを向いた。


 白銀というより、ノイズの塊みたいな毛並み。

 目だけが妙に澄んでいて、嫌な感じに賢そうだ。


「……いたな」


 右腕に『獄怨の杖+5』の重さが乗る。

 行くしかない。

 この一分を落としたら、札幌ごと詰む。

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