前編
今日は、私ーーエリスの結婚式だ。
私は今日のために仕立てられた純白のドレスに身を包んでいた。
純白の生地の上に幾重にも重ねられたレースには、細やかな刺繍が施されている。
一針一針、職人の手によって丁寧に仕上げられた逸品。
会場は色とりどりの花々が飾られ、招待された貴族たちが次々と姿を見せる。
国王陛下までもがご参列くださる、盛大な式となった。
新郎はクルーガン伯爵家の嫡男のサワン。
金髪碧眼の整った顔立ちに、凛とした立ち姿は誰が見ても、まさしく”貴族”と頷くほど気品に満ちている。
今日はそんな彼と、”家族”になる日なのだ。
※※※
結婚式は、和やかな雰囲気の中、無事に終わった。
この一年の婚約期間中、私は本当に様々なことを学んだ。
貴族としての行儀作法はもちろん、言葉遣いや立ち居振る舞い、さらには文字を覚えるところから始めなければならなかった。
覚えることは多く、泣いた日もたくさんあった。
それでも頑張れたのはサワンがいてくれたからだ。
サワンは忙しい中でも、折を見ては私の様子を見に来てくれた。
「エリス、よく頑張っているね」
「頑張っているエリスにご褒美だよ」
「焦らなくても大丈夫」
そんなふうに、いつも優しく声をかけてくれた。
そんなサワンに惹かれるのも当然だったのだろう。
ーーサワン様に恥をかかせないようにしなくちゃ。
私の振る舞い一つで、夫となるサワンまで悪く言われるようなことだけは絶対に避けたかった。
だから、諦めることなく学び続けた。
その甲斐あってか、今日の結婚式では大きな失敗もなく、無事に一日を終えることができた。
「エリス、サワン、結婚おめでとう。サワン、妻を大事にしなさい」
国王陛下からそう声をかけていただいた。
他の貴族たちからも、たくさんの温かい言葉をいただけた。
その後、長かった一日を終え、私は客室の寝室でサワンを待っていた。
本来ならば、夫婦の寝室へ向かうところなのだがーー。
「申し訳ございません。夫婦の寝室は、お使いいただけません」
式が終わった後、使用人からそう告げられた。
使用人から理由は告げられなかったが、サワンに後で聞けば良いと思っていた。
ベッドの端に腰かけサワンを待つ。
今日から私はサワンの妻なのだ。
私も”家族”を得ることができたのだ。
そう思うと、嬉しくてうれしくて仕方がなかった。
これから初夜だ。
初めてのことへの期待と、少しばかりの不安。
それらを胸に抱きながら、サワンが来るのを待っていた。
早く来ないかな。
そんなことを思いながら、自然と顔は微笑んでいた。
けれどーー。
待てど暮らせど、サワンは来なかった。
最初は、準備に時間でもかかっているのだろうか…と思っていた。
そのうち来る。
きっと、もうすぐ………。
そう思いながら待ち続けていたが。
結局、サワンが姿を現すことはなかった。
そして、朝。
私は眠い目を擦りながら、部屋を出た。
向かったのはダイニングルームだ。
扉を開けると、そこではすでに三人が朝食をとっていた。
義両親となったオリバー様とソフィア様が並んで座り、その向かいには、サワンが腰かけている。
「おはようございます」
私は三人に向かって、丁寧に頭を下げた。
けれど………返事がない。
三人とも、こちらを見ようともしなかった。
まるで、私などそこに存在していないかのように、三人で和やかに食事を続けている。
「………?」
私は戸惑いながら、顔を上げた。
昨日までとは、あまりに違う空気だった。
三人がこちらを見ようともしない中、尋ねるのは気が引けたが、私は意を決して口を開いた。
「あの………昨日の初夜は………」
「ああ、初夜なら済ませたよ。素晴らしい夜だった」
「え………?」
義母になったソフィアが嘲笑うように声をかけてきた。
「あら、まだこの娘気づいていないのね」
「はぁ………本当ににぶい女だな。私が貧民なんて相手にするわけないだろう。王室からお前と婚姻したら、援助金が出ると言うから結婚してやっただけだ。対外的にはお前が伯爵夫人だが、私の愛する女性はリリーラだけだ。お前はわきまえて、この屋敷では私の目に触れないところで生活しろ」
「え………?」
思わず、声が漏れた。
「リリーラ………さま?」
「ええ。リリーラはわたくしの姪でしてよ。サワンとは昔から愛し合っているの。でもね、リリーラの家は没落してしまって、サワンと結婚することができなかったのよ。可哀そうな子なの」
ーーサワン様と愛し合ってる………?
