2
リナとオルグの家は、玄関から入ってすぐに暖炉を囲む居間があり、その奥には小さな台所がある。寝室が二つと、まだ使われていない小部屋、屋根裏があり、裏口から出ると、小さな畑や薪置き場、その隣には道具や毛皮を手入れするための小さな作業小屋があった。
初めのうちは寝室は一つの予定だったが、リナが一緒に暮らすことになったので、村の男たちが家を建てる時に二つに増やしてくれた。
いつかオルグが番をもったら、ここでその人と一緒に暮らし子供を育てるための家になるだろう。その時は、リナはこの家を出ることになる。自分もいつかは番を見つけ、家庭をもつのだろう。でも今は、オルグとの暮らしがこのまま続けばいいと思っていた。
夕食は母に伝えた通りの、シチューと鹿肉の香草焼き、すりつぶした芋に木の実の粉を混ぜて焼く平焼きパンを作った。
できたての温かい料理を器に盛り、食卓に並べる。
呼んでおいた兄は、椅子に座っていた。
「今日はお疲れ様。たくさん食べてね」
「うまそうだ」
オルグは香草焼きを一口食べ、「うまい」と琥珀色の瞳を細めた。
「よかった」
リナも笑ってシチューを口に運ぶ。
食事をしながら、今日の出来事を話した。
「お父さんもお母さんも元気そうだったよ」
「そうか、よかった。俺はしばらく寄ってないな」
「たまには行ってあげたら? 喜ぶのに」
「お前はよく会ってるんだろう、それなら俺の無事も伝わってるはずだ。それに見かけた時は軽く話してる」
「私から話を聞くだけじゃなくて、兄さんとの時間もゆっくりとりたいと思ってるんじゃないかな」
リナは両親を思い浮かべ、小さく笑った。
両親とオルグは、リナとは血が繋がっていない。でも、リナにとっては、物心ついた頃からずっと家族だった。
リナが養い子だと知ったのは、まだ子供の頃だ。ふいに村の人がこぼしたのを聞いて、母に聞いたら教えてくれた。リナの幼い頃に実の両親が亡くなり、実母の友人である今の母親の夫婦が育ててくれたのだ。
三つ違いのオルグは、特にリナの面倒をよく見てくれた。小川で遊んだり、かくれんぼしたり。
男の子が狼になって遊ぶような、遠吠え競争や、狩りごっこはリナにはうまくできなかったので、小川に葉っぱの舟を流したり、珍しい花を見つける遊びにも付き合ってくれた。
村の男の子にちょっかいを出された時は、その子とやりあって助けてくれたりもした。
両親に実の娘のように育ててもらい、オルグも実の妹のように大切にしてくれて、リナは感謝している。
両親とオルグは、リナにとってとても大切な家族だ。
食事が終わり、リナは片付けに入った。
オルグは裏の作業小屋へ向かい、鹿の毛皮をなめす作業の続きをしている。今回の狩りで兄が仕留めた鹿の毛皮だ。一晩おいて、明日続きをできるところまで処理するらしい。
片付けと明日の食事の準備を終えたリナは、湯を沸かして二人分の葉茶を入れた。作業を終えて戻ってきたオルグに木の器を渡す。
暖炉の火がパチリと音を立てる。二人はしばらくだまってお茶を飲んだ。
「今日は縫い物は進んだか」
「ううん、あんまり。畑の手入れもしてたから」
「毛皮が仕上がったら、俺も畑をするよ」
「ありがとう」
リナは笑って頷いた。
「明日はセフィの所に行ってくるね。ちょっと話してくる」
「わかった。帰りが遅くなるようなら迎えに行く」
「大丈夫だよ。日が沈む前に帰るから」
「……そうか」
葉茶を飲み終わる頃には、暖炉の火も小さくなり、眠る時間になっていた。
オルグが外に出て、夜風に耳を澄ませる。狼獣人の男は嗅覚や聴覚に優れ、遠くの物音にも敏感だ。異変がないか確かめてから、家の中に入ってきた。
「おやすみ。兄さん」
「ああ、おやすみ」
オルグがいつものようにリナを抱きしめ、リナもその背に腕を回した。
それぞれの寝室に入り、リナはベッドに体を沈める。
今日も兄さんが無事に帰ってきてよかった。
そう思いながら、瞳を閉じた。




