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札幌でクソゲーを攻略するお仕事ですが、残業代は出ますか?  作者: nov


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112/117

第112話 前夜:餃子バーにて


 作戦前夜。


 餃子バーは珍しく静かだった。

 討伐イベントの受付も終わり、明日の役割分担も決まり、後は寝るだけ……なのだが、そういう時ほど寝つけないのが社会人というものだ。


 結局、俺はカウンターの端でハイボールを舐めていた。


「さいとーさん」


 隣のルイさんが、小皿のザーサイをつまみながら俺を見る。


「ほんとに一人で入るの?」


「そういう作戦ですし」


「いや、そうじゃなくて」


 そりゃそうだ。

 作戦の説明をしているのではない。


「怖いですよ」


 誤魔化すのもだるくなって、正直に言った。


「スマホ切って、モンスターがうろついてるはずの街を歩いて、寺まで行って、そこでようやく起動。失敗したらその場で終了。冷静に考えると頭おかしいですね」


「でしょうね」


 ルイさんはそう言って、少しだけ笑った。

 笑ってくれた方がこちらも助かる。


「でもまぁ、他に手がないですから。こういうの、前の仕事でもよくありましたよ。誰もやりたがらない深夜作業を、結局いちばん暇そうなおっさんがやるやつ」


「さいとーさんの場合、暇そうなんじゃなくて引き受けちゃうのよ」


「否定できないな……」


 マスターが無言で皿を置いた。

 焼きたての餃子だ。漂う香りから今日はニンニク強めである。


「食っとけ。死なれると縁起が悪い」


「ありがとうございます」


「死ぬ前提で話さないでよ」


 ルイさんが睨むと、マスターは肩をすくめた。


「縁起担ぎだ。俺は昔から負け戦の前に美味いもんを食う主義でな」


「餃子で勝てるようになる気はしないですが」


 餃子を頬張る。

 口の中で弾ける肉汁が熱い。ニンニクからガツンと感じるパンチ、美味い。

 こういう時でも腹は減るらしい。


炎嵐(ブレイズ)って、使えそうなの?」


 ルイさんが小声で聞いてきた。


「分かりません。詠唱二十小節ですよ。独りぶつぶつ練習してても唱えきれるか分からない長さです」


「使う気あったんだ」


「一応、保険です。使えたらラッキー、使う羽目になったら地獄」


 その地獄の可能性が高いから困るのだが。


 しばらく黙って飲んでいると、店の奥で片付けをしていたマスターが振り返った。


「さいとーさん」


「はい」


「帰ってきたら、一番高いの開けてやる」


「それ、フラグじゃないですかね」


「知らん。とにかく帰ってこい」


 それだけ言って、マスターは洗い場に戻った。

 相変わらず不器用な人だ。


 日付が変わる少し前、俺は会計を済ませて立ち上がった。


「じゃ、そろそろ帰って寝ます」


「寝られる?」


「たぶん無理ですね」


「私も」


 ルイさんはグラスの氷を鳴らしてから、真顔で言った。


「さいとーさん。ススキノ、取り返してきて」


「了解です」


「あと、ちゃんと帰ってきて」


「そっちも了解で」


 店を出ると、札幌の夜気はもうだいぶ冷たかった。

 スマホの待ち受けには、創成イースト界のマップと、黒く濁ったススキノ界。


 俺の仕事は、結局いつも同じだ。

 壊れたものを見つけて、直せるなら直す。


 明日は、その一番面倒で、一番でかい案件だった。

 しかも、失敗したらやり直しが利かない類の。


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