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見知らぬ道
雨の日は好きだった。
理由を聞かれると困る。
雨音が好きとか、紫陽花が好きとか、そういう答えは後から考えたものだ。
たぶん私は、雨の日の静けさが好きだった。
車の音も、人の声も、少し遠くなる。
世界全体に薄い膜がかかったみたいに。
だから雨の日は散歩をする。
仕事を辞めてから、その習慣ができた。
晴れの日は家にいる。
でも雨の日だけは外へ出る。
傘を差して、あてもなく歩く。
どこへ向かうわけでもない。
ただ歩く。
今日は六月の始めだった。
朝から細い雨が降っている。
川沿いの遊歩道を歩き、公園を抜けて、住宅街へ入る。
見慣れた道だった。
何度も歩いた道だった。
だから、その路地に気づいたとき、少しだけ足を止めた。
路地は細かった。
両脇に石造りの建物が並び、雨に濡れた石畳が奥へ続いている。
こんな場所は知らない。
少なくとも、この辺りには無かったはずだ。
私は傘の柄を握り直した。
引き返そうとは思わなかった。
むしろ少し嬉しかった。
散歩の途中で知らない道を見つけると、ワクワクする。
私はその路地へ足を踏み入れた。