では、私は?
「リリーラは初夜で疲れて、今は休んでいる」
その言葉に、胸が締めつけられる。
昨夜、私が一人で待ち続けていた間ーー。
サワン様はリリーラ様と一緒にいたのだ。
「お前が対外的には妻とはいえ、リリーラは今後、この屋敷の女主人となる。これからはそのように接するように。リリーラを傷つけることは、私が許さんからな」
昨日、人生で初めて手に入れた”家族”に、胸がいっぱいになるほど幸せを感じていた。
なのに、
サワン様の”家族”は、私ではなかった。
リリーラ様なのだ。
私はただ、フラフラとその場を去るしかなかった。
客室に戻ると、扉を閉める。
そして、その場に崩れ落ちた。
「うっ………うぅ………」
昨日まで、あんなに幸せだったのに。
今日からは、サワンと夫婦として、そしてクルーガン家の”家族”として生きていけるのだと、そう信じていたのに………。
「どうして………」
私はその場にうずくまり、声がかれるまで泣き続けた。
※※※
私は、貧民街育ちの孤児だった。
親の顔すら知らない。
物心ついた頃には、すでに一人だった。
名前も誰が名付けたのか分からない。
気づけば、自分のことを「エリス」と名乗っていた。
残飯を漁り、小汚い建物の片隅に身体を丸めて眠る。
私と同じような境遇の子供たちが何人もおり、昨日までいた子が、朝になればいなくなっている。
死んだのか。
攫われたのか。
次は、私の番なのか………。
幼少期の私は”生きる”というだけで精一杯の生活だった。
それでも、そんな私にも、たった一つだけ憧れていたものがある。
ーー家族だ。
私と同じくらいの年頃の子供が、笑顔で両親と手を繋いで歩いている姿。
両親もまた、愛おしそうに子供を見つめている。
私は、そんな光景をーー薄暗い物陰からじっと見ていた。
ある日のことだった。
貧民街の通りで、酔っぱらった貴族の男が暴れていた。
男は意味不明な言葉を大声で喚き散らしながら、周囲に当たりちらしている。
他の人間は逃げ出し遠巻きにしているが、怖くて逃げれなかったのだろうか。
すぐ、近くに一人の子供がいた。
突然の怒鳴り声に怯え、身体を小さく震わせている。
それに気づいた男の足が、その子供へと向かった。
力任せに蹴られた子供が地面に倒れ、大きな泣き声を上げる。
「うわぁぁぁぁぁん!!」
その声を聞きつけた母親が、すぐさま駆け寄ってきた。
そして、倒れた子供を抱きしめるようにその小さな身体を自分の腕で覆った。
「申し訳ありません………! すぐにどきますので!」
母親は子供を抱き上げ、逃げようとするが、男が母親ごと蹴りつけ逃げられない。
それでも、母親は震えながらも子供を離さなかった。
男が蹴りつけても。
何度、地面に倒されても。
大人の女性でも、さぞ怖かっただろう。
痛かったであろう。
それでも、母親は子供を見捨てて逃げようとはしなかった。
子供は母親の腕の中で泣き続けている。
「お母さん………!」
その声に応えるように、母親は我が子をさらに強く抱きしめた。
母親は最後まで子供を庇い続けた。
そして。
やがて、その身体から力が抜けた。
それでも、最後まで我が子を包みこんでいた。
母親はそのまま息を引き取った。
私は薄暗い物陰から、その一部始終を見ていた。
怖かった。
でも、それ以上に、羨ましかった。
母親は、最後まで自分の子供を守ったのだ。
自分の命よりも、その子の命を選んだのだ。
その光景は、私の心に深く刻み込まれた。
ーーっ、これが家族なのか。
漠然とうらやましいと思っていた光景が、どうしても欲しいものに変わった。
私も、そんな”親”が欲しいと思った。
