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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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98/347

98話

翌朝、ギルドの扉を潜ると、昨日のダンスや大剣の話題など露知らず……冒険者たちの関心は、今まさに流行の絶頂にある【転生小説】や【ラブコメ小説】に移っていた。

「おいリルド! お前、もし別の世界に生まれ変わるとしたらどんなチカラが欲しい? やっぱり無双系か?」

「それとも、美少女に囲まれるラブコメ展開か!?」

屈強な冒険者たちに囲まれ、リルドは困ったように笑いながら答えた。

「あはは、僕は今のまま、のんびりお散歩ができるくらいのチカラがあれば十分かな」

そんな彼なりの答えを返しつつ、リルドは掲示板の端で一枚の奇妙な依頼書を見つけた。

『ゴブリンの集落で廃品回収』

「……集落でお掃除かな? 面白そうだね」

リルドはその札を剥がし、受付へと持っていった。

「おはよう、受付さん。今日はこれに行ってくるよ」

「おはようございます、リルドさん。あ、それは先日リルドさんが仲良くしたゴブリンたちの集落からですね。彼ら、リルドさんの影響で『身の回りを綺麗にしたい』って言い出したみたいで。……本当にリルドさんの影響力は不思議ですね」

リルドが森の奥にある集落へ向かうと、以前助けたゴブリンが「ギギッ! 待ってた!」と嬉しそうに出迎えてくれた。

「やあ、みんな。お掃除のお手伝いに来たよ」

リルドは手際よく作業を開始した。かつて極めた「鑑定」のスキルを使い、ただのゴミと、まだ直せば使える「廃品」を仕分けしていく。壊れた鍋や曲がったナイフを、指先で少し整えるだけで、それは立派な道具へと蘇った。

ゴブリンたちも、リルドの真似をして一生懸命に自分の寝床を整えている。

「(……ふふ、みんなで綺麗にするのは、お散歩の後の片付けみたいで気持ちがいいね)」

帰り道の奇妙なコミュニケーション

集落をピカピカにして、廃品の入った袋を背負って帰り道を歩いていると、前から別のパーティの冒険者たちとすれ違った。

すると、彼らはリルドの姿を見るなり、代わる代わる歩み寄り、

「お疲れさん!」

「よくやったな、リルド!」

と言いながら、リルドの頭や肩、背中をぽんぽんと軽く叩いて通り過ぎていった。

「えっ……? えっ、なになに?」

リルドは困惑し、その場で立ち尽くした。どうやら、例の「ダンスの相手」をした男が、『あいつの身体を叩くと幸運になれる』という根も葉もない噂を流したらしい。当の本人は、ただ「良い筋肉だった」という意味でぽんぽんしたつもりだったのだが……。

夕刻、リルドは少し肩をすくめながらギルドに戻った。

「ただいま、受付さん。廃品回収、終わったよ。……なんだか今日は、いろんな人にぽんぽんされて、少し疲れちゃったな」

「おかえりなさい! ……あはは、例の『幸運の美青年』の噂ですね。リルドさんがお掃除をしてくれたおかげで、ゴブリンの集落が平和になるなら、それは確かに幸運かもしれません」

受付嬢がクスクスと笑いながら、報酬の銅貨を手渡してくれた。

「あはは、ただのお掃除だよ。……幸運になれるなら、次は猫さんをぽんぽんしてあげようかな」

リルドは満足げに微笑むと、夕陽に染まる街路を抜けて帰路についた。

「さて、僕も今夜は、ゴブリンたちが綺麗になった部屋でよく眠れるよう祈りながら、温かいハーブティーでも飲もうかな」

万年Fランク冒険者の日常は、無自覚な幸運を振りまきながら、穏やかに更けていく。


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