プロローグ
『陸上部を辞めます。お世話になりました』
その言葉をきいたのは今年で何度目だろうか。
また一人の部員が、生徒が陸上部を去っていった。
今回は二年生の男の子だった。普段から活動に参加していたし、部活を含めて学校内でトラブルがあったというわけでもない。むしろ成績は良いほうだ。
理由は家庭の環境の問題というのは一人の部員から話を聞いていた。それは間違いがないそうだ。確認を含めて担任の先生に話を聞いたのだから。
「…………」
今年に入って三人目。
部員から退部届を受けとったのは今回で三人目、三度目だ。
君が監督している陸上部はどうなっているんだ、と一度二人目の時に教頭から言われた。指導の仕方が悪いんじゃないかとか、俺自信が何かをしてるんじゃないかとか、そんなことを永遠と職員室内で言われた。今では腫れ物扱いだ。
まだ夏の試合シーズンにさえ入っていないのに、どうしてこんなことになっているのだろう。
俺が何をしたっていうんだ。
俺が一体、何をしたっていうんだ。
高校の教師になって三年目。異動することなくこの高校に留まっていた俺にとって、今回の騒動と言える騒動は異動されるピンチだ。
冗談じゃない。
俺がこの陸上部にどれだけの熱を注いできたと思っているのだ。
去年の三年生はインターハイまで連れていったし、今の三年生にも俺が持つ技術全てを叩きこんできたつもりだ。きつい練習にも誰一人欠けずについてきてくれたし、音を上げる上げる生徒にはしっかりとサポートしてきたつもりだ。
相談には乗ってきたはずだ。
だからこそ部員が欠けることもなく今までやってこれたんだ。
なのにどうして。
どうして今年の春から夏にかけて、三人も立て続けにいなくなってしまうのだ。
どうしてそう簡単に部活を辞めていってしまうんだ。
辞めていった三人にはそれなりに接してきたはずだった。相談にはしっかり乗ってきたし、何か問題があれば気づくはずだ。
「…………」
ああ、畜生。
なんでこんなことになっちまった。
なんでこんなことになっちまったんだよ。