そして、子供を愛したいと。
家族が欲しい………。
私も、誰かと手を繋いで歩いてみたかった。
大きな家に住みたいわけではない。
でも、帰ったら「おかえり」と言ってくれる人が欲しかった。
ーー自分の命を捨てても良いほど、大切な人が欲しかった。
きっかけは、貧民街にほど近い平民街に魔獣が出没したことだった。
その日、私はいつものように残飯を探して街を歩いていた。
すると、突然、遠くから悲鳴が上がった。
「魔獣だ!」
人々が一斉に逃げ始める。
私はそれまで魔獣を見たことが無かった。
ちょっとした好奇心で、逃げる人々から外れ、悲鳴の方に足を向けてしまった。
その魔獣は、大人二人分はあろうかという巨大な体をしていた。
牛のような太い四肢に、豚を思わせる鼻先。
鋭い牙を覗かせた口元からは、粘ついた涎がだらだらと垂れていた。
さらに、その背には不釣り合いなほど大きな翼が生えている。
魔獣の目前には、一人の男がいた。
その男は、身分を隠してお忍びで街を訪れていた第三王子だった。
周囲には騎士服ではない男たちが魔獣に剣を向けている。
彼らは、第三王子が密かに連れてきていた護衛の騎士たちだった。
「殿下!お下がり下さい!」
さらに、今まで周囲に紛れていた騎士たちが一斉に動き、次々と魔獣へ切りかかる。
しかし、騎士たちが吹き飛ばされる。
魔獣の分厚い身体には剣でも魔術でも、傷をつけることは難しいようだった。
明らかに騎士たちの方が押されている。
私は、少し離れた場所からその光景を見ていた。
そのとき、魔獣の赤く濁った目がぎょろりと動いてこちらを見た。
…目が合ってしまった。
「………っ!」
身体が凍り付く。
魔獣は、騎士たちの相手をやめ、ゆっくりと私のほうへ身体を向けた。
「いや……」
足が動かない。
怖い。
魔獣が一歩私に近づいた。
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
「っ来ないで!!!」
ーーードンッ!!
凄まじい魔力が、私を中心に一気に爆発した。
凄まじい魔力の奔流が辺りを駆け抜け、土埃が一面に舞い上がった。
大地が………空気が………震える。
やがて、舞い上がっていた土埃が少しずつ晴れていく。
そこにいた全員が息を呑んだ。
先ほどまで、あれほど凶暴に暴れていた魔獣が、消えていたのだ。
四本の足先だけを残して………。
何が起きたのか分からず、ただ茫然と立ち尽くしていると、少し離れたところから、一人の青年がこちらに歩いてきた。
先ほど、魔獣に襲われ、わずかに怪我をおった第三王子だった。
その表情には、子供のような喜びが浮かんでいる。
そして、私の前まで来ると、嬉しそうに笑った。
「ありがとう!君、すごい魔力だね!!」
「………え?」
それからは、あれよあれよという間に王宮へ連れていかれ、魔力検査を受けることになっていた。
検査を受けると、エリスを除くその場にいた者全員が、目を剥く。
測定を担当した者が声を震わせながら告げた。
「これほどの魔力量、属性は………記録にありません」
どうやら私は、とんでもない魔力を持っていたらしい。
過去に例を見ないほどの、凄まじい力。
そこからはさらに話は加速し、気が付けば私は王命でサワンと婚約していた。
孤児だった私は自分の正確な年齢を知らなかった。
そこで、魔獣に襲われたあの日を、私の十五歳の誕生日ということにした。
そして、その一年後、昨日はサワンとの結婚式だったのだ。
※※※
泣いて、泣いて、泣いてーー。
どれほど泣いたのか、もう分からない。
涙が枯れるほど泣いて、目も鼻も痛くなるほど泣いて、それでも涙は止まらなかった。
