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森の中に、リナたちの住む集落はあった。
周りを木々に覆われたその場所には、木でできた家々が建ち、百人ほどの獣人たちが住んでいる。
リナたち狼獣人は人の姿で生まれるが、男であれば、幼い頃から狼の姿に変化することができた。それは森にいる普通の狼よりも大きく、成人した男であれば、人を一人乗せて走れるくらいだ。
女も変化できたらいいのに、そうすれば森の中を、兄さんと一緒に狼の姿で駆け回ることができる……リナは子供のころからそう思っている。
森には鳥やウサギ、鹿などの動物がいて、男たちは狼の姿で狩りをする。木の実や薬草もとれ、その収穫は村人たちが生活するための大切な恵みだ。
森の中に住む狼たちは、村の周辺には近づかない。自分たちよりも強い者たちがいることを知っているからだ。
村は、男たちと森に守られていた。
夜が明ける頃に目を覚まし、太陽と共に活動する。そして月の静けさに身をゆだねて眠る。
それがリナたちの日常だ。
窓から聞こえる人々の声に、縫い物をしていたリナは手を止めた。そして急いで家から出る。
村の入り口に向かうと、早朝から狩りに出ていた男たちが帰ってきていた。冬が明けて初めての大きな狩りだ。冬の間、干し肉を主食としていた村人たちも心待ちにしていたのだろう。持ち帰られた獲物の周りには、人々が集まっていた。
リナは、黒い短髪の、背の高いがっしりとした体格の男に目を向ける。
「オルグ兄さん!」
リナはオルグのそばに行き、腕や足を見回した。そしてほっと息をつく。怪我はないようだ。
各家庭でウサギなどの小さな獲物は十日間で三~四回は狩るけれど、今回のような複数人で大きな獲物を狙う狩りは、数十日に一回だ。それに冬の間は大規模な狩りはしない。久しぶりだから、心配していた。
「おかえりなさい、兄さん」
「ああ、ただいま。変わったことはなかったか?」
「うん、私のほうは何もなかったよ。兄さんも怪我とかしてない?」
「俺も大丈夫だ」
リナが微笑むと、オルグも小さく笑みを作った。精悍な顔つきが、笑うと優しくなる。リナは安心して、さらに笑みを深めた。
獲物は鹿三匹、ウサギ五匹だった。
「立派な牡鹿ね」
この季節は子供を産む雌鹿は狩らないと、以前聞いたことがある。
「一番大きい奴はオルグが仕留めたんだぜ」
近くにいた男が、リナにそう言った。
赤く染まった鹿の喉を見る。あそこにオルグが牙をたてたのだろう。
成人間近の若い娘が、憧れを宿したような目でオルグを見つめている。リナは兄の腕に自分の腕を絡めた。
「私の兄さんなんだから」
誰にともなくそう言うと、オルグは苦笑し、リナの亜麻色の髪を撫でた。
村の子供たちが獲物の周りに集まってきて、すごいすごいとはしゃいでいる。
女たちも新鮮な肉に喜んでいるようだ。
これらはこれから村の人たちで分け合うのだ。
「お母さんたちにも届けてくるね」
リナは受け取った肉を布で包んだ。
「ああ、頼む」
オルグは解体を手伝うためその場に残り、リナは数日ぶりに会う両親の住む家に向かった。
「あらリナ、肉を持ってきてくれたのね。ありがとう」
「うん、兄さんも無事帰ってきたよ」
「そうなの。オルグも元気でやってるようね。よかった」
「今年は大物だったようだな」
父が部屋から出てきた。
「兄さんが仕留めたの」
リナは誇らしく答えた。
「今晩はシチューと、兄さんの好きな肉の香草焼きを作るつもり」
「あら、いいわね」
母が笑う。
オルグと暮らすようになってから、六回目の春を迎える。
オルグが成人して独り立ちし、一人で暮らすことになった時、リナは兄と離れるのがどうしても嫌だった。毎日会えないなんて考えられなくて、兄と両親に泣きついた。兄さんの料理や洗濯、世話は私がするから一緒に暮らしたい、そう言って。
両親は困っていたが、オルグが、
「リナを守るのは俺だ。リナがいいなら一緒に暮らそう」
そう言ってくれて、それから二人で暮らしている。
「今度、友達に教えてもらったお菓子を作って持ってくるね」
「嬉しいわ。でもリナ、あなた頑張りすぎてない? 気楽にやりなさいよ」
「平気だよ。兄さんも色々と手伝ってくれるし」
「オルグにも、無理をしないように伝えてちょうだい」
「うん、わかった」
「また、いつでもおいで」
「うん、またね」
リナは肉を置くと、母と父に手を振って家をでた。




