賞金首
#日記:地球歴 残存記録 第196日
#場所:独立星系連合 主要拠点惑星 『エレーナ』ガデール共和国首都 『カラサクス』近郊
「クソッ…まさか…あの賞金首が奴ら側についていたとは…」
「金で動く傭兵ですからな。金払いの良い独立星系連合なら当然とは言えますが…」
「腕だけはいいからな。パイロットとして。腕だけは。」
「『スカイタロン』救出作戦は終わっているはずだ。彼らを呼べ。奴にはエドワード二等軍曹を当てねば!」
通信機から聞こえていた陸軍将校の焦りと憤りを思い出した。俺は操縦桿を握りながら、眼下に広がる敵首都カラサクスの不気味な輝きを見下ろしていた。都市の輪郭は、帝国の支配下にある他の惑星とは異なり、独立星系連合の技術による幾何学的な光の網が覆い、まるで巨大な捕獲装置のように感じられる。
「賞金首ムッセオ…だれですか?」
私の問いかけに、ルーク最上級曹長の声が、いつもの冷静さを保って応えた。
「あぁ。エドワードは知らなくて当然か。」
俺達は、陸軍からの緊急救援要請に応じ、敵首都へと飛び立っていた。ザビーダ大尉とその他の陸軍生存者は既に帰投させ、ルーク曹長と『スカイタロン』の精鋭たちが、この危険な任務の核心へと向かっている。
俺は通信機を通じてルーク曹長と話を続けながら、戦闘機のセンサーで周囲を注視していた。
「ムッセオは元々帝国軍のパイロットだった。あぁ…南部方面軍じゃないぞ。確か…北部だったけな。農民の生まれだったんだが、類まれな操縦技術ですぐに正規部隊入となった。腕の良い奴でいずれはエースパイロットになるのではとも言われたんだ。」
ルーク曹長の言葉は、過去の記憶を掘り起こすような重みを持っていた。私は彼の話に耳を傾けながら、自分自身の過去——地球が帝国に征服され、私が奴隷として売られた日——を思い出していた。196日。正確に数え続けてきた日々。そのそれぞれが、復讐と生存の狭間で刻まれていた。
「なら何で、傭兵なんですか?」
私の疑問は、単なる好奇心ではなく、この敵を理解したいという戦士の本能から湧き上がっていた。敵を知らなければ、勝つことはできない。
「ある時、彼の功績を妬んだ上官たちが彼を孤立させた。敵の最前線でな。結果として彼は生還した。上官たちも処罰はされたが減給や数日間の出仕停止など部下を殺そうとしてきた奴にしては甘い罰だった。それを奴は訴えたが、聞き入れてもらえず、帝国の軍体制に嫌気が差した奴は、その上官らを殺害して逃亡した。」
ルーク曹長の説明は、帝国の腐敗と不公平を露わにしていた。俺は自分の拳が自然に握り締められるのを感じた。帝国の支配下で、私たち地球出身者が経験した理不尽は、ムッセオの苦悩とどこかで重なっていた。
「それで賞金首なんですか?」
「その後も北部方面軍を執拗に狙い、当時の上層部のほとんどはやつの暗殺や襲撃によって亡くなっている。その凶悪さと執拗さに対して多額の賞金がかけられたってわけだ。」
…そいつの気持ち分からんでもないけどな。俺だって帝国を滅ぼしてやりたい気持ちはある。平和な日常を壊されて奴隷に落とされた…あれから196日間、今だって死ぬかもしれない作戦に参加しているわけだが。
俺は窓外の星空を見つめながら、内心でそう呟いた。この広大な宇宙の中で、私たちはそれぞれの理由で戦っていた。ムッセオは復讐のために。俺は自由と家族のために。しかし、その根底には、帝国という巨大な悪に対する共通の憎しみが流れていた。
捉えようによっては良かったとも言える。今の地球の人々のほとんどが奴隷。俺は奴隷から解放され、少なくとも南部方面軍に於いては実力が認められている。
この考えは、俺に一時の安堵を与えた。しかし、それはすぐに責任の重さに変わった。認められているということは、より多くの危険と期待が背負わされるということだ。
これで帝国軍全体から認められ、貴族になれでもしたら、地球に帰り、家族を奴隷から解放したうえで、大勢の綺麗な女性方をメイドに。イケメン達を執事に迎えて悠々自適な生活を送れる…かもしれない。
その夢想は、疲れた心に一時の甘い幻影を描いた。しかし、現実は厳しかった。眼下のカラサクスは、俺たちの目前の敵であり、この夢想を実現するためには、まずここでの戦いを勝ち抜かねばならない。
その時の資金に使わせてもらうとしよう。
俺はムッセオの賞金首としての価値を考えた。彼を倒し、その賞金を手に入れることは、私の未来の計画にとって大きな一歩となるかもしれない。しかし、それは単なる金銭的な計算ではなく、彼のような強敵を倒すこと自体が、俺の成長と証明に不可欠だった。
「ルーク最上級曹長。ムッセオは俺にお任せください。皆さんは、地上部隊の援護を。」
俺はは決意を固め、通信機にそう伝えた。自分の能力と運命を賭ける覚悟だった。ムッセオとの対決は、単なる任務以上のものになるだろう。それは、帝国の過去の罪と、現在の俺たちの抵抗が交差する瞬間となる。
「おっしわかった!くれぐれも無理はするなよ?」
ルークさんの返事は、部下への信頼と警戒が混ざったものだった。俺は彼の忠告を心に刻みながら、戦闘機のエンジンを最大出力に調整した。
「わかってますよ。こんなところで無駄死にはごめんですので。」
俺の答えは、軽い口調だが、その裏には生死を賭ける決意が潜んでいた。カラサクスの上空で、ムッセオとの邂逅を待ちながら、戦闘機のコントロールを微調整し続けた。この宇宙の闇の中で、二つの復讐者の軌道が、今、交わる瞬間へと近づいていた。