ーーけれど、いつしか涙もでなくなって。
悲しみも、絶望も、愛情も、すべて吐き出してしまったような気がした。
そして最後に残ったのはーー。
憎しみだった。
サワンもオリバーもソフィアも、まだ見ぬリリーラも。
みんな憎い。
あれほど、欲しかった”家族”
どうしても欲しかった温かな居場所。
夢を見せるだけ見せておいてーーそれを跡形もなく奪っていった。
ようやく手に入れたと思った幸せを、いとも簡単に踏みにじった。
憎くて憎くて仕方がない。
次の日から、私はクルーガン家の別館へと追いやられた。
そこはクルーガン家の三代前の当主が、かつて妾を囲っていた場所だった。
本館から少し離れた場所にひっそりと建つ、こじんまりとした家。
妾が亡くなってから、一度もまともに掃除などされていないのだろう。
部屋には埃が積り、天井の隅には蜘蛛の巣が張り巡らされ、窓も長いこと拭かれていないのか、外の景色がぼんやりと霞んで見えた。
そこが、私に与えられた新しい居場所だった。
だが、一つだけ救いがあった。
部屋の一室を埋め尽くすほどの大量の魔術書があったことだ。
壁一面の本棚。
古びた本棚だけでは収まりきらなかったのか、床にも本が積み重ねられている。
紙は少し黄ばんでいるものの、丁寧に扱われていたことが分かる。
初級魔術の入門書から聞いたこともないような高度な魔術について記されたものまである。
かつてここに住んでいた妾はきっと、魔術が好きだったのだろう。
それから私は、狂ったように魔術書を読み漁った。
朝から晩まで、本を読み、書かれている魔術を試し、失敗すればもう一度読み直す。
本を読み、訓練し、気が付けば日が暮れている。
時間だけは、いくらでもあった。
食事は毎朝、使用人が一日分をまとめて運んでくる。
固くなったパンと、具のない薄いスープ。
おそらく、本館で余ったものなのだろう。
身体は、だいたい三日に一度ほど、近くの井戸水を使い払拭する。
だが貧民街よりは断然マシだった。
私の頭にあるのは、復讐だけだった。
いつか必ずーー。
私が味わった絶望を、同じように味わわせてやる。
あの人たちが幸せの絶頂にいるその瞬間に………叩き落としてやる。
※※※
春に結婚式を挙げてから、季節は巡り、いつの間にか冬になっていた。
その間、私はひたすら魔術を学び続けた。
そして、一つの大変便利な魔術を会得した。
ーー遠見の魔術。
遠く離れた場所へ、自分の視界と聴覚を飛ばすことができる魔術だ。
距離がどれほど離れていても、その場所で何が起きているのかを知ることができる。
ただし、欠点もある。
遠見の魔術を使っている間、私自身がいる場所では目も耳も使えなくなるのだ。
何があっても、見えないし聞こえない。
だから、使うときは必ず一人でいる必要がある。
けれど、今の私にはそれでも十分だった。
今の私に必要なのは力と情報だ。
何も知らず、力が無いから踏みつけられる。
遠見の魔術を会得してからの私は、昼間は遠見の魔術を使い、様々な場所へ意識を飛ばして情報を集める。
そして、夜になれば魔術書を開く。
ある日、いつものように遠見の魔術を使い、サワンの動向を探っていた。
遠見の魔術で見えたのは小さな応接室だった。
部屋の中央には国王陛下が椅子に座り、その傍らには第三王子、少し離れたところには宰相が控えている。
そして、部屋の隅には護衛の騎士たちが静かに立っていた。
「陛下、ご報告があります」
そんな場所でサワンは国王に向かって報告していた。
「エリスとの間に子ができました。来年、秋ごろ出産予定となります」
ーー私との間に?
