恩人に生まれなんて関係ない!
日付:地球歴 残存記録 第181日
場所:アルカディア帝国 最前線防衛基地「セクター1」、東に500m地点
「ザビーダ少尉。こちらでございます。」
先行していた急遽選定した救助部隊の二等軍曹の兵士が我らを案内している。
私は救命士たちを連れて、さらに私の実家である男爵家から付き従えてきた従者達を連れて急いでこちらに来た。
従者達も戦闘スキルを持ち、医療スタッフとしての経験もある。
「ただ、パイロットに問題がございまして…」
「なんだ?問題とは。」
「ご覧になっていただければ、おわかりになるかと。」
私達が墜落現場に着くと、機体はほとんど損傷を受けることなく、不時着していた。
胴体着陸した割には機体に損傷が殆ど見受けられない。近くに車輪があるのを見ると上手く車輪で着陸した上で壊れたうえでも損傷が最小限になるように着陸したのだろう。
相当な凄腕パイロットなのだろう。
だが…そんなパイロットなのなら、名前を聞いたことがあっても良いはずだが…?
機体のそばにパイロットが横たわっていた。
そのものの着ている服を見て、軍曹が言っていた意味を理解した。
「奴隷部隊…」
「そうなんです。この者は奴隷部隊のもの。奴隷でありながら、こちらの機体を勝手に運用したのです。このようなもの助ける価値もありません。」
そう言って軍曹はその場を去ろうとした。
それがなんだ?奴隷だから?あの場で誰も何もできなかった。私でもあの場を切り抜けることはできなかっただろう。
正規のパイロットだったとしても、撃墜されるのがオチだ。
長年パイロットとして生きてきた。数多くの戦場を経験し、数多の強敵たちと渡り合ってきた。それでも今回の敵は今で以上の強敵だった。
にも関わらず…
この者は、1人で全て撃墜した。
それが全てではないか?
奴隷?それがなんだ。我々の仇を取ってくれたのだ。そんなことに見捨てることにはならん。
「お前達…この立派な青年をこの場でできうる限りの応急処置をした後、司令室に連れて帰るぞ。直ぐに取りかかれ!」
「畏まりました。」
「お任せを…ご主人様。」
私の発言に軍曹は呆れたように腕を広げながらこちらに語りかけてきた
「正気ですか?奴隷のような卑しい身分の者に処置するなど…こやつらは人ではありません。家畜と同じだ。助ける価値などない!」
俺は口よりも手が先に出ていた。
俺は軍曹を殴り飛ばしたあと、無理やり胸ぐらん掴んで立ち上がらせた。
「家畜…?なら、牛や豚があの航空戦力を撃墜できるとでも言うのか?こちらの航空部隊を全滅させたあの部隊を!?」
「それは…言葉の綾で。」
「言葉の綾だと?お前ならあの精強な敵航空戦力を撃滅できたとでも言うのか?」
「ですから…言葉の綾だと申しておるではありませんか。」
「彼が奴隷だからなんだ?彼は我々南部方面軍を救ってくれたのだろうが!その恩人が奴隷だったからなんだ!?恩人に生まれなんて関係ない!」
「その言葉は伝統ある帝国に対する冒涜ですぞ!」
「貴様こそ、たかだか二等軍曹の分際で少尉である私に立ちつくとはどういう了見だ?あぁ?この事も含めて総司令にはご報告させてもらうからな?覚悟しておけ。」
俺は彼を突き飛ばすと、救助している者たちのもとに駆け寄った。
「どうだ…助かりそうか?」
「意識はありませんが。命に別状はありません。弾も上手く内臓からは逃れているようです。」
従者の言葉に俺は再度機体を確認した。
見覚えのない機体だ。最新機ではない。どちらかといえば旧式に見える。支援ドロイドも搭載していない。エネルギー弾による熱傷も見られる。だが、大損害と言える程のものでもない。
被害が最小限になるようにしていたのだろう。ドロイドによる支援もなしで、マニュアル操作であれだけの曲芸飛行をやってのけたのか…
「天才か…」
俺はその青年の顔を見つめた。血と汗で汚れているが、その目は閉じていても、何か強い意志が宿っているように感じられた。帝国では、奴隷は機械のように扱われる。思考する権利も、夢を見る権利もない。ただ命令に従い、死ぬまで働くだけだ。
だが、この青年は違う。彼は操縦桿を握り、敵機を撃墜し、我々を救った。それは命令ではない。彼自身の意志だったのだ。
「彼の名前は?」俺は従者に尋ねた。
「記録によると…『第121攻撃部隊…認識コードND-57』となっています。個人名はありません。」
コード。ただの識別番号だ。俺は胸が熱くなった。この青年には名前がない。彼の功績も、歴史に記されることはないだろう。奴隷の戦果は、すべて主人の名誉として記録される。
「ND-57…」俺は低声で繰り返した。
「いいだろう。彼には新しい名前が必要だ。我が男爵家の名誉を守り、帝国を救った者として。」
救助チームが青年を担架に載せ、基地へ向かう準備を始めた。俺は最後に機体を見回した。旧式の機体は、無数のエネルギー弾の痕を残していたが、核心部分は無傷だった。まるで、パイロットが機体を自分の体のように扱い、最後まで守ったかのようだ。
「少尉、総司令部への報告は?」
軍曹がまだ不服そうに尋ねた。
「報告はする。だが、内容は変える。」
俺は軍曹を睨みつけた。
「奴隷部隊のコードND-57は、敵航空部隊を単独で撃滅し、セクター1防衛基地の危機を救った。その功績は、帝国の歴史に刻まれるべきである。」
軍曹は顔を歪めたが、反論できなかった。俺の決意は固い。この青年が奴隷であろうと、彼の行動は真の英雄のものだ。俺は彼を司令室に連れて行き、総司令に直接話すつもりだ。たとえそれが帝国の伝統に反するとしても。
担架が動き始めた。青年はまだ意識がないが、その手は握り拳を少し緩めていた。俺はその手を見て、彼が操縦桿を握っていた時の力を想像した。
「天才か…」俺は再び呟いた。
「いや…それ以上だ。彼は帝国の希望だ。」
奴隷という身分に縛られながら、これほど偉大なことを成し遂げた。もし帝国が彼のような者が無数にいるのなら、未来は変わるかもしれない。私はその可能性を信じたい。
基地への道を歩きながら、俺は考え続けた。この青年を救うことは、単なる救助ではない。それは帝国の未来を救う第一歩かもしれない。俺はその責任を感じ、背筋が震えるほど興奮していた。
日は暮れ、辺りは暗くなっていたが、俺の心には一筋の光が差し込んでいた。ND-57というコードに宿る、未知なる可能性の光だ。