私は、ずっとこの家で一人でいた。
サワンが私のところに来たことなど、一度もない。
私とサワンの間に子供ができるはずなどないのだ。
けれど、そんなことなど何も知らない人たちが、気づくはずも無く………。
「それは本当か!?」
「おめでとう!」
「これはめでたいことですな」
部屋の空気が、一瞬にして祝福に包まれた。
皆が嬉しそうに笑っている。
その光景を、私はただ遠くから見つめていた。
それから、いくつかの当たり障りのない話を終え、サワンが応接室を後にした。
扉が静かに締まる。
ーーその瞬間。
先ほどまでの和やかな空気が、まるで嘘だったかのように消えた。
しばしの沈黙。
そして、第三王子が口を開いた。
「………よく、貧民などと子作りできますよね。今でこそ、多少は見られるようになりましたが…出会った当初なんて、ひどいものでしたよ。ガリガリに痩せていましたし、服も身体も薄汚れていて…たいがい臭かったんですよ」
「お前がそういうから、貧乏伯爵家に多額の支援金まで出して娶らせたのだろう。お前の妻にしておけば、大きな魔力を持った子が王家に生まれたというのに」
「絶対に嫌ですよ」
「まぁまぁ」
宰相が、国王と第三王子をなだめるように口を挟んだ。
「おかげで、サディアール商業国を攻撃する手段ができたと思えば良かったではないですか。孤児であれば、守るべき人間などいないでしょうから『隣国を攻めろ』と命じたところで、嫌になれば、その魔力を使って逃げ出してしまうかもしれません」
宰相は、薄く笑った。
「ですが、今は違います。夫がいる。そして、子供もいる」
「ああ。大切なものができた人間ならば、扱いやすい。夫や子を人質にしておけば、安心して力を使わせることができるからな。ようやく………目障りな隣国を倒せそうだな」
その声には、喜びが滲んでいた。
「来秋か………。では、子が産まれたらすぐに連れて来させよう。そして、こちらで隠す」
国王の言葉に宰相が静かに頷いた。
「それで、エリスは逆らえなくなるでしょう」
「ならば、今から出兵の準備をせねばな」
その言葉を最後に、部屋には戦の話が飛び交い始めた。
私は、遠見の魔術越しに、その一部始終を聞いていた。
その晩、別館の静かな部屋で、私は考え込んでいた。
私を戦争の道具にするつもりの王室。
来秋には隣国へ戦争を仕掛ける。
「………愚かね」
私の遠見の魔術に気づくことすらできない。
妨害もできない。
この国の王宮魔術師ともあろう者たちが、この程度なのだ。
ならば、もう怖いものなどない。
来秋までに、魔術をさらに極めて隣国へ行こう。
「あはは。私がいなくなるだけで、復讐になるなんて………なんだ。簡単だったのね」
それからの私は、情報収集と魔術の訓練、そして研究に明け暮れた。
遠見の魔術で各地の様子や王宮、貴族たちの動向を把握する一方、新たな魔術の習得に励んだ。
時には、魔術書に記された理論をもとに独自の魔術を研究する。
私は、魔力量が多いだけでなく、扱える属性も多岐にわたっているからか、魔術そのものとの相性が非常に良かったらしい。
一方、王宮では密かに戦争の準備が進められていた。
表向きは平穏を装いながら、兵の招集や物資の調達など、着々と出兵に向けた手配が進んでいる。
そして、クルーガン伯爵家ではーー。
産まれてくる子を心待ちにしているように、浮き立っている。
出産を間近に控え、家中が明るい空気に包まれていた。




